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3戦目
ハシモト研究所:前編
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「先パーイ、ハシモト先パーイ」
おっとりとした女性の間延びした声が研究所内に響く。彼女の声量はそこまで大きくはないものの、研究所内がひっそりと静まり返っているせいで相対してかなり大きな声に感じるようになっている。ハシモトと呼ばれた白衣を二枚重ね着している無精ひげの男はその呼びかけに対して、姿勢を一つも動かさずに声だけで応じる。
「何だエリアス、誰か客でも来たのか?」
ハシモトを呼んでいたエリアスという女性は、その返答に驚いて両手をわざとらしく上げる。
「すごいですー。何でわかったんですかー?」
「お前が俺を呼ぶ時は、研究報告とお茶が入った時と客が来た時の三パターンだからな。後はお前の俺を呼ぶ時のテンションで大体わかる」
「さすがですー。私の事わかってますねー」
エリアスはハシモトと以心伝心出来ている喜びを示すように笑顔になるが、ハシモトはそんなんじゃねぇよと適当にあしらった。
「で、客ってのは誰だ?」
「あ、崖に配置していたカー君が吹き飛ばされていたのでー、多分研究志願者だと思いますー」
先パイを呼んだのはカー君が飛ばされたっていうのを報告するためですーとエリアスは話を締める。
「久しぶりだな。最後に来たのはいつだ?」
「二年前にホクトさんの所に行った新人さんがラストですー」
「ああ、あの三日で帰ってった根性なしか」
「崖登りもカー君から逃げてきたっていう、ギリギリラインの合格でしたしー」
「今回は骨のある奴だと良いけどな」
「ここに来るとは思えませんけどねー」
エリアスはハシモトの研究室をぐるっと見渡す。とにかく乱雑に積まれた書物と紙束の大群が部屋中に散らばっている。部屋の所有者のハシモトはエリアスと話している間も分厚い本から目を離していなかった。
「いい加減、設備を整えましょうよー」
カナイには大小様々な研究所があり、数は百を超えているとまで言われている。このハシモト研究所はカナイの中では小規模も小規模。研究所はわずか三部屋しかない一軒家で、専門の設備は全くないのにも関わらず蔵書数がナンバーワンということで、研究者たちの間では『ハシモト図書館』とあだ名が付けられている始末である。
「バカ野郎、ここにどれだけの人類の英知が眠っていると思っているんだ。これだけの本やレポートを集めるのにお前の想像もつかないような額が動いているんだぞ」
「その割にー、雑に扱い過ぎじゃありませんかー?」
「この配置が完璧なんだよ。お前もいい加減覚えろ」
「それよりもやるべきことがあると思うんですよねー」
エリアスも魔力の研究に明け暮れるべくこのカナイにやってきた。そして一目惚れしたハシモトの研究所を少しでも発展させるべく尽力しているが、今のところ成果は出ていない。
「新人さんの勧誘ー、しましょうよー」
「前から言っているだろう、向こうから来ない限りいらん。エリアスもいつも通り俺の指示した本の調査を続けるように」
それで話は終わりだと言わんばかりにわざとらしく咳払いを一つする。エリアスはいつも通りの無駄な抵抗とわかっていながらもむーっと頬を膨らませる。そんなささやかな抵抗を終えて仕方ないと部屋に戻る。数時間後にその話題に挙がった新人が来ることになるとはこの時は思っていなかった。
おっとりとした女性の間延びした声が研究所内に響く。彼女の声量はそこまで大きくはないものの、研究所内がひっそりと静まり返っているせいで相対してかなり大きな声に感じるようになっている。ハシモトと呼ばれた白衣を二枚重ね着している無精ひげの男はその呼びかけに対して、姿勢を一つも動かさずに声だけで応じる。
「何だエリアス、誰か客でも来たのか?」
ハシモトを呼んでいたエリアスという女性は、その返答に驚いて両手をわざとらしく上げる。
「すごいですー。何でわかったんですかー?」
「お前が俺を呼ぶ時は、研究報告とお茶が入った時と客が来た時の三パターンだからな。後はお前の俺を呼ぶ時のテンションで大体わかる」
「さすがですー。私の事わかってますねー」
エリアスはハシモトと以心伝心出来ている喜びを示すように笑顔になるが、ハシモトはそんなんじゃねぇよと適当にあしらった。
「で、客ってのは誰だ?」
「あ、崖に配置していたカー君が吹き飛ばされていたのでー、多分研究志願者だと思いますー」
先パイを呼んだのはカー君が飛ばされたっていうのを報告するためですーとエリアスは話を締める。
「久しぶりだな。最後に来たのはいつだ?」
「二年前にホクトさんの所に行った新人さんがラストですー」
「ああ、あの三日で帰ってった根性なしか」
「崖登りもカー君から逃げてきたっていう、ギリギリラインの合格でしたしー」
「今回は骨のある奴だと良いけどな」
「ここに来るとは思えませんけどねー」
エリアスはハシモトの研究室をぐるっと見渡す。とにかく乱雑に積まれた書物と紙束の大群が部屋中に散らばっている。部屋の所有者のハシモトはエリアスと話している間も分厚い本から目を離していなかった。
「いい加減、設備を整えましょうよー」
カナイには大小様々な研究所があり、数は百を超えているとまで言われている。このハシモト研究所はカナイの中では小規模も小規模。研究所はわずか三部屋しかない一軒家で、専門の設備は全くないのにも関わらず蔵書数がナンバーワンということで、研究者たちの間では『ハシモト図書館』とあだ名が付けられている始末である。
「バカ野郎、ここにどれだけの人類の英知が眠っていると思っているんだ。これだけの本やレポートを集めるのにお前の想像もつかないような額が動いているんだぞ」
「その割にー、雑に扱い過ぎじゃありませんかー?」
「この配置が完璧なんだよ。お前もいい加減覚えろ」
「それよりもやるべきことがあると思うんですよねー」
エリアスも魔力の研究に明け暮れるべくこのカナイにやってきた。そして一目惚れしたハシモトの研究所を少しでも発展させるべく尽力しているが、今のところ成果は出ていない。
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それで話は終わりだと言わんばかりにわざとらしく咳払いを一つする。エリアスはいつも通りの無駄な抵抗とわかっていながらもむーっと頬を膨らませる。そんなささやかな抵抗を終えて仕方ないと部屋に戻る。数時間後にその話題に挙がった新人が来ることになるとはこの時は思っていなかった。
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