夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、新たな事件が起こる

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「私は、あの人以外と契約を結ぶつもりはありません」
「……それはそれは」
「行方不明の生徒たちをさらったのはあなたですか? こんなところに連れて来られれば、見つけようもない。何のつもりか知らないけど、十人もの人間をどうするつもりですか。あなたに、それほどの契約を一度にこなせるほどの力があるとも思えないけれど?」

 睨みつけるが、男は笑う。
 覗き込むように不躾な視線を、表情を消したままで受け止めた。不自然なほどに均整の取れた男の顔は、人にそっくりなのに作り物めいて見えた。ピエロに似ているかもしれない。
 出会った時のヒビキには、底知れぬ恐ろしさは感じたがこんな人離れしたような狂気は感じなかった。
 男が、髪に触れた。急に、頭に重みを感じた。

「気に入った。君にしよう」

 ぱちりと、指を鳴らす音がした。同時に、解放される。しかし、目をらせなかった。 

「どういうことですか」
たわむれに契約相手を探すのもいいと思ったけど、見事にいい拾いものがあった。そういうことだよ。他の人間に、もう用はない」

 その言葉に、弾かれたように小夜子サヨコちゃんの姿を探す。どこにも見えず、男を睨むと、笑顔で再び映像を映し出した。
 先ほどまでいた段ボール箱の積み上げられた部屋に、今は小夜子ちゃんが一人で立っていた。いましめはなく、男三人が弱っていることを考えれば、逃げ出せるかもしれない。
 食い入るように見つめるけれど、小夜子ちゃんが動き出す前に映像はき消えた。

「サービスはここまで。さあ、契約条件の話に移ろうか」
「その気はないと言いました」
「それなら、君は一生ここから出られないよ?」
「あなたも、私の魂とやらを手に入れることはできません」

 男は、呆れるよりも感心したように息を吐いた。そうして、くすりと笑う。

「まあ、それも一興。所詮は、暇潰しだからね」

 睨みつけると、男は、大きく見栄えのする動作で肩をすくめた。まるで、二枚目を気取る俳優のように。
 全員が戻れたのだろうか。小夜子ちゃん以外は姿を見てもいないけど、安全な場所に戻れているだろうか。みんなが無事なら、残る問題は私の行方不明だけになるはずだ。
 それも、小夜子ちゃんが夢と思わずヒビキに正確なところを伝えてくれたら、どうにか誤魔化してこの一件は原因不明でも落着するだろう。

 たとえ、私が戻れなくても。

 だけど、小夜子ちゃんは逃げられただろうか。伝えてくれるだろうか。そもそも、男が見せたものや行ったことを、信用していいのだろうか。
 さっきは決めつけたけれど、生徒たちの失踪と本当に関わっているのかもわからない。
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