56 / 73
中編
第三幕1
しおりを挟む
桜が咲き乱れている。
染井吉野、彼岸桜、八重桜、枝垂桜、大島桜…。
一度に咲くとは思えない様々な桜が、全て満開に咲き乱れている。見渡す限り桜が咲き、風に花弁が舞い散る。だが、どの木も満開だった。
二人は、その光景に目を見張った。
他の二人が、それを微笑して見ている。
「お弁当持って来れば良かったかな」
「作るの誰だと思ってるんだよ」
「もちろん、セイギ。いいじゃない、趣味と実益。便利だね―」
「遅いな」
故意にか否か、セイギは彰の言葉を無視して、木々の向こうを眺めやった。どこまでも続く桜の木しか見えないが、その方向に進んでいけば、そのうち小屋が発見できる。
「お茶でも飲んでるんじゃない? トゥーヤン、料理上手だし」
セイギと同じ方向を見て、彰が言う。そこは、ロクダイが歩いて行った方角だ。
「月夜の猫屋」にいた面々は、彰の言う代理道にきていた。
「お別れ」を言いに行った真理と、あの後もいくつかの質問をしていたゆかり。この二人と制服姿のセイギは店内からそのまま来たが、道路でスケボーでもしていそうな服に着替えた彰と着流し姿のロクダイは、それぞれ手に蒼い棒を持っていた。
セイギの身長ほどもある細い棒は、色が違えば孫悟空の持つ如意棒にも見える。この棒に関して、二人は「用心」との言葉しか聞いていない。
「茶なんか飲むか? こんなときに」
「わかんないよ。あ。来た来た。噂をすれば影が差すって、本当だね」
こちらに歩いてくるロクダイに、元気に手を振る。
ロクダイは、この空間の管理人に会いに行っていたのだ。通るのに許可は要らないが、言っておいた方が、何かあった時に便利なのだ。
「遅い。何してたんだよ」
「ああ…茶を、馳走になっておった」
ほらねと言いたげに、彰がセイギを見る。セイギは、呆れたように溜息をついた。
「そんなの、後でいくらでも飲めるだろ。人を待たせるなよ」
「ああ、すまん。さて、行こうか」
「おーい、行くよ―っ、ゆかり、真理―っ」
桜に見惚れていた二人が、はっとして彰を見る。セイギとロクダイの隣で彰が手招きをすると、ゆかりは頬を上気させて、真理は決まり悪げに駆け寄ってきた。
彰の「それじゃ」という声をきっかけに、5人は歩き出した。
咲き乱れる桜の木々の中を歩くのは、どこか現実場慣れしていて夢の中のピクニックを思わせる。ゆかりも真理も、つい今の状況を忘れそうになっていた。
「綺麗ですね―…」
「でしょ。年に一回開かれる花見が楽しみなんだよね」
「花見って…」
真理が、呆れたように首を振る。その心情もわからないではないが、人の生死の場所では、あまりそういったことをしてほしくないと思う。
「他にも、竹ばっかりのところとかバラばっかりのところとかがあるんだよ。それぞれの場所で、年に一回はイベントがあるし」
「た、楽しそうですね」
少しばかり、ゆかりの笑顔が引きつっている。
それを見て、セイギは苦笑した。自分も、初めてそう聞いた時はのけぞったものだ。まさか死んでまで、年中行事をやるとは思いもしなかった。
染井吉野、彼岸桜、八重桜、枝垂桜、大島桜…。
一度に咲くとは思えない様々な桜が、全て満開に咲き乱れている。見渡す限り桜が咲き、風に花弁が舞い散る。だが、どの木も満開だった。
二人は、その光景に目を見張った。
他の二人が、それを微笑して見ている。
「お弁当持って来れば良かったかな」
「作るの誰だと思ってるんだよ」
「もちろん、セイギ。いいじゃない、趣味と実益。便利だね―」
「遅いな」
故意にか否か、セイギは彰の言葉を無視して、木々の向こうを眺めやった。どこまでも続く桜の木しか見えないが、その方向に進んでいけば、そのうち小屋が発見できる。
「お茶でも飲んでるんじゃない? トゥーヤン、料理上手だし」
セイギと同じ方向を見て、彰が言う。そこは、ロクダイが歩いて行った方角だ。
「月夜の猫屋」にいた面々は、彰の言う代理道にきていた。
「お別れ」を言いに行った真理と、あの後もいくつかの質問をしていたゆかり。この二人と制服姿のセイギは店内からそのまま来たが、道路でスケボーでもしていそうな服に着替えた彰と着流し姿のロクダイは、それぞれ手に蒼い棒を持っていた。
セイギの身長ほどもある細い棒は、色が違えば孫悟空の持つ如意棒にも見える。この棒に関して、二人は「用心」との言葉しか聞いていない。
「茶なんか飲むか? こんなときに」
「わかんないよ。あ。来た来た。噂をすれば影が差すって、本当だね」
こちらに歩いてくるロクダイに、元気に手を振る。
ロクダイは、この空間の管理人に会いに行っていたのだ。通るのに許可は要らないが、言っておいた方が、何かあった時に便利なのだ。
「遅い。何してたんだよ」
「ああ…茶を、馳走になっておった」
ほらねと言いたげに、彰がセイギを見る。セイギは、呆れたように溜息をついた。
「そんなの、後でいくらでも飲めるだろ。人を待たせるなよ」
「ああ、すまん。さて、行こうか」
「おーい、行くよ―っ、ゆかり、真理―っ」
桜に見惚れていた二人が、はっとして彰を見る。セイギとロクダイの隣で彰が手招きをすると、ゆかりは頬を上気させて、真理は決まり悪げに駆け寄ってきた。
彰の「それじゃ」という声をきっかけに、5人は歩き出した。
咲き乱れる桜の木々の中を歩くのは、どこか現実場慣れしていて夢の中のピクニックを思わせる。ゆかりも真理も、つい今の状況を忘れそうになっていた。
「綺麗ですね―…」
「でしょ。年に一回開かれる花見が楽しみなんだよね」
「花見って…」
真理が、呆れたように首を振る。その心情もわからないではないが、人の生死の場所では、あまりそういったことをしてほしくないと思う。
「他にも、竹ばっかりのところとかバラばっかりのところとかがあるんだよ。それぞれの場所で、年に一回はイベントがあるし」
「た、楽しそうですね」
少しばかり、ゆかりの笑顔が引きつっている。
それを見て、セイギは苦笑した。自分も、初めてそう聞いた時はのけぞったものだ。まさか死んでまで、年中行事をやるとは思いもしなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる