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No.1_ 7つの王冠
しおりを挟む私に残ったのは莫大な遺産だけだった。
5歳の時に戦争で両親を失い、遺産目当ての親戚に無理やり引き取られた。
親戚は遺産で借金を返済してからは、残りの金で遊んで暮らしていた。
そんな生活も長くは続かず、遂には私を売って金を増やそうと考えたのだ。
今日、10歳の誕生日に私は売られる。
「この能無し! 見た目だけで、魔力も無いあんたの面倒を見てやった恩を忘れたかい!?」
多くの宝石を身につける太った継母に手を引かれ、強引に馬車の中に連れ込まれる。
中には同じ歳ぐらいの子供が何人も乗っている。
バタンと扉は閉められ、しばらくすると馬車が走り出した。
窓の外からは嬉しそうに金を数える継母の姿が小さくなってゆく。
このままどこへ行くのだろう。
不安で心が裂けそうな気分だ。
そんな私に、謎の声がはっきりと聞こえた。
「聖杯よ、儂にまた、夢を見せるつもりなのか」
「誰・・・ですか?」
瞬間、大きく揺れ、馬車の残骸と共に崖の下へ落ちていた。
「岩が落ちて来たぞ」
「ガキが1人足りない! 落ちたんだ!」
上からは人買いの声が聞こえる。
今、走れば逃げれる…?
深い森の中を裸足で走り、距離を離してゆく。
「ハァハァ…」
息が切れ、木に座り込む。
お父様、お母様・・・。
必死で気が付かなかったが、手には一冊の本が握られていた。
タイトルは掠れて読めないが、『フレックス・レイザース』と父の名前が記されている。
何で、こんな本が手元にあるの?
何が書かれているの?
本を開くと、勢いよくドス黒い肉片のような物が溢れる。
「己は、なんだ?」
驚く事に肉片は先程聞いた声と同じ声で、喋り始めたのだ。
怖い、恐ろしい。
本当に優しいお父様が残した物なの?
畏怖しながらも、強い声で問いに答えた。
「私は『カレア・レイザース』です。」
「そうか、カレアか」
肉片はケタケタと笑いだした。
「己は、全てを失いおったな。
家も、希望も、財産も。
何も無い空のカレア、賭けられるのは命のみ。
絶望だけの未来を犠牲に、己はどんな願いを叶えるのじゃ?」
「願いを叶えられるのですか?」
「何かを代償に何かを得る。
絶望だけの命しか代償にできない己の叶えられる物は少ないぞ。
さあ、己の願いはなんじゃ?」
「時間を戻すことはできるのですか?」
「割に合わん。 無理じゃな」
「なら、私は・・・」
『殺してください』という願いは実に身勝手だろう。
報酬の命を手放させるような願い。
それ以外の答えが思いつかない。
「己を売った人間に復讐するか? 一緒に売られたガキ共を解放するのはどうだ? 両親の夢を見るのは? 他には・・・」
肉片の提案はどれも魅力的な願い。
それを叶えれば死ぬと考えれば、曖昧で解決にならない物ばかり。
「願いが無いならそれでも良いが、儂を呼ぶのも願いの内。 通行料でも命は取れるのじゃぞ」
「私は死にたくありません・・・」
「普通じゃあ己の命で、通行料すら払えんのにサービスしてやってんじゃぞ。 無下にする気か?」
「代わりに貴方の願いを私が叶えて足しにできませんか?」
「ほう」
肉片は大きな声で笑いだし、顔が綻んだように見えた。
「良い、面白いぞ。 代償無しで儂と、取引しようとした者は己で2人目じゃ」
ぬっと顔を近づけて肉片は言った。
「己、この世界の王になれ」
「王? 貴方ではなく、私が王様にですか?」
「そうじゃ、散らばった、月、火、水、木、金、土、日、7つの王冠を手に入れた者は、この世界の王になれる」
私が王に・・・。
理解が追いつかないが、それ以外の道はない。
「わかりました。 王に、私は王を目指します。」
「口にしたな、契約は呪いじゃ。 運命に縛られ、価値がなければ捨てられる。 儂も帰る為の賃金を失った」
肉片にいきなり手を掴まれると、針を刺されたような痛みが走る。
「痛っ!」
痛みより、見た物に驚いた。
肉片はみるみると、自分に似た姿に変化してゆく。
肌、髪、目の色など、所々違いはあるが、姿だけなら双子と言われてもわからない程だ。
「少し変えねば見分けがつかんしの。 コピーしてみたが、ここまで己が弱いと思わんかったが」
どうやら、コピーしたのは見た目だけでなく、身体能力などの全てのようだ。
「まずは金じゃな、街に行くぞ」
「あの・・・街は・・・大丈夫ですか?」
「人買いに見つからず、素性がバレなければ良いのじゃろ? そのくらい考えておる。 さあ、進もうじゃあないか」
笑いながら歩き始めた肉片は振り向かず、自らを『アトゥワース』と名乗る。
こうして『カレア』は王になる為、7つの『王冠』を探す旅を始めるのであった。
「ああ、聖杯が消えて4000年。 王の器が現れたか。 何も知らぬ愚か者共は希望を目指し、全てを忘れてしまうというのに。 また世界を知ろうとする気なのか」
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