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結婚式
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控えの間を出たところで物陰に引き込まれ、雪季は一瞬だけ慌てた。主には、腕に当たる感触のせいだ。
「なんでこんなとこにいるの?」
「…同じ台詞を返す。というよりも、仕事中では?」
「他人行儀な言い方」
くすりと笑うのは、ショートカットの似合う女性だった。うっかりすれば雪季が纏うことになっていただろうお仕着せの女性版を着込んでいる。つまりは、どこかの会場のスタッフとしてこの場にいるはずだ。
からめられた腕からやんわりと手を外させて、改めて向かい合う。
「仕事中?」
「まあね。そっちこそ、引退したって聞いたのに、こんなとこで何してるの? まさかあたしの商売敵に就任した?」
いわゆる情報屋の彼女は、スーツを着た雪季の姿を眺めやり、わかりやすく首を傾げて見せた。
「…どうして普通に就職したという選択肢が出て来ないんだ」
「え。就職! 普通に!? …できるものなの、あたしはともかくそっちの仕事で?」
「ああ…まあそういう意味では普通ではないかも」
「何それどういうこと、詳しく!」
勢い余って抱き付くかという至近距離で、身を乗り出してくる。
接触に遠慮がないのは、一度は体の関係を持ったからというよりは、職業病でもあるかも知れない。ハニートラップと言い切らないまでも、情報を得るためには多少の融通は利かせる。
雪季は、これもやんわりと右手を押し出し、少しばかり距離を取った。
「その格好での仕事に戻らなくていいのか? ここでのバイトだろ」
「ああ~そうだった、がっつり情報集めないとだった。ん。でも、もしかしなくても関係者? そこの控えの間から出て来たもんね? それなら、バイト終わったらごはんでも食べない?」
「俺はそれでもいいけど…上司がついて来るかも知れない」
彼女が何を探っているのか気になるところではあるが、よほど運が良くなければ英がついて来たがる気がしてならない。
せっかくだから家族で積もる話でも、という間柄でもないだろう。バートナーに誘った女性は、家族に紹介されてこのまま結婚話に進むかもという期待が透けて見え、英はこのまま切るつもりでいるらしい。ろくでもない。
大きな目を瞬かせた彼女は、きらきらと目を輝かせた。
「何その面白上司! ちなみにその人は、セツ君の経歴は?」
「大体知ってる」
「いよいよ面白い! むしろぜひ連れて来てよ。えーっと、十九時には行けると思うから、近くの居酒屋予約するね。場所はメールしとく。変わってない?」
「ああ」
ポケットから素早く携帯端末を取り出して操作を始める。
ロッカーに預けていなかったということは、今は休憩時間なのだろう。ただ、先ほどの言葉からすれば英が出席している披露宴の担当のはずだが、途中休憩などあっただろうか。
じゃあ、と軽く手を掲げて去ろうとする腕を、思いついて捉える。
「そっちの経歴はどのくらいまで話していい?」
「んー。セツ君の上司の人、河東家と村上家の式のどのくらいの関係者?」
「新郎の弟」
「河東英? めちゃくちゃ色々訊きたい! 訊けそうな感じ?」
さらりと名前が出て来た。
何をどう訊くのか、訊きたいのか、目的にもよるだろうが、たとえそれが身内を売り渡す行為であれど、英自身が面白いと思うなら気にはしないだろうと思う。
数瞬、雪季は考え込んだ。
「下手に裏工作するよりは、真正面から切り込んだ方が脈はあるだろうな。あと、俺から話さなくても勘付く可能性はある」
「おー、さすがセツ君の上司が務まるだけあるね。じゃあ、お嬢のことまで突っ込まなかったらそれなりに言っちゃってもいいよ」
「…繰り返しになるけど、言わなくても勘付く恐れはある」
「ふーん、そこまで言わせるほどかあ。噂程度でまだあんまり調べてなかったんだよね。そっかー、それほど」
一人頷き、にっと笑う。不敵な笑顔が似合う人だと、雪季は思う。
「わかった、その時は、覚悟を決めるかセツ君とも縁切る勢いで逃げるかする。きっと連れて来てね」
もしかするとついて来るかも知れない、から、連れて行く、に変わってしまった。しくじったかと思わないでもないが、案外悪い出会いでもないような気もする。ただ、面倒臭そうな組み合わせではある。
その場合一番利益を得るのは誰だろうと考えて、彼女の主か、と簡単に結論は出た。あるいは、英かも知れないが。
今度こそそれじゃあ、ときっぱりと背を向けた知人を見送り、雪季は、辺りを一回りしたら控室に戻るかと、当初の目的へと戻った。散会するまでには、まだ小一時間ほどはかかるだろう。居酒屋へ移るのは、更にその二時間ほどは後になるか。
一歩を踏み出した雪季は、携帯端末の着信に気付いて足を止めた。届いたのは、葉月からのメッセージ。久々に、英への暗殺依頼が出されたとのことだった。
会場で何か注目でも浴びるようなことをやらかしたかあの馬鹿、と、雪季は短く溜息を落として散策へと足を踏み出した。
「なんでこんなとこにいるの?」
「…同じ台詞を返す。というよりも、仕事中では?」
「他人行儀な言い方」
くすりと笑うのは、ショートカットの似合う女性だった。うっかりすれば雪季が纏うことになっていただろうお仕着せの女性版を着込んでいる。つまりは、どこかの会場のスタッフとしてこの場にいるはずだ。
からめられた腕からやんわりと手を外させて、改めて向かい合う。
「仕事中?」
「まあね。そっちこそ、引退したって聞いたのに、こんなとこで何してるの? まさかあたしの商売敵に就任した?」
いわゆる情報屋の彼女は、スーツを着た雪季の姿を眺めやり、わかりやすく首を傾げて見せた。
「…どうして普通に就職したという選択肢が出て来ないんだ」
「え。就職! 普通に!? …できるものなの、あたしはともかくそっちの仕事で?」
「ああ…まあそういう意味では普通ではないかも」
「何それどういうこと、詳しく!」
勢い余って抱き付くかという至近距離で、身を乗り出してくる。
接触に遠慮がないのは、一度は体の関係を持ったからというよりは、職業病でもあるかも知れない。ハニートラップと言い切らないまでも、情報を得るためには多少の融通は利かせる。
雪季は、これもやんわりと右手を押し出し、少しばかり距離を取った。
「その格好での仕事に戻らなくていいのか? ここでのバイトだろ」
「ああ~そうだった、がっつり情報集めないとだった。ん。でも、もしかしなくても関係者? そこの控えの間から出て来たもんね? それなら、バイト終わったらごはんでも食べない?」
「俺はそれでもいいけど…上司がついて来るかも知れない」
彼女が何を探っているのか気になるところではあるが、よほど運が良くなければ英がついて来たがる気がしてならない。
せっかくだから家族で積もる話でも、という間柄でもないだろう。バートナーに誘った女性は、家族に紹介されてこのまま結婚話に進むかもという期待が透けて見え、英はこのまま切るつもりでいるらしい。ろくでもない。
大きな目を瞬かせた彼女は、きらきらと目を輝かせた。
「何その面白上司! ちなみにその人は、セツ君の経歴は?」
「大体知ってる」
「いよいよ面白い! むしろぜひ連れて来てよ。えーっと、十九時には行けると思うから、近くの居酒屋予約するね。場所はメールしとく。変わってない?」
「ああ」
ポケットから素早く携帯端末を取り出して操作を始める。
ロッカーに預けていなかったということは、今は休憩時間なのだろう。ただ、先ほどの言葉からすれば英が出席している披露宴の担当のはずだが、途中休憩などあっただろうか。
じゃあ、と軽く手を掲げて去ろうとする腕を、思いついて捉える。
「そっちの経歴はどのくらいまで話していい?」
「んー。セツ君の上司の人、河東家と村上家の式のどのくらいの関係者?」
「新郎の弟」
「河東英? めちゃくちゃ色々訊きたい! 訊けそうな感じ?」
さらりと名前が出て来た。
何をどう訊くのか、訊きたいのか、目的にもよるだろうが、たとえそれが身内を売り渡す行為であれど、英自身が面白いと思うなら気にはしないだろうと思う。
数瞬、雪季は考え込んだ。
「下手に裏工作するよりは、真正面から切り込んだ方が脈はあるだろうな。あと、俺から話さなくても勘付く可能性はある」
「おー、さすがセツ君の上司が務まるだけあるね。じゃあ、お嬢のことまで突っ込まなかったらそれなりに言っちゃってもいいよ」
「…繰り返しになるけど、言わなくても勘付く恐れはある」
「ふーん、そこまで言わせるほどかあ。噂程度でまだあんまり調べてなかったんだよね。そっかー、それほど」
一人頷き、にっと笑う。不敵な笑顔が似合う人だと、雪季は思う。
「わかった、その時は、覚悟を決めるかセツ君とも縁切る勢いで逃げるかする。きっと連れて来てね」
もしかするとついて来るかも知れない、から、連れて行く、に変わってしまった。しくじったかと思わないでもないが、案外悪い出会いでもないような気もする。ただ、面倒臭そうな組み合わせではある。
その場合一番利益を得るのは誰だろうと考えて、彼女の主か、と簡単に結論は出た。あるいは、英かも知れないが。
今度こそそれじゃあ、ときっぱりと背を向けた知人を見送り、雪季は、辺りを一回りしたら控室に戻るかと、当初の目的へと戻った。散会するまでには、まだ小一時間ほどはかかるだろう。居酒屋へ移るのは、更にその二時間ほどは後になるか。
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