剣闘大会

tabuchimidori

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2戦目

リリィの決意:前編

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「さ、もう大丈夫だよ」
 エレアはリリィに優しく微笑みながら手を差し出す。リリィはその手に引き寄せられるようにして立ち上がる。しかし顔俯いたままだった。エレアはリリィの身体に大きな傷はあるのではないかと思って慌てて確認する。
「あ、ごめん。もしかして怪我してる?」
「いえ……、大丈夫です」
 じゃあなんでそんなに暗い顔しているのかとエレアは問いかける。するとリリィは心底申し訳なさそうに謝った。
「私の方こそごめんなさい!」
「えっ?」
「私が一人で突っ走った結果、人質になってエレアさんの足を引っ張って、もうどうしようもないくらいダメですよね、本当にごめんなさい!」
 リリィは俯いたままの頭をさらに下げてエレアに謝る。リリィの頭の中ではエレアに対する謝罪の意識でほとんど埋め尽くされていた。残りは何で自分にはエレアの様な強さがないのかという悔しさの意識だった。
「気にしないで。それよりリリィちゃんに怪我がなくて良かったよ」
 エレアは当然その悔しさを把握できていなかったが、昨夜のお風呂でのリリィの話を思い出していたから、もしかしたら悔しい思いをしているのかもとは思っていた。
 ――街を守れる強さが欲しい……、か。
 温泉街カドキにも自警団は存在するが実力があまり伴っていないのが現状の問題の一つでもある。というのは、剣闘大会の参加者である剣士が良く泊まりに来ているので、そういった問題が発生した時は彼らに依頼する形になっているからである。今回もその流れでエレアに依頼が来たのである。
 もちろん今回のように問題が解決することもあるが、剣士のレベルがピンキリな上、報酬を釣り上げる剣士すらいるので安定性に欠けているのが現状の温泉街なのである。
 リリィはそれを解決しようと自分が常在の剣士として街を守ろうと剣の腕を鍛え始めたのである。その話を先日エレアは聞かされていた。だからリリィに次の質問をしてみようと思ったのである。
「リリィちゃん、悔しかった?」
「!」
 自分の内心を的確に指摘されて驚いたリリィは思わず顔を上げた。エレアはその歯を食いしばっている悔しがっているリリィの表情を見て答えを知って微笑んだ。
「悔しいって思えたんならリリィちゃんはやっぱり剣士になるべきだよ」
「えっ!?」
 さらにエレアから剣士になることを勧められてリリィは感情が上手くコントロールできなくなった。さっきまで悔しい気持ちと申し訳ない気持ちで一杯だったから、嬉しい事を言ってもらえても素直に喜べないでいた。むしろ何で剣士が向いているのか分からなかったからそれを質問した。
「何で私が剣士に向いてるんですか?」
「『負けた時に悔しい思いをすることが、その人が成長する上で必要な事だから』ってクガさんが言ってたし、私もそう思うから」
 負けず嫌いになれることがその人に向いてるんだってとエレアはリリィに教える。リリィはその言葉に感激してしまった。涙を流すほどに。
「ちょ……、どうしたのリリィちゃん。やっぱりどこか痛いの!?」
「ち、違う、んです……、嬉し、くて」
 今まで親だけではなく周りの人全員に否定されてきた道を、ようやく認めてくれる人が現れたことに、リリィは感動を抑えることが出来なかったのである。その人がリリィにとっては尊敬できる強さを持っている剣士だったのもさらに拍車をかけたのである。
 リリィはその日、本当の意味で剣士を志すことを決心したのである。
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