回りくどい帰結

来条恵夢

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「やっぱりすごいなあ…!」

 並べた料理への感嘆に、つい笑みがこぼれる。このくらいは、素直に嬉しがっていいのだろう。
 ミートソースのペンネ、生ハムのサラダ、数種類の野菜スティック、からあげと白身魚のフライと大量のジャーマンポテト。スモークチーズとフォカッチャ。パンか野菜につけるディップは、クリームチーズとたらこを合わせたものからハニーナッツまで、数種類。
 どれもそれほど手間暇をかけたものではないし、居酒屋メニューでもありそうなものだが、結愛ユアは目を輝かせてくれる。

「いただきます!」
「…いただきます」

 テーブルを挟んで、二人で手を合わせる。給食の時間みたいだなと思わなくはないし、それならユキちゃんは「おあがりなさい」じゃないのと言われたこともあるが、それはそれで妙な気がする。
 それぞれの手元には、カルーアミルクのグラス。結愛の方は、牛乳の割合を少し多めにしている。それとは別に、水を入れたグラスも置いた。アルコールは水ではないどころか水分を排出する方へ働くので、悪酔いしたくなければ必須だ。

「…コーヒー牛乳!」
「言うと思った」
「だってこれコーヒー牛乳だよ。ユキちゃんだましてない?」
「それで俺に何の得が」
「…差額分のお金とか? おつりちょろまかす小学生みたいな」

 くだらないことを言い交わしながら、食べて、飲む。冷蔵庫にはプリンとババロアがあるということなので、食材と一緒に買った菓子類とともに第二弾にえる。
 そして案の定と言うべきか、アルコールを飲み慣れていない結愛は、甘さに騙されるかのように結構なピッチでグラスを開けていく。ジュース感覚なのが見て取れて抑えようとするが、アルコール初心者は素直に聞き入れてはくれない。

「…だいにいがね、離婚するって言ったの。話があるからって実家に呼ばれてみんなで夕飯食べて、その後で」

 酔っているせいでいつもとはやや違った抑揚で、結愛が本題だろう話に突入したのは、料理の半分ほどがそれぞれの胃に消えたころだった。
 結愛の上の兄は、下の兄よりも三つ年上だというので結愛とは四歳差になるはずだ。税理士をしていると聞いた覚えがある。

「どんな経緯があったのか知らないけど、色々あって、考えて出した結論でしょ? だい兄が相談じゃなくて決めたことで言ってくる時って、もうほとんど色々やり尽くした後で本当に確定したことだって、私よりも長く兄弟してるんだからちぃ兄だって知ってるはずなのに。なんでそれを無理に訊こうとするの?!」
「…結愛、声。近所迷惑だから」
「でもさユキちゃん、そんなのだい兄と美希さんの凄く個人的なことでしょ? 訊く? 弟だからって、まだ二人きりの時とかならいいよ? 家族みんなの前で、まだ小さいから何もわかってないだろうけど自分の子どももいるところで、まだ中学生のケイちゃんだっている前で、理由言わなきゃ引かないみたいなこと言ってまで聞き出そうとする?」

 いくらなんでもあれはない、と言い切って、ほとんど氷の残っていないグラスに白桃酒を注ぐ。雪季は、そっと水と氷を足した。
 以前、自分が勝手な見合いを押し付けられそうになって雪季に助けを求めた時ですらいくらか気遣っていた様子だったのに、今は酔いのせいなのかほとほと呆れたのか、目がわっている。

「もう決めて、美希さんも納得してることなのになんでちぃ兄がそれを聞く必要があるの?! 聞いたからって何にもならないし、聞いてくれって言われたならともかく、おまけにあんな風にみんなの前で。おかげでもう大変で」
「…そんなに?」
「どうも女性より男性の方が好きみたいだ、って、無理に家族みんな雁首揃えた前で告白する必要はないでしょ?!」
「それは俺が聞いてよかったのか?」
「この先付き合う相手とか結婚相手とか色々あるだろうから話した方がいいと思うなら話してもいいって言われてる」

 酔った勢いなのかそれとも結局は言うつもりだったのか、判別が難しい。
 水のグラスをあおった雪季は、ペンネをかじって間を開ける。しっかりとミートソースが絡んでいて、厚めの食感が楽しい。
 その間に結愛は、フォカッチャを手でいてハニーナッツを乗せて挟む。

「お父さんは自分の離婚が影響してるんじゃないかとか言い出すしお母さんは自分が母親として至らなかったんじゃないかって言い出してちぃ兄は言わせといてほとんどパニックになってるし。風吹さんもおろおろしちゃって子どもたちも泣き出しちゃうし、ほんと凄かった。修羅場ってこういうのか―いやなんか違うなーとかちょっと逃避しちゃったよ」 
「…お疲れさま」
「うん。…一番大変だったのはだい兄だったと思うけどね。私と風吹さんは途中で引き上げたけど、だい兄は最後まで付き合ったみたいだし。それでもケイちゃん曰く、お父さんもお母さんもまだなんかぎくしゃくしてるみたい」

 深々とため息をついて、結愛は酒のグラスに口をつける。
 一息に飲み干す姿に雪季はひたいを押さえたが、カルーアを割るのは雪季がやっているし、他は日本酒はともかく度数の強いものは買っていない。その上で水と氷を入れているので更に薄まっているとは思うが。
 せめてと、サラダを一掬ひとすくい結愛の皿に盛る。

「ありがと。…そういうのって遺伝するのかとか言い出して、今時それ?! とか。とりあえず、取材とか資料とか結構しっかりしてるそういった関係の漫画送りつけといたけど、あの人たち漫画も本もあんまり読まないからなー。ちぃ兄は読むけどちょっと字が多かったら難しいって投げたりするし」
「まだ、テレビ番組の方が見やすくないか?」
「そっちはすぐにはどんなのがあるか思いつかなくて。ソフト化してないと見られないから。実家は有料放送とか入ってないし。というかそもそも、ちゃんとだい兄の話を聞くつもりがあるなら、資料とか外部情報とかはそこまで重要じゃないと思うんだけどね。家族っていったって何もかも理解できるわけじゃないし、理解や実感なんてできなくったってそういうものなんだって認める…って言うと偉そうかな。受けれることはできるし、そうしようってすればいいのに」

 ある程度吐き出して落ち着いたのか、やや落ち着いた声音は、少しばかり眠そうにも聞こえる。

「そりゃあ、すぐには無理かもしれないけど。だから結局、資料渡して外堀埋めて行くしか私にはできないかなって」
「…お兄さんとは。上の。そっちとは、ちゃんと話せてるのか、真柴マシバは」
「んー、とりあえずはね。今日ユキちゃんに話すことも連絡はしてる。美希さんとも少し話したし。夫婦としては無理だけど多分友達づきあいは続けそうみたいなこと言ってて、私とも別に連絡切るつもりないから何かあれば気兼きがねなくどうぞーとか言われた。さすがだい兄の選んだ人」
「そうか良かったな…?」

 ふにゃりと、結愛が笑う。

「あ。そう言えばケイちゃんがね、ユキちゃんってきっとちぃ兄より大人だよねってメッセージ送って来てたよー。でも比較対象がちぃ兄じゃ意味ないよねー」
「一応お前の兄貴だろ」
「つい最近、最低なところを見せられた兄だからねー。あれより無知で考えなしで許されるのは小学生くらいまでかなー」
「…そろそろ甘いもの食べたいから一旦片付けるぞ」

 全ては食べ切っていないが、チーズやフォカッチャといった多少置いても問題のなさそうなものがほとんどなので、後日食べてもらうことにして、雪季は返事を待たずに片付けに入る。その際、ついでのように結愛から酒のグラスを取り上げ、代わりに水のグラスを握らせた。
 そうして、ハーブティーをれる。カフェインがない方がいいかと、紅茶は見送りだ。
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