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そうして、事態は終わる
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「君のところの料理人、隙だらけだったよ。少し囁いたら、簡単に協力してくれた。ほら、あの焼き菓子。あれに、一服盛ってもらった」
男が指し示した先には、マドレーヌが一つ残ったお皿があった。お皿の大きさからすると、もう何個かあって、それを響が食べたのだろうか。
よりによって、紅林さんが作らないと言っていた、お姉さんの死に際を思い出してしまうという、マドレーヌを。何を、どう唆したのか。
「そう睨まないでほしいな。むしろ、親切をしていると言ってもいいくらいなんだから。上手くいけば、あいつの記憶が戻るよ」
「…上手く、いかなければ?」
「苦しむだけか、まあ、最悪は死んでしまうかな?」
「響っ!」
駆け寄りたいのに、たった一本の腕に肩をつかまれているだけで、止められてしまう。
「離して」
「行けば、殺されるかもしれないよ? 人の血肉は、命そのものほどではないけど、力になる。引き裂かれて、血を啜られて、貪り食われて、まだ生きていられるかな」
泣きたくはないのに、涙がにじむ。怒りか、悔し泣きなのか、自分でもよくわからない。
「君にできることは何もない。上手く効けば、時間さえかければ体力も回復するだろう。無駄に死ぬ必要はないんじゃないかな」
「何がしたいの」
「全部忘れるなんて、勝手だと思ってね。ああでも、記憶が戻ったら逆に、忘れていた間のことをすべて忘れてしまっているかもしれないね」
愉しそうに、わらう。
何を考えるよりも先に、体が動いていた。どうやって腕を振り払えたのか、覚えていない。
倒れている響の元に膝をついたところで、力任せに抱きしめられた。――違う、腕の中に閉じ込められた。
響の両手は、自分の腕を強く握りしめている。その輪の中に、私がいる。まるで、自分自身を抑えるように、手に力がこもっている。
少しでも腕が緩めば、抱きつぶされるかもしれない。
「響…?」
「なんで…きた…」
「だって」
「せっかく来てくれたんだから、その子を食べて回復したら?」
「きえろ」
くすくすと、わざとらしい笑い声が耳につく。
「そう言うなら、ここは従っておいてあげようか。君たちに思うところはあるけど、記憶をなくした相手に言っても面白くないしね。次に会った時は、元に戻っていることを願うよ。その子が、まだいるかどうかはわからないけど」
それきり静かになって、静かだけれど、密着している響の胸の鼓動は早い。
男が指し示した先には、マドレーヌが一つ残ったお皿があった。お皿の大きさからすると、もう何個かあって、それを響が食べたのだろうか。
よりによって、紅林さんが作らないと言っていた、お姉さんの死に際を思い出してしまうという、マドレーヌを。何を、どう唆したのか。
「そう睨まないでほしいな。むしろ、親切をしていると言ってもいいくらいなんだから。上手くいけば、あいつの記憶が戻るよ」
「…上手く、いかなければ?」
「苦しむだけか、まあ、最悪は死んでしまうかな?」
「響っ!」
駆け寄りたいのに、たった一本の腕に肩をつかまれているだけで、止められてしまう。
「離して」
「行けば、殺されるかもしれないよ? 人の血肉は、命そのものほどではないけど、力になる。引き裂かれて、血を啜られて、貪り食われて、まだ生きていられるかな」
泣きたくはないのに、涙がにじむ。怒りか、悔し泣きなのか、自分でもよくわからない。
「君にできることは何もない。上手く効けば、時間さえかければ体力も回復するだろう。無駄に死ぬ必要はないんじゃないかな」
「何がしたいの」
「全部忘れるなんて、勝手だと思ってね。ああでも、記憶が戻ったら逆に、忘れていた間のことをすべて忘れてしまっているかもしれないね」
愉しそうに、わらう。
何を考えるよりも先に、体が動いていた。どうやって腕を振り払えたのか、覚えていない。
倒れている響の元に膝をついたところで、力任せに抱きしめられた。――違う、腕の中に閉じ込められた。
響の両手は、自分の腕を強く握りしめている。その輪の中に、私がいる。まるで、自分自身を抑えるように、手に力がこもっている。
少しでも腕が緩めば、抱きつぶされるかもしれない。
「響…?」
「なんで…きた…」
「だって」
「せっかく来てくれたんだから、その子を食べて回復したら?」
「きえろ」
くすくすと、わざとらしい笑い声が耳につく。
「そう言うなら、ここは従っておいてあげようか。君たちに思うところはあるけど、記憶をなくした相手に言っても面白くないしね。次に会った時は、元に戻っていることを願うよ。その子が、まだいるかどうかはわからないけど」
それきり静かになって、静かだけれど、密着している響の胸の鼓動は早い。
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