回りくどい帰結

来条恵夢

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同窓会

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 軽く酔いの残った結愛ユアは、ユキちゃんち行きたい、と珍しくごねたが最終的には大人しく自分の部屋へと帰って行った。

「せっかくだし招待しても良かったんじゃないか?」
「…お前がいないなら少し考えた」
「二人きりで何するつもりだよやらしー」

 言葉だけはからかい気味に、表情は、同窓会で愛想を使い果たしたとでも言うかのように消え去っている。実際には、疲れたわけではなくただの常態だ。
 車を発進させるためにミラーを確認しながら、助手席に収まるアキラのそんな様子をそれとなく確認する。
 雪季セッキが見ていた範囲内ではビールジョッキばかりだったからか、特に酔っ払っている様子はない。ただ、軽薄に装って多少不機嫌そうなのが鬱陶しい。

「二次会、行かなくてよかったのか」

 誰も彼も、高校時代そのままかのように英を待っていたように思えた。
 さすがにすべての顔触れは覚えてはいないが、華やかだった一群。明日も早いから、と仕事を口実にさらりと抜けた英を、呆気に取られたように見送っていた。今頃は、どんな酒のさかなになっているのか。
 はなから二次会の誘いもなく、結愛にかかる誘いを、酔っているからとやんわりと断って連れ帰ろうとしていた雪季は、その場で声をかけられなかったことにほっとした。車の前で待ち構えていたのには、電車で帰ってくれれば良かったのに、と思いはしたが。しかしそもそも、社用車をねているとはいえ、車の持ち主は英だ。
 返事がなく、眠ったのかと横目で窺うと、目は開いていた。

「時々、思ったんだ。高校の時、雪季と友達になってたらどんなだっただろうって」

 淡々とした声は起伏が少なく、反応を求めているのかすらわからない。

「あの頃は篠原シノハラそばにいたし、雪季が人を殺したのもどういったものだったのかよくわからなくて、俺のせいでうっかり捕まったりしたら面白くないと思ったし。だから一方的に気にしてるしかなくて、あの子とずっと仲が良かったのも知らなかった。本格的に調べ始めてからは、葉月ハヅキに任せてたのもあって隠されてたし」

 一体何の話をしているのだろうと思いながら、雪季は、合いの手の挟みようもなく黙って車を進める。
 気づまりとまでは言わないが、居心地がいいわけでもないのでせめて早く家に着かないかと思うが、急いでうっかり事故を起こすほうが怖い。
 短く黙り込んだ英は、ぼんやりと前を向いたまま、再び口を開いた。

「気分だけでも、わかるかなって思ったんだ。そんなわけないって、わかってたのに。…ずるいなあ、真柴マシバさん」

 気づまりどころではなくいたたまれないような気分になって、雪季は頭を抱えそうになった。意識して、ハンドルをつかんだ腕に力を込める。
 雪季は心底、自分の何がどうこの男に引っかかったのかがわからない。
 この妙な執着が、あくまで英の意識する範囲内ではあっても周囲や雪季の意思を全く無視したものではないのはありがたいが、そもそも嬉しいと思えるようなたぐいのものでもなく。面倒だとは思うが、当人も戸惑っているようなところがあるので、文句を言ってもあまり効果がない。
 もっとも、好悪や感覚など、たとえ本人であっても説明のできるようなものではないだろう。

「何をうだうだと考えてるのか知らないが、二度と勝手に同窓会の出席とか決めるなよ」
「意味ないってわかったから、同窓会はもうやらない」
「…いやそこに限定するな。どうせ近くにいるんだから先に訊け」

 あはははは、と笑って誤魔化された。運転中でなければ手が出ていただろうなと雪季は思う。
 しかし、気軽に嘘を重ねる英にとっては、まだ誠実な反応なのかもしれない。そう考えてしまってから、毒されている、とため息をつきそうになる。

「あーあ。雪季と遊んでみたかったな。放課後に買い食いしたり、エロトークしたり」
「高校の時なら家事や店の手伝いや仕事で放課後はまっすぐ家に帰ってる」
「えー青春しろよー」
「十分いろいろあった」
「…どうせ、真柴さんがらみばっかだろ」
「………さあ」

 考えてみれば、結愛の兄に呼び出されたのは見事に青春の一ページなのかもしれない。それこそ、少女漫画の一コマだ。
 じとりと向けられた視線を無視して、車を走らせる。世間一般では盆休みの期間だが、英たちの会社は相談の結果、二週間の長期休暇は取るが時期をずらすため、明日も通常通りに出勤日だ。
 各人でずらして取る、という案も出たが、それはそれで不便だろうとこうなった。少人数だからこそのフットワークの軽さだろうが、休みといったところで誰かが訪ねて来るとなれば、状況によっては誰かしらは対応することになるだろう。

「雪季、夏休みどっか海外行く? 結構会ってないの多いし、仕事からめたらひと月ぐらいは行けるんじゃないかな」
「…俺も行くのは確定なのか」
「ボディガードだし、仕事するなら秘書だし」
「……本気なら、パスポートを取らないと」
「へ?」

 わざわざ見なくても、視界のはしで英がシートベルトに邪魔されながら体を起こすのがわかった。体ごとといっていいくらいに、顔を雪季に向けている。

「でも前…期限切れ?」

 今の生活の直接のきっかけになった、客船でのことを言っているのだろう。上海や香港に立ち寄ったために、パスポートは必須だった。

「いろいろとあって、正規のルートで取ってない」
「え。偽造? 偽造パスポート?! あー…忘れてたけど、かなりブラックな仕事だったんだよなあ、スノーホワイト」
「それで呼ぶな」

 雪季の前職は、これ以上ないほどに真っ黒だった。

「まだ持ってる? 見てみたいんだけど」
「…見て、何のえきが」
「ただの興味」
「処分した」
「えー」

 不満そうな声を出すが、少し前までのひねた感じは抜けていた。そして、ちらりと目を向けた英がなぜか嬉しげに見えて困惑する。それと同時に、少しばかりの厭な予感。
 気のせいだと振り切りたくて、雪季はどこか明るさを感じる夏の闇に目をらす。

「終わった高校時代をどうこう言っても仕方ない。これからたくさん遊べばいいか」

 思わず顔を向けそうになって、意識して視線を前に投げ続ける。何やら楽しげだが、雪季としてはたまったものではない。

「…わかってると思うが、今ここにいるのは遊び相手じゃなくて」
「はいはい、仕事だって言うんだろ。上司と部下で雇用主と被雇用者。でも別に、だからって一緒に楽しんじゃいけないわけじゃないだろ。仕事だからって遊んだっていいんだから」
「…勘弁してくれ」

 思わずこぼれ出たぼやきは英にも届いたはずだが、あっさりと無視された。それどころか、ますます上機嫌になったような気配すらある。
 携帯端末を取り出して検索を始めた英は、それから、家にたどり着くまで国内外構わず行ってみたい観光スポットを上げ始めた。
 帰宅したころには、どこへかはともかく、旅行に行くことだけはほぼ決まったようだった。雪季の拒否権は、どこかに投げ捨てられた状態で。

「雪季雪季、何か食べたい」
「…何を。鳴ってる」
「えー?」

 車を降りようとしたところで話しかけられ、止まったところで英の携帯端末から基本設定のままの着信音が鳴った。いやそうに画面を見て、そのまま切ってしまう。

「…おい?」
「篠原。出る必要ない」
「いや、出た方がよかったんじゃないか」
「へ?」

 不思議そうに見られて、そのまま視線を玄関先へと導いた。人感センサーのライトに照らされ、人影が立っている。こちらに気付いたようで振り返り、逆光で表情までは見えないが、誰かは見当がついた。

「げ」

 先ほど会場に置き去りにして来たはずの同級生の姿に、英は、心底厭そうな声を漏らした。
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