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5戦目
迷い込んだ本屋
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北部は雪山竜のいる山を境にして東と西で大きく差が出る。西側は海に面していて、海側からの風を山が受け止める形になっているので、一年を通して雪が積もっている期間が長い。北部でも特に極寒の地域となっている。
対してセキヤたちが目指している東側は比較的穏やかな天候で、雪が積もっている時期もそこまで長くない。ただこちらは雪山竜の住処が近い事もあって、不定期に吹雪く時もある。また巨大な魔力を持った存在でもあるため環境に大きな影響を与えている。普通の植物が育たない上に魔物の数も他の地域に比べて多くなっている。
――って聞いてたんだけどなぁ……。
アスラからミーレーまではそこまで遠くないという事で徒歩で足を進めてきたが、これまでの道中とは真逆に何も起こらず、日が沈む前に順調にミーレーに辿り着いていた。
「いやー、今更魔物が来ても驚くつもりはなかったけどー、全く出ないとは思わなかったなー」
エリアスさんもまさか何も起こらず来れるとは思っていなかったようだ。まあ僕としては確率の低い方に偏っているという認識があったので、魔物に襲われる事の多いこの地方では、むしろ襲われない方が自分らしいと思っていた。
「そうですね。まあ無事に着くに越した事はないでしょう」
「それもそうだねー」
自分らしいので特に驚いてはいなかったのだが、一応エリアスさんに話を合わせつつ、ミーレーの街を歩く。旅費はハシモト研究所が負担してくれる事なので剣闘大会支部に行くのではなくそのまま宿を探し、その日は旅の疲れもあってすぐに寝た。
ミーレーに着いた翌日。その日も晴れ晴れとした天候で、北部とは思えないくらいに暖かく過ごしやすい気温になっていた。
――前もって準備した服はあまり意味がなかったかもな。
アスラの街で買った服はまだ荷物から出さず、今まで通りの服と魔術師のローブを羽織って部屋を出る。
隣の部屋にいるはずのエリアスさんを起こそうとノックしてみたものの、全く起きる気配も起きている気配も感じられなかったので、ハシモトさんの助言通りメモ書きだけドアの下の隙間から中に入れて、先にミーレーの街を散策する事にした。
ミーレーの街はいくつかの大通りが入り組んだ街並みになっていて、大抵の店はその大通りに面している。ハシモト研究所に援助している本屋や資料館なども全てが大通りに面していた。なので僕はそれぞれの大通りから一本外れた道を進む事になっているのだが、果たしてこの方法で新しい本が見つかるのか甚だ疑問を抱くようになった。
――どう考えても住宅街なんだよなぁ……。
大通りから一つ逸れた道を行くと店はまばらに散らばり、もう一つ外れればもうそこには店らしい店が存在しなくなる。ベランダを見れば洗濯物が見えたりする点を考慮しても、完全なる住宅地に入り込んだと言い切れると思った。
――探すにしても大通りからほど近い場所に限定しよう。
さっそく元来た道を戻ろうとするが、何度も曲がり角を曲がった事もあって、元の大通りに行く道が分からなくなっていた。
――うーん、これは完全に迷った。
自分では大通りからの位置関係を完全に把握していたつもりだったが、途中で見かけた大通りが最初のとは別の大通りだったのだろうと脳内の地図は一旦リセットする必要があると至って冷静に状況を分析していた。
――まあ適当に歩いて本屋を探しながら大通りに出る事を祈ろう。
さして急ぐ用事でもないしと再び適当に歩き始める事にした。
かれこれ二時間。セキヤは大通りを見かける事もできなくなって、少し疲れを感じ始めていた。
――道が多すぎるし特徴的な建物もないから迷うに決まってるだろ!
この街を作った奴に文句を言いたくなっていたセキヤは、いい加減『空』の魔力を使って上空から大通りに出ようかと考えていた。しかし肝心の本屋探しの成果も出ていないので、何とか自分の足でどうにかしようと無駄な意地を張っていた。
しかしその意地が無駄にならない時が遂に来たのである。セキヤが十字路を右に曲がったところ、そのすぐ目の前に古めかしい、如何にも中古の本を売っていますといった風体の本屋を発見したのである。
――うわぁ、店頭に本を置いてる店とか久々に見た。
比較的天候が安定している地域でもさすがに外にまで本を出している店があるとは思っていなかったセキヤは、その店構えでまず驚いた。さらにその店先にある本の中に早速セキヤが気になるタイトルの本が並べてあったのである。
『魔力のルーツを探る』
帯には『魔力に浮かんでいる文字は何百年も前から存在していた!?』、『四文字の魔力はまだまだ謎が多い!?』などどれもセキヤのためにこの本があると言わんばかりの文言ばかりになっていた。
――これは、買わないわけにはいかないんだよなぁ……。
内心ではあまりにも都合の良い文言ばかり書かれているから、実は中身が大した事ないのではとかなり警戒していた。少なくとも自分の金でこの本を買うかと聞かれたら絶対に買わないと言える自信があった。
しかしハシモト研究所ではそういった区別は一切しない。魔力の事を取り上げているのであれば、有名な研究家が書いた本でも、ちょっと魔力の事を齧った程度の素人同然の人が書いた本でも絶対に集めるのである。
――まあもしかしたら当たりの可能性もゼロではないし、とにかく買おう。
そしてこんな本が置いてあるくらいなら他にもそれっぽい本があるのではと淡い期待を抱きつつ、その本を取って店内へと入っていった。
対してセキヤたちが目指している東側は比較的穏やかな天候で、雪が積もっている時期もそこまで長くない。ただこちらは雪山竜の住処が近い事もあって、不定期に吹雪く時もある。また巨大な魔力を持った存在でもあるため環境に大きな影響を与えている。普通の植物が育たない上に魔物の数も他の地域に比べて多くなっている。
――って聞いてたんだけどなぁ……。
アスラからミーレーまではそこまで遠くないという事で徒歩で足を進めてきたが、これまでの道中とは真逆に何も起こらず、日が沈む前に順調にミーレーに辿り着いていた。
「いやー、今更魔物が来ても驚くつもりはなかったけどー、全く出ないとは思わなかったなー」
エリアスさんもまさか何も起こらず来れるとは思っていなかったようだ。まあ僕としては確率の低い方に偏っているという認識があったので、魔物に襲われる事の多いこの地方では、むしろ襲われない方が自分らしいと思っていた。
「そうですね。まあ無事に着くに越した事はないでしょう」
「それもそうだねー」
自分らしいので特に驚いてはいなかったのだが、一応エリアスさんに話を合わせつつ、ミーレーの街を歩く。旅費はハシモト研究所が負担してくれる事なので剣闘大会支部に行くのではなくそのまま宿を探し、その日は旅の疲れもあってすぐに寝た。
ミーレーに着いた翌日。その日も晴れ晴れとした天候で、北部とは思えないくらいに暖かく過ごしやすい気温になっていた。
――前もって準備した服はあまり意味がなかったかもな。
アスラの街で買った服はまだ荷物から出さず、今まで通りの服と魔術師のローブを羽織って部屋を出る。
隣の部屋にいるはずのエリアスさんを起こそうとノックしてみたものの、全く起きる気配も起きている気配も感じられなかったので、ハシモトさんの助言通りメモ書きだけドアの下の隙間から中に入れて、先にミーレーの街を散策する事にした。
ミーレーの街はいくつかの大通りが入り組んだ街並みになっていて、大抵の店はその大通りに面している。ハシモト研究所に援助している本屋や資料館なども全てが大通りに面していた。なので僕はそれぞれの大通りから一本外れた道を進む事になっているのだが、果たしてこの方法で新しい本が見つかるのか甚だ疑問を抱くようになった。
――どう考えても住宅街なんだよなぁ……。
大通りから一つ逸れた道を行くと店はまばらに散らばり、もう一つ外れればもうそこには店らしい店が存在しなくなる。ベランダを見れば洗濯物が見えたりする点を考慮しても、完全なる住宅地に入り込んだと言い切れると思った。
――探すにしても大通りからほど近い場所に限定しよう。
さっそく元来た道を戻ろうとするが、何度も曲がり角を曲がった事もあって、元の大通りに行く道が分からなくなっていた。
――うーん、これは完全に迷った。
自分では大通りからの位置関係を完全に把握していたつもりだったが、途中で見かけた大通りが最初のとは別の大通りだったのだろうと脳内の地図は一旦リセットする必要があると至って冷静に状況を分析していた。
――まあ適当に歩いて本屋を探しながら大通りに出る事を祈ろう。
さして急ぐ用事でもないしと再び適当に歩き始める事にした。
かれこれ二時間。セキヤは大通りを見かける事もできなくなって、少し疲れを感じ始めていた。
――道が多すぎるし特徴的な建物もないから迷うに決まってるだろ!
この街を作った奴に文句を言いたくなっていたセキヤは、いい加減『空』の魔力を使って上空から大通りに出ようかと考えていた。しかし肝心の本屋探しの成果も出ていないので、何とか自分の足でどうにかしようと無駄な意地を張っていた。
しかしその意地が無駄にならない時が遂に来たのである。セキヤが十字路を右に曲がったところ、そのすぐ目の前に古めかしい、如何にも中古の本を売っていますといった風体の本屋を発見したのである。
――うわぁ、店頭に本を置いてる店とか久々に見た。
比較的天候が安定している地域でもさすがに外にまで本を出している店があるとは思っていなかったセキヤは、その店構えでまず驚いた。さらにその店先にある本の中に早速セキヤが気になるタイトルの本が並べてあったのである。
『魔力のルーツを探る』
帯には『魔力に浮かんでいる文字は何百年も前から存在していた!?』、『四文字の魔力はまだまだ謎が多い!?』などどれもセキヤのためにこの本があると言わんばかりの文言ばかりになっていた。
――これは、買わないわけにはいかないんだよなぁ……。
内心ではあまりにも都合の良い文言ばかり書かれているから、実は中身が大した事ないのではとかなり警戒していた。少なくとも自分の金でこの本を買うかと聞かれたら絶対に買わないと言える自信があった。
しかしハシモト研究所ではそういった区別は一切しない。魔力の事を取り上げているのであれば、有名な研究家が書いた本でも、ちょっと魔力の事を齧った程度の素人同然の人が書いた本でも絶対に集めるのである。
――まあもしかしたら当たりの可能性もゼロではないし、とにかく買おう。
そしてこんな本が置いてあるくらいなら他にもそれっぽい本があるのではと淡い期待を抱きつつ、その本を取って店内へと入っていった。
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