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セックス

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 薄暗い部屋の中で、瑛を見下ろす瞳が吐きそうな顔をしている。

「ちょっと休めば?」

 そう声をかけると、瞳は素直に瑛の上から体を退けて、隣に横たわった。
 シングルサイズのベッドは、大柄の男二人には窮屈だ。瞳はなるべく瑛と接触しないよう気を遣っているのか、ベッドの縁ギリギリのところで体を縮こませていた。
 瑛がわざと腕を当てると、ビクッと体を揺らす。

「佐久間さん」

 瞳は静かな声で呼びかけた。

「俺、考えたんです。佐久間さんって、セ……その……性的なことにあんまり興味ないじゃないですか。それなのに、何で俺とこういうことしてくれるのかなって。なんらかの請求がくることを覚悟してたけど、それもないし……。でも、相手をしてくれるってことは、他の誰より俺にアドバンテージがあるってことですよね。だから、俺とこういうことしてくれている間に、佐久間さんをお、俺なしじゃいられない体にすればいいんじゃないかって……」

 また何か言ってる……
 瞳の言っていることの九割は意味がわからなかったが、
「それ言ってて恥ずかしくないの?」
と、冷静に指摘した。

「は、恥ずかしいです……」

 瞳は消え入りそうな声で言うと、両手で顔を覆った。

「……とにかく、俺は佐久間さんをぐちゃぐちゃの快楽地獄に堕とさないといけないんです」
「?? うん」
「そう思うと、緊張で吐きそうで……失敗したら、もう二度と佐久間さんと会えないかもしれないし」
「仕事で会うだろ」

 瞳がこちらを向く気配に、瑛も顔を横に向けた。張り詰めた表情の瞳と目が合う。

「それで、ものすごく図々しいお願いなんですけど、佐久間さんから、俺とその……したいっていうか、してもいいよ的なことを言ってもらえませんか」
「何が『それで』なんだよ」

 瞳は起き上がってベッドの上で正座をした。仕方なく瑛も体を起こす。

「これから俺は、佐久間さんをセックス依存症にしないといけないんですけど、さすがに同意なしでやるのはだめかなって……」

 セックス依存症という前提が間違っているとは考えないのか。
 瑛は内心呆れながら、瞳を見つめた。

「……瞳とセックスしたい」

 若干投げやりな言い方になってしまったが、瞳は、はゎ……と、ベッドに突っ伏した。

「すみません、ちょっと抜いてきます……」

 部屋を出て行こうとする瞳の腕を掴む。

「今からセックスするんだろ」

 瞳は、うぅ……と口ごもりながら、瑛のそばに戻った。

「瞳に抱かれたいと思ってるよ」

 口に出すのは死ぬほど嫌だったが、はっきり言われたことで瞳も覚悟を決めたのか、真剣な顔で瑛を抱き寄せた。ぎゅっと抱きしめられると、うずうずするような甘い感覚が体の奥から込み上げてくる。
 唇を食むように重ね、時折舌でくすぐられる。激しくはないが、もどかしい快感でじわじわと満たされる。

「あっ! それとですね!!」
「…………」

 瞳は唐突に体を離して、瑛の顔を覗き込んだ。

「佐久間さんを責めてるとか、そういうわけじゃないので誤解しないで欲しいんですけど、反応がないと、俺のやり方間違ってんのかな~とか不安になっちゃうんで、できれば間違ってないというか、続けて問題ないってわかる合図をしてもらえると助かるんですけど……」

 相手な反応がなかったら虚しいというのはわかる。
 瑛は、じゃあこうする、と瞳の頭を撫でた。

「俺は反応薄いから、お前はやっててもあんまり楽しくないかもしれないけど、何も感じてないってわけじゃないから」

 瞳は驚いた表情のまま、ポロッと涙を溢した。

「え、ちょ……何?」
「……それって、佐久間さんがよしよしセックスしてくれるってことですか」
「もうそれでいいよ」

 面倒くさくなった瑛は、瞳の首に腕を回してキスを再開した。はゎ……と慌てた瞳も、戸惑いながら舌を絡ませる。
 甘やかされてよしよしされているのは瑛の方なのでは? と思いながら、口腔を優しく愛撫される感覚に、髪を梳くように瞳の頭を撫でた。
 唇で頬や耳を啄みながら、瞳が瑛の服を脱がせていく。上半身が裸になると、瞳は瑛をベッドに横たえて、腕を上げさせた。剥き出しになった脇に顔を埋めて、窪みを舐める。

「ビデオの三十四分あたりで、短髪の方のタチが佐久間さんの脇を舐めるじゃないですか」

『じゃないですか』と訊かれても知るか。覚えていないし、さっき観たところまでにそのシーンはなかった。

「俺、同担拒否とかないんですけど、なんかあれはずるいっていうか、許せなくて。あの人、絶対佐久間さんのこと好きだと思うんですよ」
「いや、そういう演出だろ。好きとかないから」

 脇に顔を埋められて、なんとなく恥ずかしいのと、くすぐったさに体を捩る。困惑して視線を向けると、こちらを見つめる瞳と目が合った。
 悲しいような、拗ねたような顔の瞳を宥めるように、もう一方の手で頭を撫でた。気の済むまで好きにしてくれ。
 ひとしきり脇を舐めて落ち着いたのか、唇が胸に移る。
 瞳は乳暈を覆うように口に含むと、ねっとりと舐めしゃぶった。自分の意思とは関係なく、乳首が硬く勃ち上がる。
 瞳はそれを前歯で挟むと、ゆっくりと力を込めた。わずかな痛みとともに、ぞくぞくした快感が漣のように体全体に広がっていく。瞳の頭を撫でる手が止まり、ぎゅっと髪の毛を掴んでしまう。

 胸を舐めながら、瞳の手が下へと降りた。
 緩く勃ちあがった陰茎の形を確かめるように、下着の上から撫でられる。腰が揺れたが、手はすぐにそこを通り過ぎて、下着を脱がした。
 裸にされて、脚を大きく広げられる。瞳は膝立ちになると、瑛の顔と股間を交互に見つめながら、自分の服を脱いだ。腕をクロスしてシャツを脱ぐ仕草に、目が釘付けになる。あっさりと下着まで脱ぎ去った瞳のものは、完勃ちしていた。

 瞳は瑛の上に覆い被さって、唇を重ねた。緩く開いた互いの口を、舌が出入りする。潤滑剤を絡めた瞳の手がゆっくりと脚の間へと向かい、その中心を撫でる。
 瑛の手はそわそわと、瞳の頭から首へと往復する。

「入れてもいいですか?」

 瑛が小さく頷くと、瞳の指がゆっくりと体の中に入ってくる。

「……ん?」

 瞳が体を離して、瑛の顔を覗き込む。瑛は思わず顔を背けた。

「え……あの、なんか……」

 戸惑う瞳から目を逸らしながら、瑛が口を開く。
「……自分で少しだけ拡げたから」

 えっ……と絶句したまま固まってしまった瞳へ、おそるおそる視線を向ける。

「……この前の手マンで、ケツイキにハマっちゃったとかですか?」

 なんでだよ。

「そのままじゃ入らないって、お前が言うからだろ」
「え……俺としたいって思ってたってことですか? 佐久間さんが? 俺のちんちんハメるのを想像しながら拡張したってことですか??」

 なんでわざわざ丁寧に説明するんだよ。

「やばい、めちゃくちゃ興奮する……」

 瞳の陰茎がぴくぴくと揺れて、先走りを漏らしていた。瑛はそれに手を伸ばして、ゆっくりと何度か扱いてから、後ろに押し当てた。

「入るか試して」

 瞳は緊張した顔で頷いてから、慌てて、
「あの、待って、ゴム……」
と腰を浮かせた。その腰に、瑛が脚を巻きつける。

「……今日は生でやって欲しい」
「へっ!?!?!?」

 お互いの腰が、擦り合わすように無意識に揺れている。ぬぷぬぷと浅く突き上げる陰茎を誘うように、後ろが蠢いた。
 ビデオの中でやったプレイは、全て合意だ。後悔もしていない。でも、そこでやったことは全部、瞳に上書きして欲しい。

「えっと、でもそれは……」
「今日だけでいいから」

 瞳は、目をぎゅっと瞑ってうーんと考え込んでいたが、最終的には、わかりました、と言った。

「あの、万が一佐久間さんと、セ……エッチなことする場合に備えて、性病検査は受けたので! 陰性証明あるのでちょっと待ってーー」
「後でいいから」

 瑛が体を引き寄せると、瞳は、ふぇ……と覆い被さった。

「あの……じゃあ挿れるんで、痛いとか苦しいとかあれば言ってください」

 キスをしながら、瞳の硬く反り上がったものが瑛の中に入ってくる。

「大丈夫ですか?」

 痛くはないが、圧迫感で息が乱れる。瞳は中が馴染むまでほとんど動かずに、キスや愛撫を繰り返した。

「全部入りました」

 瞳が瑛の手を取って、結合部分を触らせる。腰が密着して、みっちりと根元まで埋まっていた。

「苦しくないですか?」

 ほとんど動けない瞳だって辛いはずだ。穏やかな表情を向ける瞳の頭をゆっくりと撫でる。

「平気だから動いて」

 瞳はぎゅっと瑛を抱き抱えると、ゆっくりと腰を動かした。

「佐久間さんの中、すごく熱くて気持ちいいです」

 奥をこじ開けるように、ぐぽぐぽと深いところで抜き差しする。

「う……そこ、奥、怖ーー」

 キスで口を塞がれ、本能で逃げようとする腰はがっちりと押さえ込まれる。

「痛くはないですよね? もう少し我慢して」
「お前、しつこいーー」

 文句を言おうとする口を何度も塞がれて、じたばたとつま先でシーツを掻きむしる。
 早く抜いてほしいのに、中は瞳のものに媚びるように絡みつく。気持ちとは裏腹に、もっと奥へとねだるように腰が揺れた。手は忙しなく瞳の髪をかき乱した。

「ここ、すごく吸い付いてくるんです。わかりますか?」

 瞳は一番奥にぐぽっと嵌め込むと、カリを引っ掛けるようにぬぷぬぷと擦る。
 腰が浮いて、全身が震える。中が瞳のものをぎゅっぎゅっと不規則に締め上げると、熱いものが奥に迸った。

「あっ……♡い゛ッッ……♡♡」

 同時に、瑛の陰茎からもどくっどくっと精液が溢れ出る。勢いよく飛び散ったそれは、瑛の顔にまでかかった。
 瞳は荒い息を吐きながら、汗だくの体で瑛の上に倒れ込んだ。

「すみません、重いですよね」

 すぐに起きあがろうとする瞳の背中に手を回して引き留めた。
 自分の精液がかかるなんて最悪だ。中も早く洗いたい。こいつ絶対たくさん出しやがった。
 すぐにシャワーを浴びたいと思いながら、重い体の汗でべたべたの背中をあやす。もう一方の手で頭を撫でると、これはよしよしセックスなのかもしれないと、少し思った。
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