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殺戮の朝2
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永芳は怒りに我を忘れて剣を抜くと、劉玲華めがけて飛びかかった。
足の痛みのせいでよろめいたが、勢いのまま力任せに剣を振り下ろす。
劉は冷静に永芳の剣を受けると、弾き飛ばした。
疲れと痛みのせいで、永芳は呆気なく焼けた地面に転がされた。無様に倒れ込んだまま、劉を睨みつける。
劉はゆっくりと永芳のそばへ来ると、手を掴んで立ち上がらせた。永芳が手を解こうとしても、びくともしない。手を掴んだまま、息が掛かる距離までグッと引き寄せられた。面具の奥からじっと見つめられる。
「兄さん!」
永芳が声のする方へ顔を向けると、余雪がこちらに走ってくる姿が見えた。
劉の後ろから、魔教の手の者が現れて余雪に向かっていく。
「雪児!」
永芳は余雪の元へ駆け寄ろうとするが、劉にがっちりと腰を掴まれて身動きできない。
「離せ!」
永芳が腕の中でもがくのを無視して、劉は余雪へ目をやった。
「彼はあなたの大事な人?」
永芳は余雪を見た。
余雪は落ちていた剣を拾ったのか、双剣で五人を相手にしている。
最初はぎこちなく防戦一方だった余雪だが、次第に速度が増し、剣が鋭さを帯びる。
永芳は、余雪と二人きりで稽古をする時は大抵、単なる剣技ではなく、戦術を教えた。
剣を繰り出し、その二手先、三手先を考えさせる。
「それじゃあ、左の脇腹がガラ空きだ」
余雪の突き出した剣先をかいくぐって、永芳が脇をトンと突く。
「……兄さんの方が手が長いんだから、仕方ないじゃないか」
「お前は斬られた後でもそんなことを言うのか」
余雪はしばらく考えた後、サッと身を低くすると永芳の懐に潜り込み、下から垂直に斬り上げる。
永芳は咄嗟に柄を返して防いだが、腹にぶつかりながらそわそわした目で見上げる余雪へ、驚いた表情を向けた。
「今のはよかったな」
永芳がそう言うと、余雪は視線を逸らして、むずむずしている口元をギュッと引き結んだ。
逆に、何度挑んでも永芳の剣に弾かれる時は、不貞腐れて口もきかなかった。
「もう今日はやめよう」
永芳の言葉に、余雪が不服そうに口を尖らす。
余程悔しいのか、永芳の顔も見なかった。そんな時でも、『帰ろう』と声をかけると、余雪は習い性のように永芳の手を握った。
永芳は手のひらに滑り込んできた柔らかい指を握り返し、小さな手を引いて二人の部屋に帰った。
余雪の剣は戦いの中で勢いを増し、常人にはもう太刀筋すら見えなかった。カンカンと激しい音が響き、剣先が弾く光が飛び散っている。
永芳が教えた通りの戦い方だった。
──それでは八手先には追い詰められる。そうだ、そこは引かずに右の敵の影に入るようにして……
永芳が教えた通りの戦い方をしていた余雪は、次第にそれすら超えていく。
双剣を鮮やかに使いこなし、五人の敵はじりじりと後退しつつあった。
それは、永芳がもう到達できない境地だった。
永芳の目から涙が溢れて、煤で黒くなった頬に筋を作る。
余雪がこんなにも強くなったことへの悦びと、もう自分の手が届かないところまでいってしまった淋しさ、そして永芳自身はもう決して辿り着くことのできない強さへの妬み……
永芳は涙で滲む目で余雪を見つめた。幼い頃の、頼りない柔らかな手の温もりを思い出す。
「……あの子は、わたしの一番大事な人だよ」
「そう……」
劉玲華は呟くのと同時に、掴んでいた剣を余雪へ向けて無造作に投げつけた。
「雪児!」
永芳の声に、余雪がハッと顔を向ける。
その瞬間、劉の投げた剣は余雪の胸を深々と貫き、その体は焼け爛れた地面へ仰向けに倒れた。
「雪──……!」
余雪の元へ駆け寄ろうと身を捩った永芳は、首筋に微かな痛みを感じたのを最後に、意識を失った。
足の痛みのせいでよろめいたが、勢いのまま力任せに剣を振り下ろす。
劉は冷静に永芳の剣を受けると、弾き飛ばした。
疲れと痛みのせいで、永芳は呆気なく焼けた地面に転がされた。無様に倒れ込んだまま、劉を睨みつける。
劉はゆっくりと永芳のそばへ来ると、手を掴んで立ち上がらせた。永芳が手を解こうとしても、びくともしない。手を掴んだまま、息が掛かる距離までグッと引き寄せられた。面具の奥からじっと見つめられる。
「兄さん!」
永芳が声のする方へ顔を向けると、余雪がこちらに走ってくる姿が見えた。
劉の後ろから、魔教の手の者が現れて余雪に向かっていく。
「雪児!」
永芳は余雪の元へ駆け寄ろうとするが、劉にがっちりと腰を掴まれて身動きできない。
「離せ!」
永芳が腕の中でもがくのを無視して、劉は余雪へ目をやった。
「彼はあなたの大事な人?」
永芳は余雪を見た。
余雪は落ちていた剣を拾ったのか、双剣で五人を相手にしている。
最初はぎこちなく防戦一方だった余雪だが、次第に速度が増し、剣が鋭さを帯びる。
永芳は、余雪と二人きりで稽古をする時は大抵、単なる剣技ではなく、戦術を教えた。
剣を繰り出し、その二手先、三手先を考えさせる。
「それじゃあ、左の脇腹がガラ空きだ」
余雪の突き出した剣先をかいくぐって、永芳が脇をトンと突く。
「……兄さんの方が手が長いんだから、仕方ないじゃないか」
「お前は斬られた後でもそんなことを言うのか」
余雪はしばらく考えた後、サッと身を低くすると永芳の懐に潜り込み、下から垂直に斬り上げる。
永芳は咄嗟に柄を返して防いだが、腹にぶつかりながらそわそわした目で見上げる余雪へ、驚いた表情を向けた。
「今のはよかったな」
永芳がそう言うと、余雪は視線を逸らして、むずむずしている口元をギュッと引き結んだ。
逆に、何度挑んでも永芳の剣に弾かれる時は、不貞腐れて口もきかなかった。
「もう今日はやめよう」
永芳の言葉に、余雪が不服そうに口を尖らす。
余程悔しいのか、永芳の顔も見なかった。そんな時でも、『帰ろう』と声をかけると、余雪は習い性のように永芳の手を握った。
永芳は手のひらに滑り込んできた柔らかい指を握り返し、小さな手を引いて二人の部屋に帰った。
余雪の剣は戦いの中で勢いを増し、常人にはもう太刀筋すら見えなかった。カンカンと激しい音が響き、剣先が弾く光が飛び散っている。
永芳が教えた通りの戦い方だった。
──それでは八手先には追い詰められる。そうだ、そこは引かずに右の敵の影に入るようにして……
永芳が教えた通りの戦い方をしていた余雪は、次第にそれすら超えていく。
双剣を鮮やかに使いこなし、五人の敵はじりじりと後退しつつあった。
それは、永芳がもう到達できない境地だった。
永芳の目から涙が溢れて、煤で黒くなった頬に筋を作る。
余雪がこんなにも強くなったことへの悦びと、もう自分の手が届かないところまでいってしまった淋しさ、そして永芳自身はもう決して辿り着くことのできない強さへの妬み……
永芳は涙で滲む目で余雪を見つめた。幼い頃の、頼りない柔らかな手の温もりを思い出す。
「……あの子は、わたしの一番大事な人だよ」
「そう……」
劉玲華は呟くのと同時に、掴んでいた剣を余雪へ向けて無造作に投げつけた。
「雪児!」
永芳の声に、余雪がハッと顔を向ける。
その瞬間、劉の投げた剣は余雪の胸を深々と貫き、その体は焼け爛れた地面へ仰向けに倒れた。
「雪──……!」
余雪の元へ駆け寄ろうと身を捩った永芳は、首筋に微かな痛みを感じたのを最後に、意識を失った。
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