夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、事態は混迷する

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「返事したな、頼むぞ」
「え、いや、これは疑問…ちょっと、先輩!」

 逆に書類を押し付ける形でこちらに渡し、秋山先輩は早くも立ち上がっている。慌てて、横を通るところを狙ってその腕をつかまえた。

「目的、せめて言ってからにしてください」
「俺も出席を命じられてるんだが、退屈は厭だから話の合う奴を置いておこうっていう、ささやかな願望だ。いいだろ、これくらいのわがまま。ほら出ろ、鍵かけるぞ」

 腕をつかんでいるにも拘らず、秋山アキヤマ先輩はどんどん進んでいってしまう。引っ張られることになって、こういう時は体格と体力の差が悔しいと、苦々しく思う。
 そうして、鍵なしで開けるよりもかけるほうが難しいらしいのにてきぱきと実演してみせるのを眺めているときには、半ば諦めていた。

「いいですけど、羽山成ハヤマナリコウとは名乗りませんからね。これ、私の名前になってませんよね? なってるなら、親戚とか適当にフォローしておいてくださいよ。ああいうパーティーは、招待状だけ借りるとか名代出席とか結構あるし大丈夫でしょう? キタゾノとのお付き合いは、微妙なんですから」
「ああ、それでいい。俺が来てほしいのは、羽山成じゃなくて皓だからな」

 そう言って、打算人の癖に無邪気そうに笑う。何というか、いろいろとずるいというか、羨ましい人だ。

「じゃあ、また後で」

 手をひらめかせながら去る秋山先輩の背を見送ってから、職員室前の公衆電話にカードを差し込んだ。今や珍しいテレホンカードを入れると、半分は無自覚にボタンを押していく。

『何だ』

 素っ気ない声に、心が落ち着く。動揺していたと、そこで自覚した。
 あれでは口説くどき文句のようではないか、と、今更ながら思ってしまう。

ヒビキ。正門に迎えに来てくれない?」
『わかった』

 まるきり用件だけの電話を終えると、受話器を戻しながら、必死に、心の中の叫びを口に出さないように堪えていた。
 おかげで、公衆電話からなのに確認せずに出るなんて、との茶々も入れられなかった。

 ――いやいやいやいや、待って、待ちなさい。そういうのはないから、有り得ないから。だってあの秋山先輩なんだから、絶対そういう意味じゃないしその意味含んでても、それで釣れたら確実に来るとかそんなところに違いないし。その前にあれは、単に気安い後輩に対するものってだけで。

 そんなことをぐるぐると考えながら、小説や漫画やドラマじゃなくてもあんなこと本当に言える人っているのねと、なんだか感心までしてしまったのがまずかったらしい。
 正門の前に既に止まっていた車に無造作に近寄ってしまった。

「ありが――え?」
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