回りくどい帰結

来条恵夢

文字の大きさ
21 / 130
友人

4

しおりを挟む
「あれ…俺たち?」
「どう使うのかは知らないが、使えると思ったんだろう。ネームを作ってる途中だって言ってたから、今連載してるやつなのか、全く関係ないのか。あいつのスイッチはよくわからない」

 結愛ユアの今の週刊誌での連載は、異能力バトルがメインで長く連載が続くうちに登場人物もかなりの数に上っている。新しいキャラクターとして登場させるのか、既にいる登場人物たちで構図や雰囲気だけ使うのか、単に絵になると思ったのか。
 漫画を描くためのほぼすべてを、はじめは独学で始めたせいなのか結愛には、こういうところがある。
 スケッチや模写、実際の出来事や人を取り入れて、しかし言われなければ気付かないほどに創り変える。それをスイッチが入った途端に傍目を気にせず始めてしまう。

 そのために、雪季セッキは結愛と知り合ったのだ。

 中学校での放課後、部活中の生徒たちをスケッチしていた結愛が書き溜めていた絵や描いていた漫画をぶちまけたところに雪季が行き合い、そこから何をどうしてだったか、漫画の展開やキャラクターのことなどを相談されるようになった。それが、今まで続いている。
 一枚目が終わったのを見届けて、雪季は自分でれた紅茶に手をのばした。一息に飲み干す。

「ああなったらしばらく放っておいていい。どうする?」
「どうする、って? 帰れって言わなかったか?」
「あの状態なら、別に邪魔にはならないだろ。俺は調理に戻る。ケーキ食べて帰るならそれでもいいし、ひまならそのへんの漫画読んでても大丈夫だぞ」
 仕事場に二間を開け放しているこの場所の壁際には漫画をはじめ本の詰まった棚が並んでいて、寮の図書部屋よりもずっと整理されている。
 アキラは、今気付いたようにそれらに目を向ける。

「全部、彼女の漫画?」
「まさか。真柴のは…これが今連載してるやつ」

 表紙に主人公が描かれた少年漫画の方の一巻を渡すと、へえと英は首を傾げた。

「これ、雪季は読んでるのか? 結構な巻数あるけど、荷物は少なかったよな?」
「引っ越しが多くなるのはわかってたから、全部電子書籍にした」

 実際には今は雑誌こそ電子書籍のみだが、紙の本も毎回購入している。結愛に頼んでこの部屋の一角に置き場所を確保してもらっていて、いつもいつも、「買わなくても献本あげるのに」とちょっとした言い合いの種になる。
 だがそれらは、英に言うつもりもないことだ。

「あー…なるほど」 

 肯いて、英は渡したコミックのぺーじを開いた。帰る気はないらしい。笹倉たちに申し訳ないと思いながらも、携帯端末で連絡だけして雪季は台所へ戻った。
 食材をほぼ使い切り、全てを冷蔵庫と冷凍庫に振り分けて仕事部屋に戻ると、部屋の外はすっかり暗くなって電気がつけられていて、英が手にしているのは最新刊になっていた。

「河東、そろそろ…」 

 ぱたりと、鉛筆が止まった。結愛が、はっとしたように顔を上げ、英と雪季を見て、窓の外を見て、ぎゃーと声を上げた。

「ごっ、ごめんっ!」 
「できたのか?」
「うんっこれでチェックしてもらって…ってああだから、ごめんなさい…っ!」

 英を見るが、完全に面白いものを見るような目つきになっている。雪季は苦笑した。

「いいから、干からびてるそのケーキ食べた方がいい。紅茶淹れ直すよ。河東、お前も飲むか?」
「うん」

 ポットごと移動させて、丸テーブルの上でそそぐ。
 結愛は、申し訳なさそうな顔をしながらも、素直にケーキを頬張っている。ご飯の時はそうでもないのに、甘いものを食べているときの結愛は、何故か小動物じみている。

「料理、全部入れたから。ちゃんと食べろよ」
「うん。ありがとう。…ところで今更なんだけど物凄く気になって、ユ…中原君、一個、いい?」
「うん?」
「中原君て、河東君の秘書なんだよね? それってご飯作りも含まれるの?」
「ん?」

 唐突で妙な質問に、雪季は顔をしかめた。
 結愛は、話を聞いていないと思いきやちゃんと聞いていたり会話の流れで突っ込めなかった部分を後になって訊いてきたりするので、いつのどれのことを言っているのかがわからなかったりする。本人もそれは自覚しているので、すぐに言葉をつなぐ。

「ほら、ユ…中原君、料理好きなんだねって、うちでもいろいろ作るって河東君が言ってたから」
「ああ。今俺、会社の寮を借りてて、家主がこいつ」
「へええ。なんかいいね、楽しそう」

 これまた、「良かったねユキちゃん」とでも言い出しそうな調子で言われて、雪季は思わず、英に視線を逸らした。

「…楽しいか?」
「俺は楽しいけど?」

 ふるんじゃなかった、と、雪季はがくりと肩を落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...