夜明けの晩

来条恵夢

文字の大きさ
23 / 67
そうして、事態は混迷する

3

しおりを挟む
御曹司そんぞうしが、こんな泥棒まがいの特技を持っていていいんですか?」
「窮地を救ったヒーローになんて事を言うか」
「ヒーローは、自分でヒーローなんて言いませんよ、きっと」

 軽口を言い合いながらも素早く校長室内に入り込むと、後ろ手に戸を閉めた。
 しかし、学校の鍵は単純と相場が決まっているものだけど、だからといって簡単に開けられていいはずがない。回転できる校長の椅子に座り込んだ秋山アキヤマ先輩を見て、わざとらしく溜息をついて見せる。

「ありがたいですけど、名前をもう一度教えてもらうだけでよかったんですよ? 下手に問題になったら困るでしょう、キタゾノが」
「子どもは、親に迷惑をかけるもんだぜ?」

 そううそぶいて、秋山和利カズトシ――戸籍としては北園キタゾノ和利が、あざけるように笑った。
 キタゾノは、戦後急成長を遂げた医療メーカーだ。今では機械製品全般に手を伸ばしているけれど、車のブランドも立ち上げようと狙っているらしい。
 秋山先輩はそこの三代目候補だということだけれど、本人がそれを知らされたのは、比較的最近のことだという。母親の違う兄が事故で再起不能になり、母子家庭から引きずり出されたのだと。
 「秋山」は、母親の姓だ。

「ほれ、コピーとってやった。手際いいだろ?」
「呆れるほどに。ありがとうございます」

 あの短時間で、刑事さんをやり過ごして鍵を開け、生徒の調書の場所を探し当て、行方不明者たちの分をより分けてコピーをとって片付け、こうしてふんぞり返っているとは。
 有能な人間はいるものだと、こっそり溜息をついた。我が身との差に何とも言えない気分になる。
 そこで、思いついて首を傾げる。

「先輩なら、もっと悪の手先とか悪の生徒会とかのはびこってる学校にでも行った方が楽しかったんじゃないですか? どっちの陣営に入るにしても」
「って待て、悪の側にも入るのか俺は」
「当然でしょう?」

 むしろ、その方がのびのびとするに違いない。多様さを含む「悪」の方が断然、狭苦しくがんじがらめの「正義」よりも秋山先輩には似合う。
 にこりと、秋山先輩は完璧な笑顔になった。まるで、笑ってくださいと言われたモデルのように。

「美人が多かったんだ、ここ」
「納得しちゃうところが厭ですけど納得しました。美人じゃなくって申し訳ないですけど、感謝はしてます、ありがとうございました」

 なんだか疲れて会話を打ち切るはずが、受け取ろうとした書類を、秋山先輩が離さない。

「…何か?」
「ここまで手伝ってやったのには下心があってだな。今夜、キタゾノブランドのお披露目パーティーがあるのは知ってるな?」
「知りません」
「招待状は送ってるはずだ。捨てたなら、これ」
「はい?」

 いつの間にか、生徒情報の書類の上に真っ白な封筒が載せられている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...