回りくどい帰結

来条恵夢

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 結局のところ、アキラ出鱈目でたらめな実験が成功したということになるのだろうか。
 雪季セツキは、多少むしゃくしゃしながらも、結果としては良かったのだろうとみ込む。
 実際、旅立った三津弥ミツヤはすっきりとした表情をしていた。ポケットには、葉月ハヅキの連絡先とお薦めの漫画のリストをメモした紙を収めて。

『はーい、もしもしー?』
真柴マシバ。遅くにごめん。今大丈夫?」
『そこそこ大丈夫』

 そこそこってなんだ。本当は大丈夫ではないのではないのか。そうは思ったが、雪季は甘えることにした。なるべく早く話を終えようと決める。

「この間の、話だけど」
『どれのこと?』

 本気で訊いているのか、からかっているのかがわからない。やっぱり電話は苦手だと、少し思う。顔を見て話したい。声だけでは、わからないことが多すぎる。
 結愛ユアの気持ちは嬉しい。そのまま受けれられたらどれだけいいかと思う。
 だが、本当はこうやって付き合いを続けていることでさえ、結愛を危険に巻き込みかねない。してや、戸籍で繋がってしまえば、雪季を調べた時に簡単に結愛も探り当てられてしまう。おそらく、大きな弱点として。

「…ごめん、やっぱりいい」
『え? えっ、意地悪したわけじゃ!』
「違う。また、会いに行く。その時に」
『…うん。待ってるよ。ご飯も一緒に食べようね』
「ああ。それじゃあ」
『うん。お休みなさい、ユキちゃん』 

 通話を終えて、長く息をつく。
 何気なく顔を上げると、引き戸が細く開いていて思わずのけぞった。廊下に明かりはついていない、が。

「…河東カトウ。いるなら、大人しく出て来い」
「あー…別に、盗み聞きするつもりはなかったんだ。声かけようとしたら、話し中だから邪魔したら悪いかな、と」
「足音も立てずに?」

 電話に集中してしまっていたとはいえ、気配を消して来ておいて、よくもぬけぬけと。にらみつけたところで、へらりと笑みが返されるだけなのが腹立たしい。

「一件落着ってことで、飲まないかって誘いに来ただけだったんだけど。というか正直なところ、彼に何をどう言ったのか気になって」
「特に何も言ってない。お前の目論もくろみが当たったんだろう、漫画を読んで、考えて、自分で結論を出しただけのことだ」

 二日目はほぼ部屋に引きこもり、二泊しただけの三津弥は、月曜の朝に出社する雪季や英と一緒に家を出て、その足で小切手を換金し、英の紹介した北海道の知人のところへと向かうということだった。
 育てた野菜を送ります、と晴れやかに去って行った。
 だが英は、納得がいかないと言いたげに首をかしげる。

「駅で、雪季少し電話してただろ? あの時、俺と雪季と、どんな関係だって訊かれた」
「…単に不思議に思っただけじゃないか? あまり、社員と社長が共同生活を送ることもないだろう。社員同士ならともかく」
「ついでに葉月に、彼がどんな感じの漫画読んでたのか訊いたんだけど。おすすめリスト作るためにも、何が面白かったか訊いたって言うから」

 完全な個人情報だが、英ならいくらでも口先で丸め込めただろう。
 三津弥に、あの部屋の主を紹介してくれと言われた時には正直驚いた。問いただせば、要は漫画の話をしたいということだったので、先に葉月に許可を取って連絡用にパソコンを貸したが、今日のうちにでも携帯端末の契約をしてこの先も連絡を取り合うのだろうか。
 変な知識をもらわなければいいが。
 そこで山本の同人誌がかばんに入れっぱなしだったことを思い出して、雪季はうんざりとした。話が終わったら葉月の部屋に返しに行こうと思う。早く手放したい。

「全部じゃないけど、疑似ぎじ家族っていうか、義理の親子とかがメインの話が多かったって」
「…親兄弟との仲は良くないだろうから、思うところがあったんだろう。別に、血縁だけが家族じゃない」
「あと、BL」
「そんなものも置いてたのかあの部屋」

 ざっと見た感じでも、幅広いジャンルが置かれているとは思っていたが。
 雪季は結愛の漫画以外はそれほど詳しくはないが、それでも知っている程度には有名どころがあったり、逆に、結愛が探すの大変だったんだよと言っていたくらいにはマイナーなものもあったりと、そのくらいは見ていた。
 本当に、幅広いジャンルがあったようだ。
 なんとなくため息をくと、英が、何かのお手本のようなみを浮かべていた。

「どっちを期待して訊いたんだと思う? 家族? 恋人?」
「そもそもどっちでもないだろ」
「まあそうだけどさ。少しくらい動揺するかと思ったのに、面白くない」
「残念だったな。寝るから出て行け」
「えー。呑まないのか?」
「寝る」

 断言しても食い下がる英が鬱陶しくて、無理やり押し出すと、鍵をかけた。
 結局葉月の部屋には行けなかったので、とりあえずかばんから出すだけは出して、明日の朝にしようと決める。袋に入れたままの冊子を見下ろし、雪季は小さく肩をすくめた。
 ただのつくりもので、紙とインクの染みでしかない。それなのに、作り出す側は心血をそそぎ、たまに誰かを支えたりもする。妙なものだと、雪季は思った。
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