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推しからの匂わせ
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瞳は、自分の部屋の床に大の字になって天井を眺めていた。
え……本当に何時間か前まで、佐久間さんがこの部屋にいたの? 夢? いや、匂い残ってるもん。めっちゃいい匂い。粒子レベルでまだ佐久間さんがここに存在してる。
はあ……参ったな。次会う時、どんな顔したらいいんだろう。もうセックスしちゃった仲だし……まあ、セックスは過言かもだけど。挿入はしてないからね。でも、裸で抱き合ってたら実質セックスみたいなもんでしょ。俺から佐久間さんには、即尺生フェラごっくん全身リップアナル舐めしちゃったからね。セックスですよ。
大学時代の俺に言ってやりたい。『お前、十年後にエイジとセックスするぞ』ってね。
まあ、あの……全然感じてなかったけどね、あの人。いや、わかってますよ。不感症だし。そこを好きになったんだし。でも、他人とのセックスで感じてない姿を見るのと、俺の渾身のテクニックで無反応なのは全然違うじゃん。正直凹みますよ。俺、そんな下手だった?
『ヤってる相手が喘ぐの萎える~w』とか言ってた自分が恥ずかしいわ。すみません、反応ないの、めちゃくちゃ辛いです。
でも一応、射精はしてたから、全く感じてないってことはない……はず。
だいたい、なんであの人うちに来たの。ノンケだし潔癖症だし、セックスとか絶対そんな好きじゃないじゃん。
金曜の夜にうちに来て、帰るの面倒だって言って泊まって、土曜の昼過ぎに起きたら、部屋が汚いって半日掃除させられて……いや、自分の部屋ですからね。掃除はしますよ。でも、一緒にいる時にわざわざ掃除しなくてもよくない? もっとおうちデートみたいなことすればいいと思うじゃん。デート……デートかあ♡ まあ、実際おうちデートでしたけどね。デートっていうか同棲?
だって、さすがに土曜の夜に帰るかと思うじゃん。帰んないんだよ! 日曜朝の特撮番組が見たいからって、朝早いから泊まって見て帰るって! 真剣にキッズ番組見てるの、めっちゃかわいい♡ ギャップ萌え? あざとすぎんだろ。ギャップがなくても萌えるけどね。
いや、弄ばれてるってのはわかってますよ。畜生だよ、あの人。圧倒的モテ強者だから仕方ないけどさあ、幼気なファンをおもちゃにして何が楽しいんだよ。
俺は全然困ってないけどね! 困ってないのが困る。むしろぐっちゃぐちゃに弄ばれたい! どうせあの人、すぐ飽きるから、会えるのは今だけだろうけどさ~推しと偶然出会ってセックス(仮)までできるって、こんな幸運なくない!?
はあ~~~~~♡♡生きててよかった~~~~~!!!
暗くなった部屋の中で、瞳はおもむろに起き上がると、瑛が飽きるまでにやりたいプレイをリストアップし始めた。
オフィスデザインのコンペに無事通ったお祝いで、食事会が開かれると聞いた瞳は、それとなくメンバーを確認した。
「佐久間さんだけ、仕事の都合で不参加だって」
それを聞いて、女性スタッフは『残念~』と嘆いたが、瞳は内心ホッとしていた。あの日以来、瑛とは連絡を取っていない。セックス(挿入なし)をしたガチ恋相手と、どんな顔で対面したらいいのかわからん。いや、めちゃくちゃ会いたいけどね! ていうか、そもそもプライベートの連絡先知らないけどね!!
当日瞳は、瑛が不在なのをいいことに、
「佐久間さんって、めっちゃイケメンですよね」
と、先方の社員に話を振った。仕事中の推しの様子を知る、絶好の機会だ。
「わたし、初めて会った時、後光で目が潰れるかと思いましたよ。今でも話す時どきどきしちゃう」
うんうんと、瞳も大きく頷く。
「近寄りがたさはあるけど、親切だし、仕事できるし、王子様ですよ~」
わかる。冷たいのかなって思わせて、意外と優しいのがたまんないよね~~♡ でも、もっとゲスい話が聞きたい!
過去の恋愛遍歴を聞き出そうとしたとき、端の席の女性が、きゃっと甘えた声を上げた。
瞳が顔を上げると、瑛がこちらに歩いてくる姿が見える。
スーツ姿の瑛が颯爽と登場する様は、まるで映画のワンシーンのようで、ロマンチックで華やかなイタリアンバルのBGMをバックに、カツン、カツンと靴音が響く。髪が風に靡くのが、瞳の目にスローモーションのように映った。
「あ、佐久間さん、都合ついたんだ?」
と言う声で我に返ると、すぐそばに瑛が立っていた。久しぶりに見る推しがかっこよすぎて、瞳はヒッと小さく声を漏らす。
「ごめんね、今から参加しても大丈夫?」
「もちろんです! こっち空いてますよ」
女子が固まって座るエリアに呼ばれた瑛は、少し困ったように笑うと、
「俺、瞳ちゃんの隣にしよ」
と、瞳の横の席に腰を下ろした。
瞳はビクッと大袈裟に肩を跳ねさせると、引き攣った顔で瑛を見る。何やってんの、この人。
「えー、いつの間に二人、仲良くなったんですか?」
向かいに座る女子に訊かれて、
「この前の打ち合わせの後、たまたま帰りが一緒になって、ちょっと飲みに行ったんだよね」
と、瑛が瞳に笑いかける。
いや、呼び出し喰らったんですが……とも言えず、瞳は、はは……と力無く笑った。
瑛のよそ行きの笑顔が見られるのは嬉しい。嬉しいけど、死因が『突然のファンサ』になってしまう。
「何話してたの?」
瑛がにこやかに笑いながら尋ねる。
「……佐久間さんがかっこいいって話ですよ」
瞳はほとんどやけくそで答えると、目の前のワインを一気飲みした。
「えぇ? 本当?」
穏やかな笑顔で見つめられて、カーッと顔に血が上る。
周りの女子が、四谷さんめっちゃ照れてる、と冷やかすので、ますます顔が赤くなった。女の子って、男がいちゃいちゃしてるとこ見るの好きだよね。俺もだーい好き♡
「コンペ、すごく評判よかったよ。四谷さんセンスいいんだね」
え、え、何この流れ。瑛が何か企んでいるんじゃないかと、瞳は気が気じゃない。
「自分の家もおしゃれなの?」
いや、あんた知ってるでしょ。汚ねえってキレ散らかして俺に掃除させたじゃん。
瞳が拗ねた目を瑛に向けると、試すような視線とぶつかった。薄く笑ってじっと見つめる瑛に、瞳がおそるおそる口を開く。
「うち……来ますか?」
瑛は鼻で笑っただけで何も言わなかった。
こーへんのかい、と瞳が心の中で突っ込んだ瞬間、テーブルの下で、スラックスに包まれた瑛の脚が瞳の脚に絡んだ。
脚なっっっっが!!!
え……本当に何時間か前まで、佐久間さんがこの部屋にいたの? 夢? いや、匂い残ってるもん。めっちゃいい匂い。粒子レベルでまだ佐久間さんがここに存在してる。
はあ……参ったな。次会う時、どんな顔したらいいんだろう。もうセックスしちゃった仲だし……まあ、セックスは過言かもだけど。挿入はしてないからね。でも、裸で抱き合ってたら実質セックスみたいなもんでしょ。俺から佐久間さんには、即尺生フェラごっくん全身リップアナル舐めしちゃったからね。セックスですよ。
大学時代の俺に言ってやりたい。『お前、十年後にエイジとセックスするぞ』ってね。
まあ、あの……全然感じてなかったけどね、あの人。いや、わかってますよ。不感症だし。そこを好きになったんだし。でも、他人とのセックスで感じてない姿を見るのと、俺の渾身のテクニックで無反応なのは全然違うじゃん。正直凹みますよ。俺、そんな下手だった?
『ヤってる相手が喘ぐの萎える~w』とか言ってた自分が恥ずかしいわ。すみません、反応ないの、めちゃくちゃ辛いです。
でも一応、射精はしてたから、全く感じてないってことはない……はず。
だいたい、なんであの人うちに来たの。ノンケだし潔癖症だし、セックスとか絶対そんな好きじゃないじゃん。
金曜の夜にうちに来て、帰るの面倒だって言って泊まって、土曜の昼過ぎに起きたら、部屋が汚いって半日掃除させられて……いや、自分の部屋ですからね。掃除はしますよ。でも、一緒にいる時にわざわざ掃除しなくてもよくない? もっとおうちデートみたいなことすればいいと思うじゃん。デート……デートかあ♡ まあ、実際おうちデートでしたけどね。デートっていうか同棲?
だって、さすがに土曜の夜に帰るかと思うじゃん。帰んないんだよ! 日曜朝の特撮番組が見たいからって、朝早いから泊まって見て帰るって! 真剣にキッズ番組見てるの、めっちゃかわいい♡ ギャップ萌え? あざとすぎんだろ。ギャップがなくても萌えるけどね。
いや、弄ばれてるってのはわかってますよ。畜生だよ、あの人。圧倒的モテ強者だから仕方ないけどさあ、幼気なファンをおもちゃにして何が楽しいんだよ。
俺は全然困ってないけどね! 困ってないのが困る。むしろぐっちゃぐちゃに弄ばれたい! どうせあの人、すぐ飽きるから、会えるのは今だけだろうけどさ~推しと偶然出会ってセックス(仮)までできるって、こんな幸運なくない!?
はあ~~~~~♡♡生きててよかった~~~~~!!!
暗くなった部屋の中で、瞳はおもむろに起き上がると、瑛が飽きるまでにやりたいプレイをリストアップし始めた。
オフィスデザインのコンペに無事通ったお祝いで、食事会が開かれると聞いた瞳は、それとなくメンバーを確認した。
「佐久間さんだけ、仕事の都合で不参加だって」
それを聞いて、女性スタッフは『残念~』と嘆いたが、瞳は内心ホッとしていた。あの日以来、瑛とは連絡を取っていない。セックス(挿入なし)をしたガチ恋相手と、どんな顔で対面したらいいのかわからん。いや、めちゃくちゃ会いたいけどね! ていうか、そもそもプライベートの連絡先知らないけどね!!
当日瞳は、瑛が不在なのをいいことに、
「佐久間さんって、めっちゃイケメンですよね」
と、先方の社員に話を振った。仕事中の推しの様子を知る、絶好の機会だ。
「わたし、初めて会った時、後光で目が潰れるかと思いましたよ。今でも話す時どきどきしちゃう」
うんうんと、瞳も大きく頷く。
「近寄りがたさはあるけど、親切だし、仕事できるし、王子様ですよ~」
わかる。冷たいのかなって思わせて、意外と優しいのがたまんないよね~~♡ でも、もっとゲスい話が聞きたい!
過去の恋愛遍歴を聞き出そうとしたとき、端の席の女性が、きゃっと甘えた声を上げた。
瞳が顔を上げると、瑛がこちらに歩いてくる姿が見える。
スーツ姿の瑛が颯爽と登場する様は、まるで映画のワンシーンのようで、ロマンチックで華やかなイタリアンバルのBGMをバックに、カツン、カツンと靴音が響く。髪が風に靡くのが、瞳の目にスローモーションのように映った。
「あ、佐久間さん、都合ついたんだ?」
と言う声で我に返ると、すぐそばに瑛が立っていた。久しぶりに見る推しがかっこよすぎて、瞳はヒッと小さく声を漏らす。
「ごめんね、今から参加しても大丈夫?」
「もちろんです! こっち空いてますよ」
女子が固まって座るエリアに呼ばれた瑛は、少し困ったように笑うと、
「俺、瞳ちゃんの隣にしよ」
と、瞳の横の席に腰を下ろした。
瞳はビクッと大袈裟に肩を跳ねさせると、引き攣った顔で瑛を見る。何やってんの、この人。
「えー、いつの間に二人、仲良くなったんですか?」
向かいに座る女子に訊かれて、
「この前の打ち合わせの後、たまたま帰りが一緒になって、ちょっと飲みに行ったんだよね」
と、瑛が瞳に笑いかける。
いや、呼び出し喰らったんですが……とも言えず、瞳は、はは……と力無く笑った。
瑛のよそ行きの笑顔が見られるのは嬉しい。嬉しいけど、死因が『突然のファンサ』になってしまう。
「何話してたの?」
瑛がにこやかに笑いながら尋ねる。
「……佐久間さんがかっこいいって話ですよ」
瞳はほとんどやけくそで答えると、目の前のワインを一気飲みした。
「えぇ? 本当?」
穏やかな笑顔で見つめられて、カーッと顔に血が上る。
周りの女子が、四谷さんめっちゃ照れてる、と冷やかすので、ますます顔が赤くなった。女の子って、男がいちゃいちゃしてるとこ見るの好きだよね。俺もだーい好き♡
「コンペ、すごく評判よかったよ。四谷さんセンスいいんだね」
え、え、何この流れ。瑛が何か企んでいるんじゃないかと、瞳は気が気じゃない。
「自分の家もおしゃれなの?」
いや、あんた知ってるでしょ。汚ねえってキレ散らかして俺に掃除させたじゃん。
瞳が拗ねた目を瑛に向けると、試すような視線とぶつかった。薄く笑ってじっと見つめる瑛に、瞳がおそるおそる口を開く。
「うち……来ますか?」
瑛は鼻で笑っただけで何も言わなかった。
こーへんのかい、と瞳が心の中で突っ込んだ瞬間、テーブルの下で、スラックスに包まれた瑛の脚が瞳の脚に絡んだ。
脚なっっっっが!!!
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