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友人
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「あれ…俺たち?」
「どう使うのかは知らないが、使えると思ったんだろう。ネームを作ってる途中だって言ってたから、今連載してるやつなのか、全く関係ないのか。あいつのスイッチはよくわからない」
結愛の今の週刊誌での連載は、異能力バトルがメインで長く連載が続くうちに登場人物もかなりの数に上っている。新しいキャラクターとして登場させるのか、既にいる登場人物たちで構図や雰囲気だけ使うのか、単に絵になると思ったのか。
漫画を描くためのほぼすべてを、はじめは独学で始めたせいなのか結愛には、こういうところがある。
スケッチや模写、実際の出来事や人を取り入れて、しかし言われなければ気付かないほどに創り変える。それをスイッチが入った途端に傍目を気にせず始めてしまう。
そのために、雪季は結愛と知り合ったのだ。
中学校での放課後、部活中の生徒たちをスケッチしていた結愛が書き溜めていた絵や描いていた漫画をぶちまけたところに雪季が行き合い、そこから何をどうしてだったか、漫画の展開やキャラクターのことなどを相談されるようになった。それが、今まで続いている。
一枚目が終わったのを見届けて、雪季は自分で淹れた紅茶に手をのばした。一息に飲み干す。
「ああなったらしばらく放っておいていい。どうする?」
「どうする、って? 帰れって言わなかったか?」
「あの状態なら、別に邪魔にはならないだろ。俺は調理に戻る。ケーキ食べて帰るならそれでもいいし、閑ならそのへんの漫画読んでても大丈夫だぞ」
仕事場に二間を開け放しているこの場所の壁際には漫画をはじめ本の詰まった棚が並んでいて、寮の図書部屋よりもずっと整理されている。
英は、今気付いたようにそれらに目を向ける。
「全部、彼女の漫画?」
「まさか。真柴のは…これが今連載してるやつ」
表紙に主人公が描かれた少年漫画の方の一巻を渡すと、へえと英は首を傾げた。
「これ、雪季は読んでるのか? 結構な巻数あるけど、荷物は少なかったよな?」
「引っ越しが多くなるのはわかってたから、全部電子書籍にした」
実際には今は雑誌こそ電子書籍のみだが、紙の本も毎回購入している。結愛に頼んでこの部屋の一角に置き場所を確保してもらっていて、いつもいつも、「買わなくても献本あげるのに」とちょっとした言い合いの種になる。
だがそれらは、英に言うつもりもないことだ。
「あー…なるほど」
肯いて、英は渡したコミックの頁を開いた。帰る気はないらしい。笹倉たちに申し訳ないと思いながらも、携帯端末で連絡だけして雪季は台所へ戻った。
食材をほぼ使い切り、全てを冷蔵庫と冷凍庫に振り分けて仕事部屋に戻ると、部屋の外はすっかり暗くなって電気がつけられていて、英が手にしているのは最新刊になっていた。
「河東、そろそろ…」
ぱたりと、鉛筆が止まった。結愛が、はっとしたように顔を上げ、英と雪季を見て、窓の外を見て、ぎゃーと声を上げた。
「ごっ、ごめんっ!」
「できたのか?」
「うんっこれでチェックしてもらって…ってああだから、ごめんなさい…っ!」
英を見るが、完全に面白いものを見るような目つきになっている。雪季は苦笑した。
「いいから、干からびてるそのケーキ食べた方がいい。紅茶淹れ直すよ。河東、お前も飲むか?」
「うん」
ポットごと移動させて、丸テーブルの上で注ぐ。
結愛は、申し訳なさそうな顔をしながらも、素直にケーキを頬張っている。ご飯の時はそうでもないのに、甘いものを食べているときの結愛は、何故か小動物じみている。
「料理、全部入れたから。ちゃんと食べろよ」
「うん。ありがとう。…ところで今更なんだけど物凄く気になって、ユ…中原君、一個、いい?」
「うん?」
「中原君て、河東君の秘書なんだよね? それってご飯作りも含まれるの?」
「ん?」
唐突で妙な質問に、雪季は顔をしかめた。
結愛は、話を聞いていないと思いきやちゃんと聞いていたり会話の流れで突っ込めなかった部分を後になって訊いてきたりするので、いつのどれのことを言っているのかがわからなかったりする。本人もそれは自覚しているので、すぐに言葉をつなぐ。
「ほら、ユ…中原君、料理好きなんだねって、うちでもいろいろ作るって河東君が言ってたから」
「ああ。今俺、会社の寮を借りてて、家主がこいつ」
「へええ。なんかいいね、楽しそう」
これまた、「良かったねユキちゃん」とでも言い出しそうな調子で言われて、雪季は思わず、英に視線を逸らした。
「…楽しいか?」
「俺は楽しいけど?」
ふるんじゃなかった、と、雪季はがくりと肩を落とした。
「どう使うのかは知らないが、使えると思ったんだろう。ネームを作ってる途中だって言ってたから、今連載してるやつなのか、全く関係ないのか。あいつのスイッチはよくわからない」
結愛の今の週刊誌での連載は、異能力バトルがメインで長く連載が続くうちに登場人物もかなりの数に上っている。新しいキャラクターとして登場させるのか、既にいる登場人物たちで構図や雰囲気だけ使うのか、単に絵になると思ったのか。
漫画を描くためのほぼすべてを、はじめは独学で始めたせいなのか結愛には、こういうところがある。
スケッチや模写、実際の出来事や人を取り入れて、しかし言われなければ気付かないほどに創り変える。それをスイッチが入った途端に傍目を気にせず始めてしまう。
そのために、雪季は結愛と知り合ったのだ。
中学校での放課後、部活中の生徒たちをスケッチしていた結愛が書き溜めていた絵や描いていた漫画をぶちまけたところに雪季が行き合い、そこから何をどうしてだったか、漫画の展開やキャラクターのことなどを相談されるようになった。それが、今まで続いている。
一枚目が終わったのを見届けて、雪季は自分で淹れた紅茶に手をのばした。一息に飲み干す。
「ああなったらしばらく放っておいていい。どうする?」
「どうする、って? 帰れって言わなかったか?」
「あの状態なら、別に邪魔にはならないだろ。俺は調理に戻る。ケーキ食べて帰るならそれでもいいし、閑ならそのへんの漫画読んでても大丈夫だぞ」
仕事場に二間を開け放しているこの場所の壁際には漫画をはじめ本の詰まった棚が並んでいて、寮の図書部屋よりもずっと整理されている。
英は、今気付いたようにそれらに目を向ける。
「全部、彼女の漫画?」
「まさか。真柴のは…これが今連載してるやつ」
表紙に主人公が描かれた少年漫画の方の一巻を渡すと、へえと英は首を傾げた。
「これ、雪季は読んでるのか? 結構な巻数あるけど、荷物は少なかったよな?」
「引っ越しが多くなるのはわかってたから、全部電子書籍にした」
実際には今は雑誌こそ電子書籍のみだが、紙の本も毎回購入している。結愛に頼んでこの部屋の一角に置き場所を確保してもらっていて、いつもいつも、「買わなくても献本あげるのに」とちょっとした言い合いの種になる。
だがそれらは、英に言うつもりもないことだ。
「あー…なるほど」
肯いて、英は渡したコミックの頁を開いた。帰る気はないらしい。笹倉たちに申し訳ないと思いながらも、携帯端末で連絡だけして雪季は台所へ戻った。
食材をほぼ使い切り、全てを冷蔵庫と冷凍庫に振り分けて仕事部屋に戻ると、部屋の外はすっかり暗くなって電気がつけられていて、英が手にしているのは最新刊になっていた。
「河東、そろそろ…」
ぱたりと、鉛筆が止まった。結愛が、はっとしたように顔を上げ、英と雪季を見て、窓の外を見て、ぎゃーと声を上げた。
「ごっ、ごめんっ!」
「できたのか?」
「うんっこれでチェックしてもらって…ってああだから、ごめんなさい…っ!」
英を見るが、完全に面白いものを見るような目つきになっている。雪季は苦笑した。
「いいから、干からびてるそのケーキ食べた方がいい。紅茶淹れ直すよ。河東、お前も飲むか?」
「うん」
ポットごと移動させて、丸テーブルの上で注ぐ。
結愛は、申し訳なさそうな顔をしながらも、素直にケーキを頬張っている。ご飯の時はそうでもないのに、甘いものを食べているときの結愛は、何故か小動物じみている。
「料理、全部入れたから。ちゃんと食べろよ」
「うん。ありがとう。…ところで今更なんだけど物凄く気になって、ユ…中原君、一個、いい?」
「うん?」
「中原君て、河東君の秘書なんだよね? それってご飯作りも含まれるの?」
「ん?」
唐突で妙な質問に、雪季は顔をしかめた。
結愛は、話を聞いていないと思いきやちゃんと聞いていたり会話の流れで突っ込めなかった部分を後になって訊いてきたりするので、いつのどれのことを言っているのかがわからなかったりする。本人もそれは自覚しているので、すぐに言葉をつなぐ。
「ほら、ユ…中原君、料理好きなんだねって、うちでもいろいろ作るって河東君が言ってたから」
「ああ。今俺、会社の寮を借りてて、家主がこいつ」
「へええ。なんかいいね、楽しそう」
これまた、「良かったねユキちゃん」とでも言い出しそうな調子で言われて、雪季は思わず、英に視線を逸らした。
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