回りくどい帰結

来条恵夢

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河東英

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「なあ、引退試合のメンバーどうする?」
「ん? どうったって、レギュラー固定で残りは半分ずつで出ればいいだろ」

 部活仲間のそんな話題に、あとひと月もすれば、夏前には引退が恒例だったなと思い出す。それ以降も部活に来る先輩はいたが、毎日ではないし試合への参加はないしで、どうしてもそこはかとない部外者感が出る。
 そうなんだけどさ、と言葉を濁す「友人」は、ちゃんとレギュラー選手だ。アキラは、補欠というわけではないが出たり出なかったりの助っ人だか遊軍だか。
 そのくらいが丁度いいからと、あからさまにならないよう気をつけながら誘導して得た立ち位置だ。
 同学年の部活仲間は英を入れて七人で、レギュラーは三人なので、残り四人が前半後半に分かれれば丁度の勘定だ。過去には三年生の人数が多くて二試合やったこともあるようだが、今年はその必要はないだろう。

「お前もレギュラーと言えばレギュラーだろ。プレイもなんて言うか…華があるしさ」
「あー…?」
「お前がフルで出た方が喜ぶんじゃないかって…」
「えーなんでー後輩ぼっこぼこに叩きのめして発破かけるための引退試合なんだからさ。がっちり勝ちに行かないと」

 そもそも面倒臭いし、という本音はしっかりと覆い隠しての発言に、「友人」は顔を輝かせる。単純だなと、笑顔を崩さないまま思った。
 この「友人」を、高校を卒業して付き合いもなくなればあっさりと記憶の片隅に押しやるだろなとも思う。
 その時に付けるラベルは、「部活仲間」だろう。漠然とした「友人」という分類だけでは、誰だったかもわからなくなってしまう。
 英にとっての友人付き合いはそこに益があってこそのもので、そういうものは時間と状況でいくらでも変化する。誰かを「友人」と呼ぶのに抵抗はないが、そこに何ら特別さはない。
 「恋人」にしても同じで、別れた先輩は、もしかすると卒業式のあの日に離れても付き合っていこうと言いたかったのかも知れない。元からべたべたと四六時中一緒にいたりメッセージをやり取りするような付き合いではなかったので、それでも平気だと思っていておかしくはない。
 だが英は、自分が振ったと悟られないよう言葉を選びながら、北海道の大学に行く彼女に、遠距離恋愛は無理だねと切り出させた。
 どうせ向こうも心変わりするのだろうし、さほど手間のかからない言葉のやりとりだけとしても、キープするほどの価値も見いだせなかった。自然消滅という方法もあったから、はっきりと区切りをつけた分、優しい対応をしたと思うほどだ。
 ただ、その優しさがあまり支持されるものではないということは分かっている。

 人の心の動きは実感はできなくても、推測はできる。それだけの知識を、英はせっせと蓄えて来たしこの先も怠らないだろう。
 そういった努力がいかに有用かを教えてくれた先生は、情に厚い割りに呑み込まれずことわりで割り切れる人だったので、そういったところが身内と上手く行かなかった所以ゆえんだろう。
 先生自身がどんな心積もりだったかはともかく、おかげで、英はこうやって普通のふりをしながら日々を送れている。
 実のところ、普通だろうが異常だろうがどうでもいいが、それなりに楽しみのある生活ではあるので、それ以上があるならともかくむざむざと手放す気にはなれない。そのためには、先生の教えは実にありがたかった。

「あ。やべ、中原ごめん、教科書! ロッカー入ってるから持ってって!」
「わかった」
「ごめんなー」

 すれ違いざまの会話に、英は取り繕う間もなく目をみはっていた。
 バスケ部レギュラーの「友人」と、雪季セッキに付き合いはあったのだろうか。すぐに視線を切った「友人」は、英を見て、不思議そうなかおをした。

「どうした?」
「あ…いや…お前の友達にああいう地味なのっていたっけ、ってなんか意外で」
「友達っていうか。世界史の教科書借りに行ったらたまたま知ってるのが出払ってたり持ってなかったりで、別の教室行こうかと思ったらあいつが貸してくれて。次の時間とか言ってたんだよなー、すっかり忘れてた。…覚えてない? 一年の時同じクラスだっただろ」
「あー…だった?」

 そもそもこの「友人」とは一年の時も同じクラスだっただろうか、と思いながら、英は誤魔化すような笑みを返す。
 知ってはいるが、覚えてはいない。その時はまだ、英は雪季を認識していなかった。
 むしろ、「友人」はよく覚えていたなと思う。地味で、背景のような存在だっただろうに。

「まあ、覚えてなくても仕方ないか。あいつも大分大人しくなったし」
「…ん?」
「ん? ああ。中学は違うけど、小学校一緒で。格闘技習ってるとかで結構運動好きな感じだったけど…」

 濁した先を、英は知っている。
 小学校の卒業を間近に控えた頃、雪季は両親を亡くしている。自殺ということで処理され、今は遠縁の男のところで暮らしているというくらいまでは調べられたが、額面通りに受け取るには怪しいと英は思っている。
 ただの高校生が鮮やかに人を殺すには、何かが潜んでいるはずだ。
 そういったことの情報源のあてにはならないだろう一端として、「部活仲間」の「友人」に付加価値がついたことを、本人は知らなかった。
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