夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、新たな事件が起こる

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「やあやあいらっしゃい。おやまあ、二人も」

 突然に移動したのは、上下のよくわからない空間だった。暗いや黒いというよりは、ただひたすらに闇がある。それなのに、人の姿ははっきりと判る。
 待ち構えていたのは、人のよさそうな笑顔の割に、目の笑っていない男だった。整いすぎた顔は笑っているのに、妙に背筋の凍るような迫力がある。

「なんだこの縄は」

 言葉を聞いて、その意味するところを理解した時には、私たちの拘束はかれていた。小夜子サヨコちゃんが戸惑うように男を見遣り、私も、睨みつけるようにして見つめた。

「あなたは何者?」
「ひどいな、こんな可愛かわいらしい娘たちを傷つけるなんて」

 私の質問には答えず、男は、指を鳴らした。空間に鏡面めいた光景が浮かぶ。
 三人の男たちがいた。がっしりとした体つきの彼らのかたわらには、一つの狐面。衣類の製造工場のような場所だけど、機械は動かず、三人の他には人も見当たらない。埃ばかりが積もっている。
 何か話しているようだが、声は聞こえない。一人は背を向けており、一人は薄笑いを浮かべている。もう一人は険しい顔つきで、体格から、狐面をつけていた男のように思えた。
 また、指を鳴らす音が聞こえた。
 少しの間を置いて、三人が苦しみ出す。眼を見開き、咽喉を掻きむしる。必死に呼吸をしようとするのに、息が吸えないかのように。
 小夜子ちゃんが、おびえるように息を呑んだ。男は、上辺うわべだけは優し気な笑みを張り付けてそれを見遣る。
 思わず、その視線をさえぎるように体を割り入れていた。それに対し男は、たのしげに笑みを重ねる。

「このくらいのむくい、当然だろう?」
「やめてください」
「何故?」
「あなたは無関係でしょう。それに、彼らは殺されるほどにひどいことはまだしていない」
「…ふぅん」

 不思議そうに興味深そうに声を漏らし、また、指を鳴らす。
 映像の中の三人は、死に物狂いの形相は消え、疲れ果ててか座り込んだ。そこで映像が揺らめき、闇に戻る。

 男は、すらりとした指を伸ばし、私のあごを持ち上げた。それなりの距離があったはずなのに、気付けば男は、抱きしめられそうなほどの間近にいた。
 慌てて距離を取ろうとするけれど、顎を押さえる反対の手で肩をつかまれ、それだけで逃げられなくなる。

「君が落ち着いているのは、既に契約を交わしているからかな? でもここからは、俺がうなずかなければ出られない。どうだい、そいつを出し抜いて俺と契約をしないか? 大丈夫、そいつよりもいい夢を見せてあげよう。君の魂は随分と綺麗だ。それがちる様を、是非とも見たいね」

 あえて抵抗はせず、男の眼を見返す。
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