夜明けの晩

来条恵夢

文字の大きさ
15 / 67
そうして、事態は発覚する

4

しおりを挟む
コウさん」
「はい。ごめん、少し外します」

 いつもながらに、他人がいるときの響の態度はむず痒い。それでもそんなことは一切表に出さず、部屋を出た。
 この間に五人は、何か話すのだろうか。それとも、内輪話をするのは解散した後か。とても仲良しとは言いがたい組み合わせだ。
 扉を閉めてから、いまだに人前用の猫を被っている響を見上げる。

「誰から?」
「生徒会の秋山アキヤマ、と名乗っていました」
「秋山先輩? 電話なんて珍しい」

 学校でこそ頻繁に顔をあわせ、お互いの連絡先も知っているけど、電話をもらったことはない。急ぎだろうかと、厭な予感がした。
 ちなみに、響が私の位置を察知できることもあって、私は携帯端末を持っていない。学内や通学途中は別として、響が傍にいなくとも、誰かしら携帯端末を持っている人と一緒にいることが多い。
 それでなくとも仕事関係は響の判断に任せているため、急ぎの連絡を取ることもなく、あまり必要を感じないのだ。
 友人たちからの連絡は、あるとすればパソコンのメールか家の電話で受け取る。
 おかげでSNSやネットを通じてのこまめな連絡を取り合う級友や部活仲間とは見えない隔たりがあるようだけれど、気にはならない。

「もしもし、お電話換わりまし――」
『昨日からうちの生徒が何人か消えてるのを知ってるか』

 前置き抜きの発言の、その内容に目を見張る。

「美術部の森村薫さんが、昨夜の時点で帰宅していないことは聞いています。その他にも?」
『ああ。美術部で他にもう一人、写真部と新聞部が一人と、調理部が三人、生徒会からも一人』
「そんなに?」

 秋山先輩の言う通りなら、少なくとも八人が行方知れずということになる。いくらなんでも、尋常ではない。
 不審さが声に出たのか、秋山先輩からはいくらか不服そうな声が返った。

『今日、バレンタインの打ち合わせで集まってわかったんだ。ネット含めて騒ぎになりかけたのは一応止めたけど、どれだけもつか。そっちにも連絡が行くだろうけど、異常だ』
「何か共通点でも? 一緒に帰ったなら、揃ってどこかに拉致された疑いがありますね」
『いや、帰りはばらばらだったみたいだ。女子ばっかで、他に思い浮かぶのは、バレンタイン企画の裏方ってくらいか』

 ちらりと、響を見る。
 電話の本体を置いた部屋の入り口に立っているけど、秋山先輩の発言も含めて会話は全て聞こえているだろう。しかし、何の反応も示さない。

「警察には連絡しました?」
『今、各部の顧問と田中が保護者を呼んでる。親が気付いてなかったり今までにも無断外泊があったりで、森村のところ以外は、まだ届出は出してないらしい。だからまだ、本当に消えたとも限らないわけだけど――』

 場を、生徒会顧問の田中先生ではなく、顔を潰さないようにしながら秋山先輩が誘導しただろうと、想像がついた。そのくらい、お手の物だろう。

「確認は、取れているんですね?」
『スマホがつながらなくって、今日の集まりに来なくて、家や友達のところにもいないって程度にはな。今の時点で警察呼んだって何もできないだろうけど、マスコミが嗅ぎつけたらやばいぜ。ネットの方で何か変なとこに飛び火しないとも限らない』
「ですね」

 直接学園が叩かれることはないかも知れないが、一度ついた不信感は、そう簡単にはぬぐえない。
 実のところ、学校経営に思い入れがあるわけではない。だけど、今現在生徒として通い、気に入ってはいる。それを乱されるのは、大いに腹立たしい。
 しかしだからといって、一般的にはただの生徒の私が駆けつけるのは出すぎだ。そこは、秋山先輩も理解していた。

『一年皆川聡美、香山由美、梨木茜、橋場有子、二年佐奈川瑠香、山並静、平山優奈。友達はいるか?』
「……梨木ナシキアカネ。クラスメイトです。確認の電話、私にもくれたってことですね?」
『生徒会室だからな』
「ありがとうございます」

 友人を気遣っての行動になるようにと図ってくれた秋山先輩に感謝し、受話器を置いた。実際、茜さんが行方不明となれば、何もできなくとも気はく。
 それに、場合によっては私にも責任があるかもしれない。
 理事長としてはさて置いて、悪魔と契約をしたからなのか悪魔自身がいるからか、妙なものが寄ってくることがある。この二年弱で、それまでの十年ちょっとで全く縁のなかった奇怪な出来事に、何度遭遇したことか。
 純粋に人間だけが起こした厄介事も数多い。その余波が、生徒たちに及んでしまったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...