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同窓会
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とっとと寝たいな、と、雪季は思った。果たして英は明日も仕事だということをちゃんと覚えているのか、そこも気になるところだ。
何故こんなところでこんな時間に、酒盛りが始まってしまったのか。
「え、これ美味い。中原、アキラ見限って俺んとこ来ない?」
「は? エリートとはいえ公務員様に給料出せんのかよ」
「うわ成金発言。金で買ってるんだぜ感凄いんだけど。中原、ご主人これでいいのか? 後悔してない?」
「金だけじゃないし。俺らのことに口出すな」
「酒」
篠原にホワイト・ルシアンを、英にビターカルーア・ミルクを渡して、雪季はキッチンカウンターの内側の椅子に腰を落とす。篠原は酒癖はそれほど悪くないということなので早く酔い潰したいし、英は酔っ払うと面倒なのであまり飲まないでほしい。
家の前で待ち構えていた篠原と英が始めてしまった酒盛りに関わらずに先に寝てしまおうと思ったのだが、篠原には二階に自室があると思わせていたなと気付いて足を止めてしまった隙に、引きずり込まれてしまった。
キッチンの内側に席を作れただけ頑張った方かも知れない。少なくともカウンター分、この二人の間に障害物を挟めた。
「これも美味い。自宅で本格的にカクテル飲めるってどれだけ贅沢なんだよ」
「雪季なんでもできるから」
「誇大妄想」
「はは、塩対応。実は嫌われてんじゃねーの、アキラ」
「そんなことねーし」
雪季はウーロン茶を口にしながら、慣れたようなやり取りを聞き流す。なんだかんだ言って、この二人、結局のところ仲が良いのではないだろうか。心底、巻き込まれたくなかった。
二階の形だけの客室は、一応寝具一式はそろっているしハウスクリーニングが入っているから埃が積もっているということもない。そこを借りればいいかと決めて、軽く食べてもう寝てしまおうと決める。同窓会でもそれなりに食べるものはあったのだが、あまり食べた気がしない。
「お茶漬けか何か食べるか?」
「こんな甘い酒出しといて何勝手に締めに入ろうとしてんだよ」
「ていうか中原全然酒飲んでないよな? 飲めない?」
「気分じゃない。軽く食べたら寝るから、あとは勝手にしろ」
「えー」
見事にそろった声を無視して、冷凍ご飯を一人分取り出す。
下手に長居をすると無駄に絡まれそうなので、作るのも放棄してお茶漬けの素で済まそうと収納棚を探る。いつだったかに買った分が、まだ残っていたはずだ。
「待った雪季、先にこいつ送って行って。電車まだあるから」
「はあ? 泊めろよ、薄情者」
「こっちは明日も仕事だっての。上げてやっただけ感謝しろ」
正直、篠原と二人きりは嬉しくない。だが、英は酒を飲んでいるので車の運転はできないし、泊まり込まれるよりは帰ってもらった方がありがたい。
ご飯を解凍最中のレンジにちらりと視線を投げはしたが、応じて、立ち上がる。
「そこの駅まででいいな?」
「どうせなら家まで」
「断る」
一人のんびりとグラスを傾ける英が恨めしいが、朝まで二人で飲み明かされるよりはましと抑え込む。篠原もはっきりと不満気な視線を投げるが、英は素知らぬ顔だ。
篠原はそれでも少しばかり粘ったが、最終的に、残っていたつまみを平らげてグラスの酒を干し、何故かおにぎりをねだられて先ほど解凍したご飯で小ぶりのものを二つ作って持たせて、ようやく腰を上げた。
夜風は生ぬるく、たっぷりと湿り気を帯びて重かった。
「あーあ。もうちょっと遊べるかと思ったのに」
当然のように助手席に乗り込んだ篠原に軽く息を吐き、雪季はそっと車を動かした。
根本的に向いていないのか、いまだ、運転中の距離感に慣れない。たまに四十万に借りるバイクではそんなことはないのだが、自分の体だけでなく空間ごと動くということに違和感があるのかも知れない。
篠原の視線が突き刺さる。
「運転中の会話って平気?」
「得意じゃない」
「へえ、案外不器用なのか。でかい独り言みたいになるから、合いの手くらい入れてほしいんだけど」
何の話だ、と思ってから、先ほどの発言を何か拾ってほしかったのかと気付く。結愛のぼやきを笑えない、遅いな、と、雪季は心の内で苦笑した。
それにしても、運転中の会話が不得意だと言ったのにいい性格をしている。これで事故を起こしても責任は問えないだろうところが忌々しい。
「そっちは四六時中一緒かもしれないけど、俺は忙しい中時間を工面してるんだからもう少し遠慮してもいいと思わない?」
何か色々と誤解を生みそうな台詞だな、とぼんやりと聞き流す。心底、勘弁してほしい。
「文句なら河東に言ってくれ」
「言ったところで聞かないからこっちに言ってるんだけど?」
「今日は逃げ遅れただけで今までもこれからも邪魔するつもりも関わるつもりもない。勝手に二人で遊んでてくれ」
「そうしたいのにそっちが邪魔してるんだろ」
大げさにため息をついて見せると、考えるように間を置いた。篠原が黙ると、低い車の走行音だけが聞こえる。気が散るためあまりラジオをつけたりはしないのだが、どうしようかと迷う程度の時間さえあった。
隣を、コンビニの配送車が抜けていった。
「ラッツ、って聞いたことある?」
「………ラッツ&スター?」
舞い戻った沈黙に、ミラー越しに見えてしまった篠原の顔つきは、何を言われたのかわからないと言いたげだった。
「…バンド。昔の。多分、八十年代が最盛期」
「中原、何歳?」
「残念ながら同級生だ」
携帯端末を取り出したのは、調べているのだろうか。曲を聴けば知っているのではないか。年齢詐称を疑われるいわれはない。
とりあえず、篠原が口にしたのが雪季の知るそれと同じでなければいいと思ったのだが、それこそ「残念ながら」だった。
軽く首をひねって端末をしまった篠原は、もう一度「ラッツ」と口にした。
「所謂半グレってやつかな。そこそこ有名だったし、噂くらい聞いててもおかしくないかと思ったけど、まあ中原はそういうのないか。真面目そうだもんな」
面白くはないだろうに、口元は笑みを保っている。英と同じような習い性とでもいうべき「仮面」なのだろう。
「ああ、半グレってわかる?」
「とりあえず。暴力団の一歩手前くらいの認識でいいか?」
「うーん、まあいいか。そう、暴力団の一歩手前っていうのが面倒でね。暴対法で縛れない。でも最近、一部の組と急接近してるってことで引っ張れるかと思った矢先に、どうしてだか勝手に瓦解してさ。跡形もなく消えた」
半グレは訊いたのに暴対法は注釈を入れないんだなとどうでもいいことを考えながら、赤信号で一度車を止める。駅まではまだ半分ほどの距離で、もうしばらくこの話に付き合わされそうだ。
篠原は、ふいと視線を雪季がいるのとは逆側の窓に投げた。
「子どものころ、少しはまってた遊びがあってさ。なりすまし、とは少し違うか。でもまあ似たようなものかな。警察官だって匂わせてネットで遊んでた。案外ばれないものだよ」
「…子どものころ?」
「そ。小学生くらい。中学からは部活とかリアルの人間関係の方が面白くなったからネット絡みはそれほどやらなくなって。何年生かは忘れたけど、ラッツの大本を作ったの、俺なんだ」
「…は?」
「こういうのあったら厄介そうだよねーって、三人くらいと話してたらなんかいろいろと実体化していって。あの時の二人が具体的に立ち上げに動いたみたいだけど、最後はもう抜けてたみたいだったなあ」
雪季は、ともすると意識が逸れそうで車の運転に集中するのに苦労した。
ラッツの立ち上げの話は進士から聞いている。四人いたというのも、自称警察官がいたというのも。だが他に小学生もいたということだったが、篠原の話が本当であればどちらに当てはまるのか。警察官の方か、ばれていないと思っていたのは本人だけで、見抜かれていて小学生と知られていたのか。
前者なら、立ち上げのうちの二人は小学生ということで、本当に与太話だったということになる。だからどうというわけではないが、そんなものがあれほど育ったとなると、多少の空恐ろしさも感じてしまう。
「…何の思い出話だ?」
「結構楽しかったんだよ。親父から聞いた裏話なんかを書き込んでたら警察官だろってなって。俺はそんなこと一言も書いてないのに、簡単に騙されるもんなんだなあって。ネットの方が簡単だけど、リアルでも似たようなもので、人生ってずいぶんイージーモードなんだなって思ってたら、初めて会った同類がアキラでさ」
もうこれ聞き流してもいいだろうか、と、雪季はかなり本気で思った。何故、他人が他人に執着する理由を聞いていなければならないのだろう。予想通りではあったが、当たってうれしいとも思えない。
そういえば強い酒を飲ませたなと、思い出して頭を抱えたくなった。酔い潰そうなどとしなければよかった。
「ああこいつは俺と同じものを見てるなって、こいつとならちゃんと遊べるかなって思ったのに、全然つれなくて。でも誰と一緒にいても本当に楽しんでるわけじゃないのはわかるから、結局長く付き合えるのは、わかるのは俺だけだろうって思ってたのに。…なんでお前といて楽しそうなんだよ」
雪季は、深々と息を吐いた。
「だから。そういうのは本人に訊いてくれ」
「訊いて答えるわけないだろ」
それはそれで正解だろうが、だからといって雪季が答えを持っているわけでもない。そのくらいは篠原もわかっているのだろうから、つまりこれはただの八つ当たりだ。
今日一日の疲れが、どっと肩にのしかかる。
「…小学生か」
「ん? 何?」
「誰が誰と一番仲が良いとか、小学生の順位つけじゃないんだから勘弁してくれ。そもそもあいつともお前とも友人でもないんだから巻き込むな。着いたぞ」
言い置いて、先に車を降りる。改札の目の前だが、今は人気がないから、少しくらいなら文句を言われることもないだろう。
すぐ近くにコンビニもあって利用の少なそうな自販機に、硬貨を入れて水のボタンを押す。
ぬるい空気と違ってよく冷えたペットボトルを、のろのろと車から降りてきた篠原に投げ渡す。声もかけなかったのにきっちりと受け取ってから、不思議そうに首をかしげた。
「えーと?」
「酔って寝過ごすなよ」
「へーえ。うん、ありがとう」
にっこりと笑って立ち去る後ろ姿は、よくよく気にして見れば多少危なっかしい足取りではあるが、千鳥足とまではいかないだろう。
篠原も明日通常出勤だったら申し訳ないな、という気もするが、反対に、他の人に迷惑をかけない程度に二日酔いにでもなればいいのに、とも思う。
そんな思いを溜息とともに押し出して、雪季は車に乗り込んだ。
何故こんなところでこんな時間に、酒盛りが始まってしまったのか。
「え、これ美味い。中原、アキラ見限って俺んとこ来ない?」
「は? エリートとはいえ公務員様に給料出せんのかよ」
「うわ成金発言。金で買ってるんだぜ感凄いんだけど。中原、ご主人これでいいのか? 後悔してない?」
「金だけじゃないし。俺らのことに口出すな」
「酒」
篠原にホワイト・ルシアンを、英にビターカルーア・ミルクを渡して、雪季はキッチンカウンターの内側の椅子に腰を落とす。篠原は酒癖はそれほど悪くないということなので早く酔い潰したいし、英は酔っ払うと面倒なのであまり飲まないでほしい。
家の前で待ち構えていた篠原と英が始めてしまった酒盛りに関わらずに先に寝てしまおうと思ったのだが、篠原には二階に自室があると思わせていたなと気付いて足を止めてしまった隙に、引きずり込まれてしまった。
キッチンの内側に席を作れただけ頑張った方かも知れない。少なくともカウンター分、この二人の間に障害物を挟めた。
「これも美味い。自宅で本格的にカクテル飲めるってどれだけ贅沢なんだよ」
「雪季なんでもできるから」
「誇大妄想」
「はは、塩対応。実は嫌われてんじゃねーの、アキラ」
「そんなことねーし」
雪季はウーロン茶を口にしながら、慣れたようなやり取りを聞き流す。なんだかんだ言って、この二人、結局のところ仲が良いのではないだろうか。心底、巻き込まれたくなかった。
二階の形だけの客室は、一応寝具一式はそろっているしハウスクリーニングが入っているから埃が積もっているということもない。そこを借りればいいかと決めて、軽く食べてもう寝てしまおうと決める。同窓会でもそれなりに食べるものはあったのだが、あまり食べた気がしない。
「お茶漬けか何か食べるか?」
「こんな甘い酒出しといて何勝手に締めに入ろうとしてんだよ」
「ていうか中原全然酒飲んでないよな? 飲めない?」
「気分じゃない。軽く食べたら寝るから、あとは勝手にしろ」
「えー」
見事にそろった声を無視して、冷凍ご飯を一人分取り出す。
下手に長居をすると無駄に絡まれそうなので、作るのも放棄してお茶漬けの素で済まそうと収納棚を探る。いつだったかに買った分が、まだ残っていたはずだ。
「待った雪季、先にこいつ送って行って。電車まだあるから」
「はあ? 泊めろよ、薄情者」
「こっちは明日も仕事だっての。上げてやっただけ感謝しろ」
正直、篠原と二人きりは嬉しくない。だが、英は酒を飲んでいるので車の運転はできないし、泊まり込まれるよりは帰ってもらった方がありがたい。
ご飯を解凍最中のレンジにちらりと視線を投げはしたが、応じて、立ち上がる。
「そこの駅まででいいな?」
「どうせなら家まで」
「断る」
一人のんびりとグラスを傾ける英が恨めしいが、朝まで二人で飲み明かされるよりはましと抑え込む。篠原もはっきりと不満気な視線を投げるが、英は素知らぬ顔だ。
篠原はそれでも少しばかり粘ったが、最終的に、残っていたつまみを平らげてグラスの酒を干し、何故かおにぎりをねだられて先ほど解凍したご飯で小ぶりのものを二つ作って持たせて、ようやく腰を上げた。
夜風は生ぬるく、たっぷりと湿り気を帯びて重かった。
「あーあ。もうちょっと遊べるかと思ったのに」
当然のように助手席に乗り込んだ篠原に軽く息を吐き、雪季はそっと車を動かした。
根本的に向いていないのか、いまだ、運転中の距離感に慣れない。たまに四十万に借りるバイクではそんなことはないのだが、自分の体だけでなく空間ごと動くということに違和感があるのかも知れない。
篠原の視線が突き刺さる。
「運転中の会話って平気?」
「得意じゃない」
「へえ、案外不器用なのか。でかい独り言みたいになるから、合いの手くらい入れてほしいんだけど」
何の話だ、と思ってから、先ほどの発言を何か拾ってほしかったのかと気付く。結愛のぼやきを笑えない、遅いな、と、雪季は心の内で苦笑した。
それにしても、運転中の会話が不得意だと言ったのにいい性格をしている。これで事故を起こしても責任は問えないだろうところが忌々しい。
「そっちは四六時中一緒かもしれないけど、俺は忙しい中時間を工面してるんだからもう少し遠慮してもいいと思わない?」
何か色々と誤解を生みそうな台詞だな、とぼんやりと聞き流す。心底、勘弁してほしい。
「文句なら河東に言ってくれ」
「言ったところで聞かないからこっちに言ってるんだけど?」
「今日は逃げ遅れただけで今までもこれからも邪魔するつもりも関わるつもりもない。勝手に二人で遊んでてくれ」
「そうしたいのにそっちが邪魔してるんだろ」
大げさにため息をついて見せると、考えるように間を置いた。篠原が黙ると、低い車の走行音だけが聞こえる。気が散るためあまりラジオをつけたりはしないのだが、どうしようかと迷う程度の時間さえあった。
隣を、コンビニの配送車が抜けていった。
「ラッツ、って聞いたことある?」
「………ラッツ&スター?」
舞い戻った沈黙に、ミラー越しに見えてしまった篠原の顔つきは、何を言われたのかわからないと言いたげだった。
「…バンド。昔の。多分、八十年代が最盛期」
「中原、何歳?」
「残念ながら同級生だ」
携帯端末を取り出したのは、調べているのだろうか。曲を聴けば知っているのではないか。年齢詐称を疑われるいわれはない。
とりあえず、篠原が口にしたのが雪季の知るそれと同じでなければいいと思ったのだが、それこそ「残念ながら」だった。
軽く首をひねって端末をしまった篠原は、もう一度「ラッツ」と口にした。
「所謂半グレってやつかな。そこそこ有名だったし、噂くらい聞いててもおかしくないかと思ったけど、まあ中原はそういうのないか。真面目そうだもんな」
面白くはないだろうに、口元は笑みを保っている。英と同じような習い性とでもいうべき「仮面」なのだろう。
「ああ、半グレってわかる?」
「とりあえず。暴力団の一歩手前くらいの認識でいいか?」
「うーん、まあいいか。そう、暴力団の一歩手前っていうのが面倒でね。暴対法で縛れない。でも最近、一部の組と急接近してるってことで引っ張れるかと思った矢先に、どうしてだか勝手に瓦解してさ。跡形もなく消えた」
半グレは訊いたのに暴対法は注釈を入れないんだなとどうでもいいことを考えながら、赤信号で一度車を止める。駅まではまだ半分ほどの距離で、もうしばらくこの話に付き合わされそうだ。
篠原は、ふいと視線を雪季がいるのとは逆側の窓に投げた。
「子どものころ、少しはまってた遊びがあってさ。なりすまし、とは少し違うか。でもまあ似たようなものかな。警察官だって匂わせてネットで遊んでた。案外ばれないものだよ」
「…子どものころ?」
「そ。小学生くらい。中学からは部活とかリアルの人間関係の方が面白くなったからネット絡みはそれほどやらなくなって。何年生かは忘れたけど、ラッツの大本を作ったの、俺なんだ」
「…は?」
「こういうのあったら厄介そうだよねーって、三人くらいと話してたらなんかいろいろと実体化していって。あの時の二人が具体的に立ち上げに動いたみたいだけど、最後はもう抜けてたみたいだったなあ」
雪季は、ともすると意識が逸れそうで車の運転に集中するのに苦労した。
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前者なら、立ち上げのうちの二人は小学生ということで、本当に与太話だったということになる。だからどうというわけではないが、そんなものがあれほど育ったとなると、多少の空恐ろしさも感じてしまう。
「…何の思い出話だ?」
「結構楽しかったんだよ。親父から聞いた裏話なんかを書き込んでたら警察官だろってなって。俺はそんなこと一言も書いてないのに、簡単に騙されるもんなんだなあって。ネットの方が簡単だけど、リアルでも似たようなもので、人生ってずいぶんイージーモードなんだなって思ってたら、初めて会った同類がアキラでさ」
もうこれ聞き流してもいいだろうか、と、雪季はかなり本気で思った。何故、他人が他人に執着する理由を聞いていなければならないのだろう。予想通りではあったが、当たってうれしいとも思えない。
そういえば強い酒を飲ませたなと、思い出して頭を抱えたくなった。酔い潰そうなどとしなければよかった。
「ああこいつは俺と同じものを見てるなって、こいつとならちゃんと遊べるかなって思ったのに、全然つれなくて。でも誰と一緒にいても本当に楽しんでるわけじゃないのはわかるから、結局長く付き合えるのは、わかるのは俺だけだろうって思ってたのに。…なんでお前といて楽しそうなんだよ」
雪季は、深々と息を吐いた。
「だから。そういうのは本人に訊いてくれ」
「訊いて答えるわけないだろ」
それはそれで正解だろうが、だからといって雪季が答えを持っているわけでもない。そのくらいは篠原もわかっているのだろうから、つまりこれはただの八つ当たりだ。
今日一日の疲れが、どっと肩にのしかかる。
「…小学生か」
「ん? 何?」
「誰が誰と一番仲が良いとか、小学生の順位つけじゃないんだから勘弁してくれ。そもそもあいつともお前とも友人でもないんだから巻き込むな。着いたぞ」
言い置いて、先に車を降りる。改札の目の前だが、今は人気がないから、少しくらいなら文句を言われることもないだろう。
すぐ近くにコンビニもあって利用の少なそうな自販機に、硬貨を入れて水のボタンを押す。
ぬるい空気と違ってよく冷えたペットボトルを、のろのろと車から降りてきた篠原に投げ渡す。声もかけなかったのにきっちりと受け取ってから、不思議そうに首をかしげた。
「えーと?」
「酔って寝過ごすなよ」
「へーえ。うん、ありがとう」
にっこりと笑って立ち去る後ろ姿は、よくよく気にして見れば多少危なっかしい足取りではあるが、千鳥足とまではいかないだろう。
篠原も明日通常出勤だったら申し訳ないな、という気もするが、反対に、他の人に迷惑をかけない程度に二日酔いにでもなればいいのに、とも思う。
そんな思いを溜息とともに押し出して、雪季は車に乗り込んだ。
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