剣闘大会

tabuchimidori

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2戦目

リリィの決意:後編

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 パンッ!
 顔を叩く乾いた音が温泉街の入り口に鳴り響いた。リリィの母親がリリィを平手打ちした音だった。
 盗賊団の身元は後からやってきた自警団に任せて、エレアとリリィは一足先に温泉街に帰ってきて、そしてその入り口でリリィの母親と商人夫婦と合流した矢先の事だった。
「どんだけ心配したと思っているのよ、このバカ娘!」
 リリィの母親は目尻に涙を溜めながら、顔を真っ赤にしてリリィに怒り散らす。
「あんたに剣士なんかできないんだから、いい加減にしなさいよ!」
 怒っているそのままの勢いでリリィの背中の大剣を取り上げようとする。しかしリリィはそれをさせまいと抵抗する。
「いやだ!」
「わがままもいい加減にしなさい!」
「絶対に渡さないし、私は絶対に剣士になるんだから!」
 リリィは背中に回り込もうとする母親から目を離さず、必ず目を見て自分の意志を主張した。帰り道でエレアから教わったアドバイスを実践していたのである。
 ――もう決めたんだ、自分の道から逃げないって。
 エレアはリリィがちゃんと母親に向かって真剣に意見を主張していないのではと考えていたのである。話を聞くとやはり母親と面と向かって将来の事を話したことはなかったとのことだった。だからまずはどんなに反対されても、その意思をひっくり返すくらいの強い意志をちゃんと示そうとアドバイスしたのである。
母親を説得するのが、リリィが剣士を目指す上でまず乗り越えるべき壁の一つだと。
 母親もそのリリィの変化を感じ取っていた。いつもみたいに逃げてはぐらかすのではなく、自分の意志を認めさせようと歯向かってきていることにすぐに気付いた。そしてその怒りの矛先はそうなった原因にも向けられた。
「エレアさん! 娘に変な事を吹き込まないように言いましたよね!?」
 エレアは怒りが自分にもくるだろうというのを分かっていたので、あらかじめ考えておいた返答をする。
「剣術を教えるなとは言われましたからそれは守りましたよ。まあリリィちゃんは剣士が向いているとは言いましたけどね」
 屁理屈でも理屈は理屈。母親はそのエレアの返答にまた怒りが沸いてきたが、過去の自分の発言の仕方に問題があったので二の句が継げなくなり、余計に歯を食いしばるだけに押し留まるしかなかった。なのですぐにリリィに矛先を戻す。
「エレアさんに何を言われたのか知らないけど、あなたには剣士なんて無理です!」
「無理じゃないよ! エレアさんが認めたんだもん、私だって剣士になれるもん!」
「なれません!」
「なるの!」
 このままではいつまで経っても終わらない、平行線を辿るだけの言い合いをする二人をどう宥めようかと商人夫婦は悩んでいた。しかしそれよりも先にエレアが行動を起こした。
「女将さん、もう好きにさせてください」
 エレアの発言に邪魔をするなと母親は睨みを利かせるが、エレアはそれにも全く怯まずにリリィの手助けをする。
「リリィちゃんはもう決心しています。今回の盗賊団との戦いを経験して、怖い思いをしていても剣士になる事、その強さを極めたいという事も全く変わっていません」
 エレアは母親の怒りを鎮める様な冷静な声色で話始める。母親も少し大人げなかったなという冷静さを取り戻すきっかけになり、肩で息をするほどの興奮が少しずつ収まってくる。しかし次のエレアの発言でまた怒りが戻ることになる。
「第一リリィちゃんにわがままって言うけど、女将さんだってわがままじゃないですか?」
「な!?」
 母親は自分が何でわがまま呼ばわりされたのか分からずに声が裏返る。
「リリィちゃんは剣士になりたいとわがままを言っているのと同じように、女将さんもリリィちゃんに後を継いで欲しいってわがままを言っているだけじゃないですか?」
「リリィは私の子供なんだから私の言うことを聞くのが当たり前でしょ!」
「何でですか?」
「何でって、だから私の子供なんだから……」
「子供は親の言うことを聞くなんて誰が決めたんですか?」
「私が育てたんだから言うことを聞くのが当たり前でしょ!」
「親が子供を育てるのは、当たり前の事ですよね?」
「!」
 エレアの全く引かない姿勢と発言に母親が少しずつ押され始める。母親は自分がリリィを育てたから言うことを守るのは当たり前と思っていた。しかしエレアは親が子供を育てるのは当たり前だから、それを恩着せがましく理由にして言うことを聞かせるのはおかしいと指摘してきたのである。
 そのエレアの気迫は並々ならぬもので、リリィも母親も商人夫婦も、エレアが親に対して何かしらの確執を持っているのだろうと簡単に予測できた。
「お母さん、お願いします」
 母親が黙ったのを確認してリリィはさらに頭を下げてお願いをする。母親が観念したのではないのかと思ったからである。
 母親はまだ娘を危険な道に歩ませたくないと考えていたが、その考えからある一つの答えを導き出していた。少なくともわがまま扱いされたままというのは、やはり大人としての矜持が許さなかった。
「分かりました……」
 母親が遂に折れたことでリリィが喜びの表情で頭を上げる。
「ただし、条件があります」
「条件?」
 その母親の言葉に少しリリィは表情に陰りを見せる。母親はそのリリィの顔を見てから視線をエレアに移す。
「リリィが決意した責任、取ってもらいますよ?」
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