夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、新たな事件が起こる

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暇潰ひまつぶし?」
「ああ。生きて死ぬまでの暇潰しだろう? 食事はどこででもできる。面白そうなものがあれば、逃す手はないだろう?」

 あまり好きな考え方ではない。言葉にすれば私の考えも似たようなものだろうけれど、投げやりにとらえているわけではない。

「#梨園__リエン_#学園の生徒を連れ去ったのも、私たちを連れてきたのも、暇潰しだったと? だからといって何を基準に…まさか」

 今日、秋山アキヤマ先輩と得た成果と、その後のささやかな共犯事。
 甘くないチョコレートドリンクを分け合ったことを思い出して、不意にひらめく。こじつけに似た、ただの直観だ。
 行方不明になった彼女たちに共通したものはいくつかあったが、私とは行方不明になった時期さえずれている。ただ――あのチョコレートドリンクだけが、彼女たちと私に共通している。

「…カカオワトル…?」
「ふむ、つながりに気付いたか。ますます興味深い。ただの思い付きで、深い意味はないのだけどね。あれを飲んでチーズを使った菓子を食べなかった子を選んでみた」

 思っていた以上にろくでもない、と、つい額を押さえた。
 そうして、少し前に触れられた時に感じた重みの正体に気付く。…髪が伸びている。紅子ベニコだったころよりも長いのではないか。ひざ裏に届いている。
 また指が鳴らされ、服が変わった。セーラー服から、布地のたっぷりとしたイギリス絵本の挿絵にでも出て来そうな白のワンピースに、一瞬で変化した。髪まで、ゆるくリボンを絡められている。
 いよいよ、どうしようもなく好きになれない。

「…変態」
「強がりも、ほどほどにした方がいい。僕は度量が広いけれど、それにも限りがある」
「自分でそう言う人に限って、実は狭量なのはどうしてでしょうね」
「いいかげんにしろと、言っているんだ」

 首を絞めようとするかのように延ばされた手を無視して、そのまま男を見る。
 見つめた瞳に、怒りよりも恐れが見えた。

「なんだ。ただの馬鹿かと思ったら、怯えているだけですか。どうせなら精いっぱい足掻あがけば、もう少しは楽になるでしょうに。――私は、そうしていたわ」

 終わってしまうことを恐れて、怯えて、それにもんで、この世界をくだらないものと思いたかった。だけど、そうしても何も変わらなかった。ただ余計に、こわくなった。逃げるだけでは、追いかけられる。
 一歩退いた。男は腕をらして、妙なものを見るような眼で私を見ていた。

「あなたの好きにすればいい。でも、私があなたと契約を結ばないということだけは自信をもって言えます」

 縛り上げられていたせいで痛む手首をさする。
 縄でできた擦り傷は手首をぐるりと囲い、酸化して黒ずんだ血がにじんでいる。足首の方は靴下のおかげかいくらかましのような気がするけど、やはり痛みはある。
 立っているのにも疲れて、上下もわからないまま座る動作を取る。
 もしも。ここで私が死んでしまった場合、ヒビキはどうするのだろうか。魂――という呼び方が正しいのかはわからないけれど、それは、ちゃんと響の元に届くのだろうか。
 約束――いや、契約を、破るつもりは全くないのだけれど。

「君は」

 呼びかけたきり黙り込んでしまった男を見て、首を傾げる。
 戸惑いが読みとれたけど、何を言おうとしたのかはわからない。こちらから声をかけようとしたものの、それよりも先に、風が吹いた。

コウ
「っ!」
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