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そうして、歪に日常になる
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「晧。床じゃなくてソファーに座れ」
「う…でもじゃあ、真哉くんも」
来客がなければ床に座り込むことも多いから、掃除はしっかりとやってもらっている。それでも、知人を転がしておいて自分だけソファーにというのは居心地が悪い。
響はもう一度溜息をついて見せてから、お茶のセットをテーブルに置くと、またひょいと真哉くんをつかみ、小夜子ちゃんの足元へと置いた。
「いや…手足のそれも」
「断る」
「え。いや、ええ?」
「逃げられたら面倒だ」
「ええー?」
言いながら、私もひょいと抱えて二人の対面のソファーに座らせ、自分も隣に腰を下ろす。手つきは優しいし丁寧だけど、果たして、そういう問題だろうか。
どう言うべきかわからないままに何か言おうと響に向いたら、私が口を開くよりも先に、いいよ、と真哉くんの声がした。
「見栄えのいいものじゃないけど、俺の格好は気にしないで、紅ちゃん」
「…晧」
言ったのかお前、と、無言の声が聞こえる。気がする。
「どうせわかったことだよ。で? あんたは何が訊きたくてこんな事したんだ」
「確認だ。お前…乗っ取られたのか」
「うーん、ちょっと違う。融合した、ってところかな。うっかりして、死人と契約した」
「成程」
互いにわかり合っている風なやりとりに、私一人が取り残されている。これは、私、居合わせる必要はあったのだろうか。いやでも…契約、って。
響の淹れてくれた紅茶を飲む。何も入れていないのにほのかに甘く、かすかに苦い。
「能力は」
「基本、人と同じだね。だから、邪魔も協力もしない。放っておいてくれないかな」
肯くことなく、響は私を見た。とりあえず、ティーカップを下ろして見つめ返す。
「黒い毛玉、覚えてるか」
「ええと…お菓子、あげちゃ駄目って言ったやつ?」
「ああ。あれは、俺よりずっと前からここにいる」
「はい?」
「あの毛玉を引き寄せたのも、俺が晧に出会うことになったきっかけも、こいつだ」
示す先には、両手足を拘束されたままの真哉くん。
「晧の言う悪魔は、同類の気配が判るから、誰かがいると集まりやすくなる。あの毛玉も、俺も、こいつがいたから引き寄せられたようなものだ」
道ができるようなものだろうか、と思う。誰かが切り開いた獣道を、通りやすいからと続いて通る人も増える。響と出会って晧になってから、妙なものと関わることも増えたからそこのところはわかりやすい。
だけど、その大本が真哉くんとは。
「つまり私は、真哉くんに感謝した方がいいのかな。…ん? え? あれ? じゃあ、真哉くんは…」
「純粋な人じゃないけど、でも俺は小夜子の双子の兄だよ」
意味が分からない。思わず響を見るけど、頷くだけ。もう一度、真哉くんに視線を戻す。
「その時俺が死にかけてたとか、契約成立と同時に真哉になるはずだった奴が死んだとか、いろいろと重なったところがあるんだけど、要は、悪魔だった俺が死産になるはずだった胎児と混ざって一つになったってことだよ。さっきも言ったけど、ほとんど人と変わらない。鈍い奴なら、元悪魔だとは気付かずに身近に悪魔がいたのかなっていうくらいにしか気付かないくらいにはね」
「…全然、気付かなかった」
「当たり前だよ、紅ちゃんは混じりっ気なしのただの人だったんだから」
真哉くんの苦笑は紅子だったころから見慣れたもので、本当に同じなのだなと思う。悪魔ならそのくらい誤魔化せるのかもしれないけど、でも。
それで、と、真哉くんは響に視線を移した。口調に、素っ気なさと冷たさが混じる。
「う…でもじゃあ、真哉くんも」
来客がなければ床に座り込むことも多いから、掃除はしっかりとやってもらっている。それでも、知人を転がしておいて自分だけソファーにというのは居心地が悪い。
響はもう一度溜息をついて見せてから、お茶のセットをテーブルに置くと、またひょいと真哉くんをつかみ、小夜子ちゃんの足元へと置いた。
「いや…手足のそれも」
「断る」
「え。いや、ええ?」
「逃げられたら面倒だ」
「ええー?」
言いながら、私もひょいと抱えて二人の対面のソファーに座らせ、自分も隣に腰を下ろす。手つきは優しいし丁寧だけど、果たして、そういう問題だろうか。
どう言うべきかわからないままに何か言おうと響に向いたら、私が口を開くよりも先に、いいよ、と真哉くんの声がした。
「見栄えのいいものじゃないけど、俺の格好は気にしないで、紅ちゃん」
「…晧」
言ったのかお前、と、無言の声が聞こえる。気がする。
「どうせわかったことだよ。で? あんたは何が訊きたくてこんな事したんだ」
「確認だ。お前…乗っ取られたのか」
「うーん、ちょっと違う。融合した、ってところかな。うっかりして、死人と契約した」
「成程」
互いにわかり合っている風なやりとりに、私一人が取り残されている。これは、私、居合わせる必要はあったのだろうか。いやでも…契約、って。
響の淹れてくれた紅茶を飲む。何も入れていないのにほのかに甘く、かすかに苦い。
「能力は」
「基本、人と同じだね。だから、邪魔も協力もしない。放っておいてくれないかな」
肯くことなく、響は私を見た。とりあえず、ティーカップを下ろして見つめ返す。
「黒い毛玉、覚えてるか」
「ええと…お菓子、あげちゃ駄目って言ったやつ?」
「ああ。あれは、俺よりずっと前からここにいる」
「はい?」
「あの毛玉を引き寄せたのも、俺が晧に出会うことになったきっかけも、こいつだ」
示す先には、両手足を拘束されたままの真哉くん。
「晧の言う悪魔は、同類の気配が判るから、誰かがいると集まりやすくなる。あの毛玉も、俺も、こいつがいたから引き寄せられたようなものだ」
道ができるようなものだろうか、と思う。誰かが切り開いた獣道を、通りやすいからと続いて通る人も増える。響と出会って晧になってから、妙なものと関わることも増えたからそこのところはわかりやすい。
だけど、その大本が真哉くんとは。
「つまり私は、真哉くんに感謝した方がいいのかな。…ん? え? あれ? じゃあ、真哉くんは…」
「純粋な人じゃないけど、でも俺は小夜子の双子の兄だよ」
意味が分からない。思わず響を見るけど、頷くだけ。もう一度、真哉くんに視線を戻す。
「その時俺が死にかけてたとか、契約成立と同時に真哉になるはずだった奴が死んだとか、いろいろと重なったところがあるんだけど、要は、悪魔だった俺が死産になるはずだった胎児と混ざって一つになったってことだよ。さっきも言ったけど、ほとんど人と変わらない。鈍い奴なら、元悪魔だとは気付かずに身近に悪魔がいたのかなっていうくらいにしか気付かないくらいにはね」
「…全然、気付かなかった」
「当たり前だよ、紅ちゃんは混じりっ気なしのただの人だったんだから」
真哉くんの苦笑は紅子だったころから見慣れたもので、本当に同じなのだなと思う。悪魔ならそのくらい誤魔化せるのかもしれないけど、でも。
それで、と、真哉くんは響に視線を移した。口調に、素っ気なさと冷たさが混じる。
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