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そうして、新たな事件が起こる
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頭を撫でられ、促されるようにベッドに腰を下ろしたところで、服が制服に戻っていることに気付いた。髪に絡められていたリボンも外されている。
響が戻したのか、あの男の力の及ばないところに来たことで効力のようなものが切れたのか。どちらにしても、あまり好みではなかったので、よかったと思う。
ただ、髪が長いままなのは切らなくてはならないだろう。しかも、いくらなんでも不自然すぎる急な伸び方なので、自分でやるか響に切ってもらわなくてはならない。面倒なことをしてくれたものだ。
「記憶がないのは、晧に会う前からだ。生きるのに問題はなかったから、どうしてそうなったのかを調べようとも思わなかった」
言葉はただ淡々としていて、顔を上げようとしたら、頭を撫でる手でそのまま押さえつけられた。軽く押されているだけのようなのに、動かせない。
「ちょっ…」
「傷の手当てを…いや。そのままで」
ようやく頭の上からのいた手が、腕をつかんだ。縄の擦り傷をそっと掌で覆い、離れた時には、傷は跡形もなく消え去っていた。
「治しちゃっていいの?」
「何故」
「だって、やっぱり不自然でしょ。怪しまれる」
「誰も知らない傷だ。問題ない」
「え? あ。さぁちゃんは? 茜さんは? 他のみんなは?」
すっかり忘れていたことを心の中で詫びる。
正面に立ったままの響は、また頭を撫でてきた。気に入ったのか。子ども扱いをされているようで、少しばかりむず痒い。
「梅谷小夜子なら、他の八人と一緒に警察だ。梅谷真哉も付き添っている。秋山は…一度連れていかれたがすぐに家に戻ったようだ」
秋山先輩の名を聞いて、引きずられてかいろいろと疑問が湧いて出る。
今の私の立場はどうなっているのか。小夜子ちゃんは、あそこで見聞きしたことをどう思っているのだろうか。先にさらわれていた八人には、どれほどのどんな記憶が残っているのだろう。私たちをさらった方の誘拐犯は何者だったのか。
響が、軽く溜息をついたのがわかった。
「晧。お前は、失踪にも誘拐にも関わっていない。羽山成晧と間違われて、攫われたのは梅谷小夜子だけだ。四人で喫茶店に入って、一足先に別れたお前は気付かなかった。逆井も、他の三人と誘拐犯もそう思っている」
なるほどそう落ち着いたのか、と感心していると、睨まれた。
「それよりも。何故俺を呼ばなかった」
「え?」
「名を呼べば、もっと早く見つけられた」
「だって…名前…知られたらまずいのかなって…。響は凄いけど。でも、だから、私がそれを邪魔しては駄目でしょう? …足を引っ張りたくはないの」
望みすぎて、嫌われたり、勝手に裏切られた気持ちになるのは厭だから。望まないことには慣れている。
思うままにはならない体も、あまり会えずにいた両親や祖父母とも、そうやって折合ってきた。はじめから期待などしなければ、恨んだり、がっかりすることもない。
それが、紅子として生きてきて学んだことだった。それは、響と出会い、それまで諦めた多くのものを手にしてすら変わらず根を張る。
今度は、深々とため息をつかれた。
「あの場所で晧が死ねば、魂ごと捕らわれたままになっていた。今回は、たまたま誘拐現場に痕跡が残っていたから良かったようなものの」
「え。あ…ごめんなさい」
裏切るつもりはなかった。しかし、結果、そうなっていたかもしれない。
「余計な気遣いはするな。どんなことでもいい、何かあれば必ず俺を呼べ」
「…うん」
謝りたいのかお礼を言いたいのかもわからず、意味もなくカーペットの模様を睨みつけていた。
響が戻したのか、あの男の力の及ばないところに来たことで効力のようなものが切れたのか。どちらにしても、あまり好みではなかったので、よかったと思う。
ただ、髪が長いままなのは切らなくてはならないだろう。しかも、いくらなんでも不自然すぎる急な伸び方なので、自分でやるか響に切ってもらわなくてはならない。面倒なことをしてくれたものだ。
「記憶がないのは、晧に会う前からだ。生きるのに問題はなかったから、どうしてそうなったのかを調べようとも思わなかった」
言葉はただ淡々としていて、顔を上げようとしたら、頭を撫でる手でそのまま押さえつけられた。軽く押されているだけのようなのに、動かせない。
「ちょっ…」
「傷の手当てを…いや。そのままで」
ようやく頭の上からのいた手が、腕をつかんだ。縄の擦り傷をそっと掌で覆い、離れた時には、傷は跡形もなく消え去っていた。
「治しちゃっていいの?」
「何故」
「だって、やっぱり不自然でしょ。怪しまれる」
「誰も知らない傷だ。問題ない」
「え? あ。さぁちゃんは? 茜さんは? 他のみんなは?」
すっかり忘れていたことを心の中で詫びる。
正面に立ったままの響は、また頭を撫でてきた。気に入ったのか。子ども扱いをされているようで、少しばかりむず痒い。
「梅谷小夜子なら、他の八人と一緒に警察だ。梅谷真哉も付き添っている。秋山は…一度連れていかれたがすぐに家に戻ったようだ」
秋山先輩の名を聞いて、引きずられてかいろいろと疑問が湧いて出る。
今の私の立場はどうなっているのか。小夜子ちゃんは、あそこで見聞きしたことをどう思っているのだろうか。先にさらわれていた八人には、どれほどのどんな記憶が残っているのだろう。私たちをさらった方の誘拐犯は何者だったのか。
響が、軽く溜息をついたのがわかった。
「晧。お前は、失踪にも誘拐にも関わっていない。羽山成晧と間違われて、攫われたのは梅谷小夜子だけだ。四人で喫茶店に入って、一足先に別れたお前は気付かなかった。逆井も、他の三人と誘拐犯もそう思っている」
なるほどそう落ち着いたのか、と感心していると、睨まれた。
「それよりも。何故俺を呼ばなかった」
「え?」
「名を呼べば、もっと早く見つけられた」
「だって…名前…知られたらまずいのかなって…。響は凄いけど。でも、だから、私がそれを邪魔しては駄目でしょう? …足を引っ張りたくはないの」
望みすぎて、嫌われたり、勝手に裏切られた気持ちになるのは厭だから。望まないことには慣れている。
思うままにはならない体も、あまり会えずにいた両親や祖父母とも、そうやって折合ってきた。はじめから期待などしなければ、恨んだり、がっかりすることもない。
それが、紅子として生きてきて学んだことだった。それは、響と出会い、それまで諦めた多くのものを手にしてすら変わらず根を張る。
今度は、深々とため息をつかれた。
「あの場所で晧が死ねば、魂ごと捕らわれたままになっていた。今回は、たまたま誘拐現場に痕跡が残っていたから良かったようなものの」
「え。あ…ごめんなさい」
裏切るつもりはなかった。しかし、結果、そうなっていたかもしれない。
「余計な気遣いはするな。どんなことでもいい、何かあれば必ず俺を呼べ」
「…うん」
謝りたいのかお礼を言いたいのかもわからず、意味もなくカーペットの模様を睨みつけていた。
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