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そうして、歪に日常になる
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ステージの上に密かに設置されていた巨大薬玉が割られ、中に詰め込まれていた小さな紙片や風船に花びら、ミニチョコなどが盛大に降り注いだ。その中を、垂れ幕が勢いよく滑り落ちる。
『田中先生・藤原先生 ご結婚おめでとう!』
大布に墨痕鮮やかな垂れ幕の下では、当の本人たちが立ち尽くしていた。
田中史時は顔を真っ赤にし、藤原鈴は幸せそうに笑っている。生徒会調べによるチョコレートをもらった数の第二位、田中先生の「好きな人」の告白――プロポーズ直後のことだ。
体育館に集まっていた多くの生徒たちは、盛大に拍手をしていた。冷やかすような口笛や、野次も聞こえてくる。
「なるほど、これを企んでたのか」
壁にもたれて成り行きを見守っていた私は、呟いて、結構な距離を飛んできた薬玉の中身のチョコレートの銀紙を剥いだ。口に放り込むと、体温でゆるりと溶ける。
「羽山成」
「茜さん。ねえあれって、藤原先生知ってたよね。何も言われてなかったの田中先生だけじゃない?」
「最低限、そこは押さえとくでしょ。…ありがとね」
言葉とともに唐突に突き出された小箱に、目を丸くする。驚いたまま茜さんを見ると、照れたように目線を逸らされた。
私も知っている有名チョコレートメーカーのロゴ。これで文具セットだったりすると、かなり意表を突かれる。だけど、友チョコにしては高そうだ。
「ずいぶん経ったけど、お礼。ちゃんと言ってなかったから。あの時、心配してくれたって聞いた」
半月ほども前になる、女生徒の集団失踪のときのことを言っているようだ。母親か叔父に聞いたのだろう。実のところは打算や好奇心で茜さんを口実にしたようなものなので、心苦しい。
しかもあれは、羽山成グループの内輪揉めの産物ということでカタがついたので、見ようによっては私は、お礼を言ってもらうどころか謝る立場にある。
本当のところはあの悪魔に行き合ってしまって間が悪かっただけとしても、やはりそれでも、私が謝るべきのような気がする。ああいう妙なものが身近に湧いたのは、響という悪魔がいたせいかもしれないのだから。
少し迷ったけど、重心を預けていた壁から体を離し、芝居がかった仕草でチョコレートの箱を押し頂く。
「ありがたく頂戴します」
「うん」
「あっでも私、さっきみんなで食べたのしか持って来てない」
「いいって、お礼なんだから」
肩をすくめて、明るく笑う。つられて笑っていると、茜さんが私の隣に並んで舞台に目をやった。
視線を追うと、秋山先輩がマイクを持ち、他の生徒会役員が花を絡ませたティアラと腕輪を持って登場したところだった。
『田中先生・藤原先生 ご結婚おめでとう!』
大布に墨痕鮮やかな垂れ幕の下では、当の本人たちが立ち尽くしていた。
田中史時は顔を真っ赤にし、藤原鈴は幸せそうに笑っている。生徒会調べによるチョコレートをもらった数の第二位、田中先生の「好きな人」の告白――プロポーズ直後のことだ。
体育館に集まっていた多くの生徒たちは、盛大に拍手をしていた。冷やかすような口笛や、野次も聞こえてくる。
「なるほど、これを企んでたのか」
壁にもたれて成り行きを見守っていた私は、呟いて、結構な距離を飛んできた薬玉の中身のチョコレートの銀紙を剥いだ。口に放り込むと、体温でゆるりと溶ける。
「羽山成」
「茜さん。ねえあれって、藤原先生知ってたよね。何も言われてなかったの田中先生だけじゃない?」
「最低限、そこは押さえとくでしょ。…ありがとね」
言葉とともに唐突に突き出された小箱に、目を丸くする。驚いたまま茜さんを見ると、照れたように目線を逸らされた。
私も知っている有名チョコレートメーカーのロゴ。これで文具セットだったりすると、かなり意表を突かれる。だけど、友チョコにしては高そうだ。
「ずいぶん経ったけど、お礼。ちゃんと言ってなかったから。あの時、心配してくれたって聞いた」
半月ほども前になる、女生徒の集団失踪のときのことを言っているようだ。母親か叔父に聞いたのだろう。実のところは打算や好奇心で茜さんを口実にしたようなものなので、心苦しい。
しかもあれは、羽山成グループの内輪揉めの産物ということでカタがついたので、見ようによっては私は、お礼を言ってもらうどころか謝る立場にある。
本当のところはあの悪魔に行き合ってしまって間が悪かっただけとしても、やはりそれでも、私が謝るべきのような気がする。ああいう妙なものが身近に湧いたのは、響という悪魔がいたせいかもしれないのだから。
少し迷ったけど、重心を預けていた壁から体を離し、芝居がかった仕草でチョコレートの箱を押し頂く。
「ありがたく頂戴します」
「うん」
「あっでも私、さっきみんなで食べたのしか持って来てない」
「いいって、お礼なんだから」
肩をすくめて、明るく笑う。つられて笑っていると、茜さんが私の隣に並んで舞台に目をやった。
視線を追うと、秋山先輩がマイクを持ち、他の生徒会役員が花を絡ませたティアラと腕輪を持って登場したところだった。
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