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そうして、事態は進む
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目を開けてようやく、眠っていたことに気付いた。
夢を見ていたと、遅れて思い出す。幼年時の体験をたどったそれを、もはや朧になってはいるものの思い出して溜息を落とす。
細かなところは驚くほどに急速に忘れていって、ただの記憶とついさきほどの夢とが混じり混ざってわからなくなっているのに、何もできないという無力感だけがずしりと残った。
「起きたか」
「あ…うん。どのくらい眠ってた?」
ローテーブルには会社の資料が広げてある。あれを読み込んでいるうちに転寝したようだ。ソファーにしっかりと横たわっていたのは、響が移動させてくれたのだろう。
どんな姿勢だったのか、少し首が痛い。
「三十分くらいか。紅林が、そろそろ呼びに来る」
机に向かっている響は、振り返ることもなくペンをはしらせている。書類の整理でもしているのだろうか。その背中を、ぼんやりと見遣る。
「あの二人か、刑事さんから連絡は? あー。刑事さんは、それどころじゃないかな」
なにしろ、誘拐されていた少女たちが一気に見つかり、犯人らしき男たちも捕まったのはつい昨日のこと。昨夜は保護者達に会わせるだけで手いっぱいだったはずで、それぞれから供述を得るだけでも一仕事だろう。
おまけに、狐面の誘拐犯たちに黒幕はいるかもしれないけど、それは、あの男――このはた迷惑な失踪事件を起こした張本人ではないはずだ。
学校は入試の採点期間ということで、当初は高校と大学は通常通りの予定だったところを全校臨時休校にした。
浮いた今日一日は会社関係のあれこれに手を出していたのだけれど、慣れないことに頭を使ったせいか昨日のことがもう既に遠い。
その癖、まだ夕飯前ということに違和感を覚える。転寝のせいか、もう、一日が終わったような気分になっている。
「嬢ちゃん、青二才、飯やぞー!」
「はーい。今日は何?」
「鍋や鍋」
この家の夕飯は、希望者は時間を合わせるようにしている。それぞれ食べるかどうか自体が申告制なので、たまに、急に外食の決まった響が料理人の紅林さんを怒らせていたりする。だからといって、響が反省したりすることはないのだけれど。
今日は私と響の他は紅林さんと林さんで、他は帰ったらしい。林さんも、雑炊の締めが終わると片づけを手伝えないことを詫びて帰路についた。
「ごちそうさま。いつもありがとう」
「どういたしまして。いい食べっぷりで嬉しいわ。それに比べて、この若造ときたら」
そう言った紅林さんは、手早く洗い物をまとめながらじろりと響を睨みつけた。
響の設定よりも三つ四つ年上なだけのはずだけど、この人は、何かと響を年下呼ばわりして邪険にする。それなのに、ずっと年下の私に対しては優しい。雇主と同僚の違いなのか男女の違いなのか、軽く訊いてもはぐらかされ、実際のところはよくわからない。
そもそも紅林さんは、秘密主義ではないのだろうけどあまり自分のことを話したがらない。
睨まれた響は無反応で、生真面目にガスコンロからボンベを外している。
夢を見ていたと、遅れて思い出す。幼年時の体験をたどったそれを、もはや朧になってはいるものの思い出して溜息を落とす。
細かなところは驚くほどに急速に忘れていって、ただの記憶とついさきほどの夢とが混じり混ざってわからなくなっているのに、何もできないという無力感だけがずしりと残った。
「起きたか」
「あ…うん。どのくらい眠ってた?」
ローテーブルには会社の資料が広げてある。あれを読み込んでいるうちに転寝したようだ。ソファーにしっかりと横たわっていたのは、響が移動させてくれたのだろう。
どんな姿勢だったのか、少し首が痛い。
「三十分くらいか。紅林が、そろそろ呼びに来る」
机に向かっている響は、振り返ることもなくペンをはしらせている。書類の整理でもしているのだろうか。その背中を、ぼんやりと見遣る。
「あの二人か、刑事さんから連絡は? あー。刑事さんは、それどころじゃないかな」
なにしろ、誘拐されていた少女たちが一気に見つかり、犯人らしき男たちも捕まったのはつい昨日のこと。昨夜は保護者達に会わせるだけで手いっぱいだったはずで、それぞれから供述を得るだけでも一仕事だろう。
おまけに、狐面の誘拐犯たちに黒幕はいるかもしれないけど、それは、あの男――このはた迷惑な失踪事件を起こした張本人ではないはずだ。
学校は入試の採点期間ということで、当初は高校と大学は通常通りの予定だったところを全校臨時休校にした。
浮いた今日一日は会社関係のあれこれに手を出していたのだけれど、慣れないことに頭を使ったせいか昨日のことがもう既に遠い。
その癖、まだ夕飯前ということに違和感を覚える。転寝のせいか、もう、一日が終わったような気分になっている。
「嬢ちゃん、青二才、飯やぞー!」
「はーい。今日は何?」
「鍋や鍋」
この家の夕飯は、希望者は時間を合わせるようにしている。それぞれ食べるかどうか自体が申告制なので、たまに、急に外食の決まった響が料理人の紅林さんを怒らせていたりする。だからといって、響が反省したりすることはないのだけれど。
今日は私と響の他は紅林さんと林さんで、他は帰ったらしい。林さんも、雑炊の締めが終わると片づけを手伝えないことを詫びて帰路についた。
「ごちそうさま。いつもありがとう」
「どういたしまして。いい食べっぷりで嬉しいわ。それに比べて、この若造ときたら」
そう言った紅林さんは、手早く洗い物をまとめながらじろりと響を睨みつけた。
響の設定よりも三つ四つ年上なだけのはずだけど、この人は、何かと響を年下呼ばわりして邪険にする。それなのに、ずっと年下の私に対しては優しい。雇主と同僚の違いなのか男女の違いなのか、軽く訊いてもはぐらかされ、実際のところはよくわからない。
そもそも紅林さんは、秘密主義ではないのだろうけどあまり自分のことを話したがらない。
睨まれた響は無反応で、生真面目にガスコンロからボンベを外している。
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