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そうして、新たな事件が起こる
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「相談は済んだか。替わる」
あまり悩む時間すらなく突き付けられた携帯電話に、大人しく耳を当てる。
『社長!? 社長ですか?!』
「あれ、名井さんは?」
てっきり響の声が聞こえると思っていたら、聞き覚えはあるものの違う声がする。狐面の男に無駄口を利くなと凄まれたけど、互いの確認くらい取れなければ意味もないだろうに、と、ぼやいて見せる。
『逆井ですっ、秘書の! 社長っ、本当に社長なんですかっ、名井先輩にも連絡つかないんですっ!』
ほとんど響の使い走りに使われているようなもう一人の秘書は、昨年の新入社員だっただろうか。
私も何度か顔を合わせてはいるけど、頼まれたことをこなすのに手いっぱいという感じだった。電話の向こうで、青ざめているだろう様子が目に浮かぶ。
「あー…ごめんなさい、犯人たちに誘拐されたみたいで。私です、羽山成晧です」
「わかったな。次の指示を待て」
悲痛な秘書の言葉はあっさりと耳元から離され、携帯電話も電源を落とされてしまった。複数犯とは伝えたが、何の足しにもなりそうにない。
狐面は、携帯電話をしまうと無言で歩き出した。引っ張られ、私も戻っていく。元の部屋に戻ると新しい縄を出して足を縛り直し、すぐに背を向ける。
「交渉するなら、まず私を相手にした方が早いと思いますよ?」
振り返りはしないけれど、足が止まる。
「一応、私が羽山成グループの最高責任者ということになっていますから。解任された覚えもありませんし。私から、解放するためにお金を用意しろって言わせた方が手っ取り早いかと」
「大人しくしていろ」
「それとも、私の解任が条件だったりしますか?」
今度は、足を止めることなく去ってしまった。誰かを雇ったのか、下っ端がやっているのか。容疑者が多すぎて、度胸と自信があれば誰でもやりかねないせいで、見当すらつかない。
溜息がこぼれる。
「…とりあえず、無事に帰そうという気はあるのかしら」
「と、思いたいね。小夜子ちゃん、腕は大丈夫?」
「擦り傷くらいでしょ。見たいとは思わないけど。…あなたこそ、大丈夫なの?」
「指も動くし、問題ないんじゃないかな。怪我のついでに少し協力してもらいたいことがあるのだけど、良い?」
「内容によるわ」
こんな状況でも、小夜子ちゃんは落ち着いている。怖くないわけはないと思うのだけれど、それを押しやって平静でいられるところがたのもしい。
「犯人たちがしばらく来ないと仮定して、縄を引っ張るかこするかしてどうにかできないか試してみない?」
「怪我のついでって何?」
「小夜子ちゃんに痛い思いをしてほしくはないのだけど、そうも言っていられない状況なのかな、と。もう怪我をさせてしまったし。あ。だからって、ひどいことになりそうだったらすぐやめようね」
「あなたって…」
何を言われるのかと待ったけれど、続きは呑み込まれ、そのままになってしまった。腕を縛る縄への試みも、少し引っ張ったところで終わった。
「きゃあ?!」
唐突に、自分が別の場所へと連れていかれるのを感じた。
悲鳴を上げた小夜子ちゃんは、腕を一緒に縛られていたための巻き添えと知ったのは後のこと。ただ、その覚えのある場所は、響と契約を交わす前の暗闇に似ていた。
あまり悩む時間すらなく突き付けられた携帯電話に、大人しく耳を当てる。
『社長!? 社長ですか?!』
「あれ、名井さんは?」
てっきり響の声が聞こえると思っていたら、聞き覚えはあるものの違う声がする。狐面の男に無駄口を利くなと凄まれたけど、互いの確認くらい取れなければ意味もないだろうに、と、ぼやいて見せる。
『逆井ですっ、秘書の! 社長っ、本当に社長なんですかっ、名井先輩にも連絡つかないんですっ!』
ほとんど響の使い走りに使われているようなもう一人の秘書は、昨年の新入社員だっただろうか。
私も何度か顔を合わせてはいるけど、頼まれたことをこなすのに手いっぱいという感じだった。電話の向こうで、青ざめているだろう様子が目に浮かぶ。
「あー…ごめんなさい、犯人たちに誘拐されたみたいで。私です、羽山成晧です」
「わかったな。次の指示を待て」
悲痛な秘書の言葉はあっさりと耳元から離され、携帯電話も電源を落とされてしまった。複数犯とは伝えたが、何の足しにもなりそうにない。
狐面は、携帯電話をしまうと無言で歩き出した。引っ張られ、私も戻っていく。元の部屋に戻ると新しい縄を出して足を縛り直し、すぐに背を向ける。
「交渉するなら、まず私を相手にした方が早いと思いますよ?」
振り返りはしないけれど、足が止まる。
「一応、私が羽山成グループの最高責任者ということになっていますから。解任された覚えもありませんし。私から、解放するためにお金を用意しろって言わせた方が手っ取り早いかと」
「大人しくしていろ」
「それとも、私の解任が条件だったりしますか?」
今度は、足を止めることなく去ってしまった。誰かを雇ったのか、下っ端がやっているのか。容疑者が多すぎて、度胸と自信があれば誰でもやりかねないせいで、見当すらつかない。
溜息がこぼれる。
「…とりあえず、無事に帰そうという気はあるのかしら」
「と、思いたいね。小夜子ちゃん、腕は大丈夫?」
「擦り傷くらいでしょ。見たいとは思わないけど。…あなたこそ、大丈夫なの?」
「指も動くし、問題ないんじゃないかな。怪我のついでに少し協力してもらいたいことがあるのだけど、良い?」
「内容によるわ」
こんな状況でも、小夜子ちゃんは落ち着いている。怖くないわけはないと思うのだけれど、それを押しやって平静でいられるところがたのもしい。
「犯人たちがしばらく来ないと仮定して、縄を引っ張るかこするかしてどうにかできないか試してみない?」
「怪我のついでって何?」
「小夜子ちゃんに痛い思いをしてほしくはないのだけど、そうも言っていられない状況なのかな、と。もう怪我をさせてしまったし。あ。だからって、ひどいことになりそうだったらすぐやめようね」
「あなたって…」
何を言われるのかと待ったけれど、続きは呑み込まれ、そのままになってしまった。腕を縛る縄への試みも、少し引っ張ったところで終わった。
「きゃあ?!」
唐突に、自分が別の場所へと連れていかれるのを感じた。
悲鳴を上げた小夜子ちゃんは、腕を一緒に縛られていたための巻き添えと知ったのは後のこと。ただ、その覚えのある場所は、響と契約を交わす前の暗闇に似ていた。
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