剣闘大会

tabuchimidori

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2戦目

火炎竜の住む山:前編

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「やっぱり暑いわね……」
 フジミヤ旅館で温泉を堪能した翌日、エレアは朝から火炎竜の住む山へと向かっていた。山と言ってもそこまで標高が高いわけでも、傾斜が激しく登りづらいということでもない。普通ならハイキングを楽しめるレベルの山であった。その山での活動を著しく制限しているのがこの暑さである。
 この山は元々は火山ではなく、緑豊かな山であった。百年以上も昔から火炎竜が住み付くようになってから周りの環境が少しずつ変化した結果が、今の温泉街カドキの姿である。
 最初こそはその火炎竜を追い出すことを目的に動いていたが、その火炎竜が人間に対して非常に友好的だったことと火炎竜が纏う熱によって地下水源が温泉に変わったことで共存の道を選んだのである。
 ――友好的ってどれくらいなんだろうか。
 旅館の人や大会支部のおじさんの話を聞く限りではもう友達のレベルと言うしかなかった。
 竜に限らず魔物と呼ばれる類の生物は基本的に人間に害を為す生物と教わっているから、授業で火炎竜の話を聞いた時からいつか会ってみたいとずっと思っていた。
 長年の願いが叶うという逸る気持ちが彼女の歩くスピードを高める。暑ささえ我慢できるのであれば、普通の山よりもむしろ道中は簡単だった。頻繁に交通があるかららある程度道が整っていたからだ。
 そして歩き始めて一時間が経ったころに、その火炎竜の住処の目印を見つける。
 ――本当に家だ……。
 街の人の話では、火炎竜は人間の生活に興味があって自分の住む家を作って欲しいと頼んだことがあったという話を聞いていた。だから火炎竜のいる所には大きな家があると。
 エレアの目の前には巨大な石造りの家が建っていた。人間なら百人単位で住めるんじゃないかと思うほどの大きさだった。その規格外の大きさは玄関も同じだった。エレアがその玄関の前に立つと、天辺が遥か遠くに感じる高さだった。
 ――この玄関にノックして、音とか聞こえるの?
 街で聞いた通りに玄関にノックする。ゴッゴッとこの玄関のドアの厚みが伺える鈍い音に戸惑ったがすぐに中から返事が聞こえた。
「はいはい、どちら様かな?」
 中から声が聞こえたかと思うと、ドアがズズズッとゆっくりと開く。中から赤い鱗が煌めく大柄の竜が現れた。その体長は十数メートルを軽く超えていた。
「は、初めまして。エレア・ラスティアと申します!」
 こんなに簡単に近距離で火炎竜と話すことになると予想していなかったので、エレアの声が少しだけ上ずった。火炎竜はそのエレアの緊張を汲み取る。
「これはこれは驚かせてしまったようだね。少し待ってておくれ」
 火炎竜は両前足を胸の前で合わせると低く息を吐く。すると火炎竜の身体はみるみる小さくなって、最終的にはエレアとほとんど差が無くなった。
「初めまして、人々には火炎竜と呼ばれておる。適当に呼んでくれて構わんぞ」
 火炎竜が握手を求める形で右前足を出してきたのでエレアはそれを握り返す。鱗のごつごつとした感触や体温の高さが人とは違う事を主張していた。
「ここまで来るのは大変だったろう、ささ中に入って疲れを取ってくれたまえ。今すぐに冷たいお茶を用意しよう」
 エレアとの自己紹介を終えると火炎竜は鼻歌交じりで家の奥へと戻る。
 ――友好的、間違いないわね。
 むしろ友好的過ぎるとまで思わされる火炎竜の対応に戸惑いつつも、エレアは家の中に入る。この大きなドアをどう閉めようかと悩んでいたら、エレアが入った直後にズズズッと勝手に閉まった。一瞬閉じ込められたのかと警戒を強めたが、それは魔力で動かせるドアじゃよと火炎竜が説明してくれた。試しにエレアが魔力を込めるとドアは簡単に開いた。
 ――そういえば遺跡とかにはこういう魔力で動く仕組みがあるってセキヤが言ってたっけ。
 火炎竜の住む家を作った人に少し興味が沸いたが、火炎竜の呼びかけがあったのですぐに意識を切りかえる。
「お茶の種類は何が良いかな、緑茶や紅茶もあるぞ?」
「あ、じゃあ紅茶でお願いできますか」
「ストレート、ミルク、レモン?」
「レモンで」
「承知したぞ」
 ――あれ、私って喫茶店に入ったのかな。
 今のやり取りで火炎竜に対する気構えがかなり緩くなったエレアは、昨日のリリィのように遠慮なく色々聞いてみることにした。
「火炎竜さんって今いくつ何ですか?」
 質問をしながら家の中を見渡す。玄関のすぐ横にキッチンとテーブルが置いてあったが、どれも人間サイズの物だった。どうやら人間が来た時の対応はそこでするようにしているのだろう。奥に目をやれば明らかに人外用の大きさのテーブルや椅子が見受けられた。
「人間たちと共存するようになってからはもう百四十二年が経った。それより前は正確に数えておらん。まあ二百歳くらいだと思うぞ」
 慣れた手つきで紅茶を淹れていく。もしかしたら来客が来るのは日常茶飯事なのかもしれないとエレアは思った。
「ここって結構人が来るんですか?」
「それはもう、お主の様な剣闘大会参加者はよく来るぞ」
「!」
「驚くことでもあるまい、お主も私の魔力が欲しかったんじゃろ?」
 確かに私は火炎竜が持つ『火炎』の魔力を手に入れるために来たけど、それよりも私が剣闘大会出場者と見抜いたのに驚いた。
「ふふ、いや剣闘大会の参加者がよく私の所に来るからね。興味を持ったからテレビで見ているのだよ」
 ――友好的ってレベルをやっぱり超えてるわね。
 すっかり人間の生活に馴染んでいる竜の態度にエレアはもう友人と話している時のように安心していた。
「鍛冶屋杯一回目から見ているなんて、好きなんですね」
「うむ、第一回大会や第二回大会の優勝者とは私も会ったことがあるが、彼らには私が本気を出しても勝てる気がしないね。人間とは末恐ろしい存在だと思ってるよ」
 やはり共存の道を選んで正解だったなと火炎竜は笑う。クガさんが火炎竜さんに認められている事をエレアは自分の事のように嬉しく思った。
 ――クガさんって本当にすごい人なんだな。
 剣の腕は嫌と言うほどに分かっていたが、世間的なクガの評価と言うのは村を出るまでは知らなかった。剣術を習っている時は少しズボラな抜けている人の印象があったし、ついこないだの鍛冶屋杯後の打ち上げでも酔いつぶれてヒリューにホテルまで連れられていた。しかしいくつかの街を回っている時の話を聞くと、あちこちで色んな人を助けていて、クガさんを尊敬している人が多かった。
「クガさんは酒癖悪いって知ってます?」
「ほう、興味深いね。そういった内情は中々聞けないから、ぜひとも紅茶と共に楽しみたいね」
 火炎竜は紅茶とクッキーを一緒にテーブルに持ってきてくれた。そこからは主にクガさんの話をして盛りあがった。
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