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推しの鑑賞会

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「え、きれいになってる」

 部屋に入った瞬間の瑛の一言で、瞳の自己肯定感は爆上がりした。

「はい! いつ佐久間さんが来てもいいように、めちゃめちゃ掃除してます!!」
「あ、そう……それなら、もっと来ればよかったな」

 怒涛の一日だったが、片付いた部屋を見て穏やかに微笑んだ瑛が、今日のハイライトだと思った。推しがかっこよすぎて死ぬ。

「あの、テレビとか本とか、その辺のやつ好きに見てもらって全然大丈夫なんで!」

 そう言って、キッチンで飲み物を準備していた瞳は、リビングに戻った瞬間、立ち尽くした。

「こんなパッケージだったんだ。初めて見ーー」
「うわ~~~~~~~~~~!!!!!」

 奇声をあげてダッシュすると、瑛の手からエイジ主演『超ド級イケメンを生堀り種付け! 初アナルで淫乱覚醒』のパッケージを奪い取る。

「見ちゃダメでしょ!!」
「好きに見ていいって言ったじゃん」
「これはダメだろ!!!」

 瞳は奪い取ったパッケージを後ろ手に隠した。ぜいぜいと肩で息をする瞳の勢いに呆気に取られた瑛だったが、にやにやと笑う。

「まだこれ観てんの? 俺と知り合った後に、どんな感情で観てんだよ」

 瑛に見つめられて、顔が真っ赤に染まる。
 罪悪感はある。もの凄く後ろめたい。だけどーー
「めちゃくちゃ興奮します……」

 最低、と呟いて瑛が距離を詰める。瞳が怯んだ隙に、その手からパッケージを奪い取った。

「一緒に観る?」

 パッケージをひらひらと振ってみせる瑛の顔が、もの凄く意地悪でチャーミングだったせいで、瞳は思わず頷いてしまった。





「こんなことやってたんだ。全然覚えてねえな」

 ビールを片手に、映画鑑賞をしているかのように瑛が呟く。瞳は生きた心地がしない。

「ていうか、演技酷いな。これで興奮すんの?」

 瑛に視線を向けられて、瞳は首がもげそうなほどうなだれる。興奮するに決まってんだろうが。気が狂いそうなくらいムラムラしとるわ。

 画面の中では、瑛がタチ役二人に体をまさぐられている。
 先輩の家に誘われたノンケの男子大学生(エイジ)が、先輩に唆されてその気になり、最終的にはノリノリで3Pをするーーというのが、作品の大まかな流れだ。

『やめてください』
 棒読みの冷たいセリフが、静まり返った部屋に響く。
 口では嫌そうにしながら満更でもない、という意図のセリフなのだろうが、瑛が言うと本気で嫌がっているようにしか聞こえない。

「なんでこんな設定にしたんですか」
「あー……確か、最初はレイプものの予定だったんだよな」

 瑛が思い出しながらぽつぽつと話す。

「俺の嫌がり方が迫真過ぎてシャレにならないって言われて、せめて設定だけは和姦にしようってなった気がする」

 フィクションとはいえ、瑛が酷い目にあうのは辛いのでイチャラブ(真顔)でよかった……のか? 瞳は上の空でテレビを見つめた。エイジが先輩の一人に後ろから羽交い締めにされながら、もう一人にフェラチオされる場面だった。

「すげえ嫌そうな顔」
「でも一応、嫌じゃない顔をしようって努力してますよね」
「金貰ってるからな」

 俺にされるのは嫌じゃないんですか? とは、怖くて訊けなかった。
 フェラしながらの手マンの後、エイジにディルドが挿入される。めちゃくちゃきれいなケツだな、と何回観ても思う。肌の質感も筋肉のつき方も、これ以上はないというくらい理想の尻だった。

「苦しそうなのに、ちゃんと勃つんですね」
「これ、勃起薬飲まされたんだよ」

 他人事のように画面を見ていた瑛だったが、ディルドを抜いて本番が始まるというタイミングで、小さく身じろぎした。隣に座る瑛の体が強張るのが伝わってくる。

「……もう飽きたしいいか」

 瑛はプレイヤーのリモコンを手に取ると、再生を止めた。

「このタイミングで恥ずかしくなったんですか?」

 今までが平気で、本番を恥ずかしがる瑛の感性がよくわからない。

「いや……恥ずかしいっていうか……お前に見られるのが、なんか嫌だ……」

 えっ、と横を向くと、口元を片手で覆って俯く瑛と目が合った。困ったような弱りきった目をした瑛に、瞳の方が困惑する。

「俺、これ一万回くらい観てますけど」
「は? キモ……まあ、一人で観るのは好きにすれば」
「佐久間さんが一緒に観ようって言ったんじゃないですか」
「……お前は嫌じゃないの?」

 ビデオの中のエイジを好きになった時点で、嫌も何もない。

「えっと……俺としては、佐久間さんと知り合ってからこれを観ると、好きな人の昔のハメ撮りを偶然見ちゃったとか、憧れの人が出てるAVを偶然見つけちゃったみたいな気分になって、その……めちゃくちゃ燃えます」

 長年見続けてきたビデオの新たな楽しみ方である。
 瑛は蔑むような目で瞳を見ると、呆れた声で
「本当に最低だな」
と言った。

「まあでも、責任取るって言ったし」

 瑛はそう言うと、ソファから降りて瞳の足元に跪いた。瞳が止める間もなく、瑛の指がズボンのジッパーを引き下ろす。
 窮屈そうに収まっていた瞳のものが、勢いよく現れる。下着にはシミが浮かび上がっていた。

「腰あげて」

 硬直して動けない瞳に構わず、瑛がボクサーパンツをずらすと、腹に付くくらい勃ち上がった陰茎が揺れた。どぎまぎしながら見つめていた瞳は、瑛の顔がそれに近づくのに、ハッと我に返った。

「エッ……は……? は!?!?!? な、何するつもりですか……!?」
「何ってフェラーー」

 瞳は、うわ~~~~~~~~~~!!!!! と奇声をあげて、瑛の顔を引き剥がす。

「ちょっ……! 何考えてるんですか!!」
「何って……嫌だった?」
「はあッ!? 嫌っていうか、だってーー」

 瑛はおろおろと慌てる瞳を無視して、先端に唇をつける。

「……うわぁ」

 押し殺した声で狼狽える瞳は、やっぱりちょっと待ってください、と腰を引いた。

「あの、佐久間さんはいいんですか?」
「嫌ならしないだろ」
「……本当にいいんですか……え、それなら、ちょっと抜いてきていいですか? 俺、絶対すぐ出ちゃうと思うんで!」
「今から抜くのに?」
「はい! あっ、でも早くイクほうが佐久間さんの負担にならないですよね! え、えっと、俺はどうしたら……」

 中腰になった瞳の股間に、瑛が顔を埋めた。生暖かい口内の感触に、ウッと声を上げる。
 頬を窄めて喉の奥まで飲み込んだ瑛は、ゆっくりと頭を引いて、一度口を離した。

「下手でも文句言うなよ」
「文句なんてそんな……」

 言うわけない、というかその前に絶命しそうだった。
 単調で歯が当たる下手くそな口淫だったけれど、時々目が合う瑛の表情が卑猥すぎて、瞳はあっさりと上り詰める。

「佐久間さん、エッチ過ぎます……♡あっ……♡んんん…っ、ふぁ、あ゛あっ♡やぁ、あ゛っ♡♡お゛っ……イ゛ッッ……!!♡♡♡」

 口に出すわけにはいかないので、射精の瞬間に瑛の顔を引き剥がす。行き場をなくした精液が、パシッと音を立てて床に飛び散った。
 ソファからずり落ちそうになりながら、虚ろな視線を向けると、瞳の太腿に頬をのせて見上げる瑛と目が合った。その照れたような表情に、胸を撃ち抜かれる。

「……佐久間さん、フェラNGなのかと思ってました。ビデオの中でもやってないし」
「え? フェラしたけど」

 瑛は、マジかよ、とため息を吐いた。

「嫌そうな表情がダメだって散々言われたから、カットしやがったのかもな。あんなに頑張ったのに。でもまあ……」

 瑛は、ふっと笑って瞳を見つめた。

「瞳にはエッチに見えたなら、それでいいか」
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