回りくどい帰結

来条恵夢

文字の大きさ
129 / 130
河東英

4

しおりを挟む
 今までこれだけ興味が続いたことがあっただろうかと、ふとアキラは思った。
 授業中、ぼんやりと視線を向けた運動場の片隅でクラスメイトと立ち話をしている雪季セッキを目にしてのことだった。
 三年になってクラスは違ってしまったが、探すまでもなく見つけられるようになってしまった。まるで恋煩こいわずらいだなと、いまだにそんなものを感じた事のない英は面白く思う。
 大抵のことはある程度までならできてしまうからか、今まで、それほど長く熱心に取り組んだものはない。
 部活のバスケットボールも何となく選んだだけで、たまに面白く思うことはあるし、たまに熱中することもあるが地道に努力を続けて全力をそそいで、ということはどうにも英には合わない。というよりも、そこまで興味が続かない。

 一体何がしたいんだろうと、英は自問した。

 雪季に興味がある。何を考えているのか、話をしてみたいと思った。
 すぐにそうしなかったのは雪季が人を殺していたという特殊事情があるからで、だからこそ興味をかれたのだとも思ったが、今となってはよくわからなくなっていた。
 我慢すること、先を見据えることを、英は幼い日に「先生」から学んだ。
 当時母と住んでいたアパートの大家だった彼女から、英は、普通なら親や学校の先生から教わる大半のことを学んだだろうと思う。
 彼女は親切で根気強く、英の将来を憂うことすらした。おかげで英は、世の中の渡り方を、入り口ではあるだろうけれど身に着けることができた。
 学ぶことも彼女から教わり、本やテレビを活用することも覚えた。
 そうやって知った中に、自分に当てはまりそうな分類もあった。検査を受けたことはないから本当にそうなのかはわからないが、もしそうだとすれば、案外同類は多いんだなというのが感想だった。
 それがいい事とも悪い事とも思わなかった。

「アーキラっ。何見てたんだ? 三組と四組だっけ。可愛い子でも居た?」

 親し気に近付いてきた曲者くせものに、英は、にこりと笑みを返す。

「もうちょっと薄着になってからの方が見ごたえはあるかな」
「あー。ジャージ着られると体の線がわからないもんなー」

 篠原シノハラと中身のない言葉を交わしながら、こんな身近にも同類がいるんだもんなと英は内心嘆息した。互いに、出会った瞬間に何故か悟った。こいつは同類で面倒な奴だ、と。だからこそ、近くにいる羽目になった。
 その上、この同類は別の同類が起こした猟奇事件に興味津々らしい。誰か目の前でやってみてくれないものか、と。それなら自分でやればいいのにと思うのだが、実行して捕まるのは厭なのだろう。あるいは、特等席で観覧したいというだけのことなのか。
 何をどう見込まれたものか、誘われたことがある。断ったが、たまに思い出したように誘われる。
 そもそも興味がないのと、どうせ、事が露見した時には英に全て被せるつもりで言っているのだろうから断るが、しつこくて鬱陶しい。

「あ。次移動教室か」
「うわだる」

 会話を切るには丁度いいし、選択授業で篠原とは教室も違う。それとなくこちらを窺っていた様子の、移動先が同じ「友人」たちに声をかけて、教室を後にした。
 短い道中、クラスでもひときわ華やかな女子のグループと一緒になったのは、きっと偶然ではない。
 去年の卒業式で、付き合っていた先輩と別れた。
 向こうの希望で秘密にしていたのに、別れるときには驚くべき速さで噂が伝わっていった。結果、三年のクラス替えを経てしばらく経ち、クラス内の人間関係もそれなりに固まった頃合いに、英を「狙う」女子は増えた。
 それ以前にも、フリーだと思われていた分誘いはあったが、断り続けていたためにそういったことに興味がないのかといくらか選択肢から外されていた部分があった。それが、ひそかに付き合っていた相手がいたと知れて、むしろ、一途でいいという話になったらしい。
 何かと近くにいて比較される篠原が大っぴらに食い散らかしている分、そこが評価されているようだ。
 英としては、単に最初に声をかけて来たのがくだんの先輩で、適度な距離が英にも合っていたのか切れずにいただけだし、学内で揉めたくないからそういった付き合いは先輩の他は同級生たちが考えもしないだろう学外で広げていただけで。

 人間関係というのは、面倒臭いが面白いものだと思う。何より、英がほんの少し手を加えるだけで様変わりするところがいい。
 父や兄たちが手にしたがっている権力とは少し違う。あれはあれで人間関係を好きに操れる大きな手段だが、そんなものを使わなくても、ほんの些細なことだって人の「心」は動く。いっそ、不思議になるほどに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...