剣闘大会

tabuchimidori

文字の大きさ
34 / 61
5戦目

手紙と気持ち

しおりを挟む
 前略、お父さんお母さんお元気ですか。私は今日も元気です。ただし最近はちょっと違う場所にいます。
 いつもは先パイと一緒に研究所で楽しく魔力の研究をしているのですが、先日の手紙でもお伝えした新人のセキヤ君とあちこち旅をして資料を集める仕事が追加されて、きっとこの手紙が届く頃には北部入りしている頃だと思います。
 憧れの先パイとの仕事ができなくなってしまって少し寂しいとかそんな事だけではないんです! 一杯愚痴りたい事があり過ぎるんです!
 セキヤ君と旅をしていると事件に巻き込まれて巻き込まれて大変なんです! そして何が問題かって別にセキヤ君が問題を起こしているわけじゃないんですよ! 単純に運が悪いというか引き寄せる運が何かおかしいというか、とにかく悪い出来事に巻き込まれるんです!
 旅を始めて初っ端からロープウェイが定期点検で使えなかったのを皮切りに、キャラバンと一緒に旅をすれば馬は逃げ出すし、新種の変異種の魔物に出会うし、季節外れのゲリラ豪雨に見舞われるしでネタが尽きません。
 本人はもう昔っからこうですよって済ました顔で特に気にせず全部冷静に対処していて、そのスマートさが先パイとはちょっと違ったカッコよさになってるなとか思っても別に好みではないので特にそういう話をするつもりはないですけど、向こうから迫られたら断れないかもと色々と危険性が高い旅になってしまって私はもうどうしましょう!?
 手紙を書いて現状を冷静に分析すれば少しは落ち着くかと思ったけど逆に意識しそうで怖いです! 先パイ助けて! 私は先パイ一筋だったはずなのに! なんでこんな試練を……!
 なるほど、これはあれですね。俺に付いてくる覚悟があるならこんな誘惑には負けないよなっていう先パイからの試練だったんですね! 危ないところでした。まさか先パイがそんな試練をさらっと私に課してきてるとは思いませんでした。そんな素振り一切なかったのに、さすが私の憧れの先パイ! 私の予想を簡単に超えてくれますね!
 ならば私も先パイの期待に応えましょう! こんな爽やかクールイケメンのセキヤ君との旅も何の問題もなく完璧にこなしてみせます! そして先パイが求める大好きな魔力の資料をお届けして、私の気持ちを全力でお伝えします!
 ――しまった、これはお父さんお母さんへの手紙だった!
 北部と中央部の境目に位置するアスラの街。私とセキヤ君は様々な事件に見舞われつつも、ここまで二日でやってきてます。本来なら一日でこれる行程だったはずですけど、むしろあれだけ色々あっても二日で来れたのはセキヤ君の対処能力が高かったおかげだったと言えます。私一人だったらむしろ途中で引き返しててもおかしくない出来事だらけでした。
 まあそもそもセキヤ君がいなければこれだけ問題が起こらなかったと言い切れる自信がありますが。
 現在はセキヤ君が今後の旅で必要になる防寒具やらアイテムやらを買いに行ってくれてるタイミングで、私は待ち時間を使って両親に手紙を書いている所です。
 途中暴走してしまった部分を消して改めて手紙に近況と今後の展開を書いて配達屋に届ける事にしました。しかし配達屋に行く際も、さっきの予想があながち間違っていないのではと思い、今後の旅はより気を引き締めて行う必要があるなと考えた。
 ――先パイ、絶対に私は誘惑に負けませんよ!
 グッと握り拳を作って、決意を新たにしたタイミングで、セキヤ君も買い物を済ませてやってきていた。
「お待たせしました。……何かありました?」
「ううん、何でそう思ったのー?」
「いや、さっきよりも何か表情が晴れやかというかスッキリした感じになっているので。これからより寒い場所に行くのにテンション高そうですね」
「別に寒さとかは大丈夫だよー。魔法使いなら当たり前でしょー」
 普通にやり取りしているけど、内心は結構グラッときていた。
 ――さらっと私の表情の変化に気付くとか、この子本当にヤバいわ。
 何とかその鼓動の高鳴りに気付かれないように、通常運転を務める。しかしセキヤ君は私のしゃべり方とかにあんまり抵抗感とか嫌悪感を表に出さないよな。自分でも思っている感じと喋ってる感じに差があって若干コンプレックスになってるのに。
「さすがですね。それじゃあこれがエリアスさんの分です。防寒具一式を入れておきました」
 動きやすい系の服としっかりと暖を取れる服の二種類をいくつか用意してくれたようだった。しかしその荷物を持って違和感を感じる。それは私の荷物より明らかにセキヤ君の荷物の方が多かったからだ。
「そっちは随分と大荷物になってるけど?」
「一応時間があったら雪山竜の山にも行ってみようと思ってたので、それ用の装備も入ってるからです」
 登山用品とかですねとセキヤ君が中身を見せる。イマイチ用途が分からないけど確かに登山で使ってそうなアイテムがいくつか見えたので、へぇと納得する。
「鍛冶屋杯もあるのに、雪山も登ろうっていうのは中々大変だねぇー」
「それが剣闘大会の醍醐味ですし」
 大変な事だと思うけど全くそういう風に感じていないセキヤ君の笑顔を見て割とドキッとしたのは内緒です。
 ――おかしいなぁ……、こういうストレートなイケメンは私のタイプじゃなかったんだけどなぁ……。
 自分の心の動きに疑問を持ちつつ、とりあえず用意ができた以上アスラの街にいる理由も無くなったので、とりあえず次の街に行こうとする。
「今日中にミーレーまで行けるかなー」
「多分大丈夫でしょう。天候は今日は安定している方なんで、よっぽどの事が起きても大丈夫ですよ」
「よっぽどの事……」
 多分セキヤ君の中ではここまでの事件はよっぽどの事の内に入ってないんだろうなと思いつつ、せめて今日だけは何も起こらない事を祈りつつ、アスラの街を出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。

華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~

はぎわら歓
恋愛
 国家占い師である胡晶鈴は、この中華・曹王朝の王となる曹隆明と結ばれる。子を宿した晶鈴は占術の能力を失い都を去ることになった。  国境付近の町で異民族の若い陶工夫婦と知り合う。同じく母になる朱京湖とは、気が合い親友となった。  友人になった夫婦と穏やかな生活を送るはずだったが、事情のある朱京湖と間違えられ、晶鈴は異国へと連れ去られてしまった。京湖と家族の身を案じ、晶鈴はそのまま身代わりとなる。  朱彰浩と京湖は、晶鈴の友人である、陸慶明に助けを求めるべく都へ行く。晶鈴の行方はずっと掴めないままではあるが、朱家は穏やかな生活を営むことができた。  12年たち、晶鈴の娘、星羅は才覚を現し始める。それと同時に、双子のように育った兄・朱京樹、胡晶鈴との恋に破れた医局長・陸慶明とその息子・陸明樹、そして実の娘と知らない王・曹隆明が星羅に魅了されていく。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...