脱いだら死ぬ「愛してる」と言ったら死ぬセックスしたら死ぬ

冲令子

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ラストサマー

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 暁生は耳を甘く噛むと、そのまま頬、唇へとキスを落とした。
 唇を重ねるだけのキスから徐々に、舌を絡ませ合う深い口づけに変わる。

「だ……だめだ…………」

 キスの合間にそう呟くと、俺は暁生の手を掴んだ。

「……脱ぐのはだめだ」

 シャツを脱がせようとしていた暁生は、わかったよ、とあっさり引き下がると、その手を服の下に潜り込ませた。
 シャツの中で暁生の指が乳首を撫でる。
 手つきは優しいが、また乳暈の中に埋もれてしまったそれを押し出そうとする意思を感じる動きだった。

 暁生の乳首に対する執着心を気持ち悪いと思うものの、慣れていない刺激は下半身と連動するように性欲を高めていく。
 暁生はシャツの中に潜り込むと、スリットのようになった陥没孔に舌先を差し入れ、勃ち上がり始めた突起を舐った。
 普段は柔らかく潜んでいる乳首が、暁生の口の中で硬くなっていく。ピンと勃ったそれを噛まれて、痛いし恥ずかしいのに、もっととねだるように胸を反らしてしまう。

「あんまり弄ると陥没が治っちゃうから、これくらいにしようか」
「エッ!?」

 あっさりと唇を離した暁生へ、思わず非難がましい声を上げてしまう。

「……俺は、治したいんだよ…………」

 シャツの中から抜け出した暁生は、そう呟く俺をまじまじと見つめた。

「そう? 隠れてるの、かわいいのに」

 暁生の指が、まだ濡れて硬いままの乳首をキュッと摘む。

「じゃあ、もっと弄ってもいいってこと?」

 キスをしながら訊かれて、小さく頷く。
 陥没乳首が嫌なのは事実だけど、本当は暁生の熱が離れていってしまったことの方が嫌だった。
 それに、暁生が『かわいい』と言ってくれるだけで、コンプレックスが薄れる気がした。

 暁生は乳首を弄りながら、もう一方の手を下へと這わせた。パンツの上から形を確認するように撫でられたそこはもう、完全に勃起していた。
 俺が同じように水着へ手を押し当てると、暁生の腰がぴくんと揺れた。

「触ってくれるのか?」

 俺がそこに触れたのは性的な意味合いというよりはむしろ、確認のつもりだったのだが、暁生の言葉に促されるように、水着の中に手を差し入れた。
 熱くて硬いそれをおずおずと握る。
 たどたどしい手つきなのに、暁生はブルッと体を震わせると、やば……と声を漏らした。
 俺が勃起したのは性的な刺激のせいなのに、暁生は自分が触れられてなくても、俺に触るだけでこんなふうになるんだなと思うと、それだけでどきどきした。
 暁生は俺を床にそっと押し倒すと、性器を掴んでいた手をやんわりと払った。

「瑞希に触られると、すぐにイキそうになる」
「……イッてもいいのに」
「やだよ。長く楽しみたいだろ」

 背中痛くないか、と聞きながらいつの間にか、暁生は器用に俺のパンツを下着ごと脱がした。

「下を脱ぐのはいいのか?」

 暁生に訊かれて、俺は躊躇いながら頷いた。
 スラッシャー映画では、おっぱいを見せた女は死ぬ。下半身は──映画でモロに映ることはほとんどないが、そもそもセックスしたら死ぬのだから、脱ぐのも駄目だろう。
 だけど、ここまできて暁生を拒む余裕は、俺にはなかった。
 暁生は俺の太腿を掴むと、躊躇なく後ろに唇を落とした。

「エッ!? ちょっ……!!」

 俺は暁生の頭を押し退けると、慌てて上半身を起こした。
 今日は一日中走り回って、汗もかいたし汚れている。そんなところをいきなり舐めまわされたくない。

「瑞希はクンニしないのか? 嫌われるぞ」

 真っ赤になって脚を閉じた俺へ、暁生が揶揄うように言う。カッと頭に血が上るが、恥ずかしさよりも怒りの方が大きかった。

「……そういうこと言われるの、嫌だ」

 暁生はハッと息を呑むと、ごめんと呟いた。

「悪い。無神経だし、マナー違反だよな……。言い訳になるけど、予防線張りたかったんだと思う」

 暁生はそう言って、視線を下げた。

「今はこうやって俺のことを受け入れてくれてるけど、瑞希はノンケだから……やっぱり無理って思われた時に傷つかないようにして、逆に瑞希のことを傷つけた。ごめん」

 暁生とこんな関係になることに、違和感がないわけじゃない。友達だった頃に戻りたいかと訊かれれば、そうなのかもしれないと思う。
 自分より大きな体に覆い被さられるのは普通にビビるし、本当にセックスできるのか不安になる。

「……今日、暁生がいなかったら俺、とっくに死んでたと思う」

 ぽつりと溢すと、下を向いていた暁生が顔を上げた。

「暁生が俺を試すようなことを言うのは、俺がフラフラしてるからだよな。俺の気持ちが暁生と同じようなものなのかは、正直俺もわかんないよ……。でも、暁生が俺のことを助けてくれたみたいに、俺も暁生のことを助けたいし、暁生に何かあったらどうしようってすごく不安になるよ。それってさ……」

 告白は最大の死亡フラグだ。

「それってもう、好きってことだろ」

 告白したら死ぬ。
 それがルールだけど、言わずにはいられなかった。
 目を見つめて告げた俺に、暁生がぎゅーっと抱きついてもう一度床に押し倒される。
 硬くて大きい体にのし掛かられるのはやっぱりちょっと怖いけど、好きだと自覚してしまうと、触れた場所から発熱するようだった。
 暁生の手が腰から下を撫で回す。
 ちんこには直接触らず、玉や会陰を弄られて腰が揺れた。

「瑞希は汁多いんだな。ローションなくて心配だったけど、こんなに濡れるなら要らないな」

 暁生の指が穴の周りでくりくりと円を描く。その度に、くちゅくちゅと濡れた音が響いた。

「普段はこんなんじゃないもん……」

 普段はこんなに先走りを漏らさないし、かわいこぶった言い方もしない。
 暁生は指先をぬかるんだ穴に押し当てた。優しく擦られるだけの刺激は痛みもなく、むしろ物足りなさで穴がひくひくと蠢いた。

 俺の呼吸に合わせて、暁生が指先に力を込める。きつく閉じていたはずのそこに、骨ばった長い指が入ってきた。痛みはなかった。
 むしろ、つぷつぷと抜き差しされるごとに、切ないような、物足りないような気持ちになった。

「腰揺れてるな……気持ちいいのか?」

 そう言いながら、暁生は挿入する指を増やした。穴が広がる感覚に一瞬体が強張るが、二本の指で中の膨らみを挟むように愛撫されて、それどころじゃなくなった。

「気持ちいい……♡暁生に指挿れられて、ケツ気持ちいい……♡♡」

 わざと下品な言葉を使うと、暁生が露骨に動揺するのがわかった。耳元でチッと小さく舌打ちが聞こえる。

「クソッ、これで挿入できないなんて……」

 暁生は多分、セックスが上手い。
 下手よりは断然いいけど、それっていろんな経験があるってことだ。過去に嫉妬してもどうしようもないけど、俺がモヤモヤしているのと同じように、暁生もちょっとは困ればいいと思った。

「……瑞希の中も、熱くて、とろとろで、柔らかいのにキュッて抱きついてきて、奥に誘うように吸いついてきて、めちゃくちゃ気持ちいい」

 暁生の言葉に、中がギューっと締まった。指の形がわかるくらいに締め付けてしまって、暁生が『動かせないだろ』と揶揄うように囁いた。

 暁生は穿いていた水着をずらすと、腹につくくらい勃ち上がった陰茎を取り出した。正常位のように俺の上に覆い被さり、それを腹の上に置く。
 陰茎どうしが触れ合って、その熱でさらにどろりと先走りが溢れた。

「この辺りが結腸だから……」

 暁生の指が下腹部を撫でる。

「これハメたら、ぶち抜いちゃうな」

 臍を越えるほどの暁生のサイズが体の中に入ってくるのかと思うと、怖いのに腹の奥が疼いた。同時にまた先走りが漏れて、暁生に笑われる。

「想像して興奮したのか?」

 暁生は二本分の陰茎を纏めて握り込むと、まるで挿入したときのように腰を振った。
 俺の上で荒い息を吐く暁生に、本当に犯されている気分になる。ちんこへの刺激は強烈で、すぐにでもいきそうになった俺は、思わず暁生の腕を掴んで動きを止めた。

「後ろ……淋しい……」
 
 暁生は困ったような目で俺を見下ろした。
 恥ずかしくて目を逸らしながら、俺の先走りで濡れた暁生のものに触れると、そのまま腰の位置をずらして後ろに押し当てる。
 頭の上で、暁生がごくんと唾を飲み込む音が聞こえた。

「挿れたら駄目なんだろう」

 もちろん駄目だ。セックスしたら死ぬ。
 でも、このままだって生き残る保証はない。
 なにより、俺のアホみたいな言い分に律儀に付き合って、我慢してくれる暁生のことがいじらしくて、なんでもしてやりたい気分だった。

 腰を揺らすと、ぬるぬるした先端がぐっぽりと嵌まる。

「……例外もある」

 脚を暁生の腰に巻きつけて引き寄せる。
 圧迫感に息が止まりそうになるが、暁生は
勢いのまま腰を打ちつけた。

「あっ♡待って♡、激し……ッ♡♡!」

 結合部分からじゅぼじゅぼと濡れた音がするのと同時に、グシャッという音が頭の上で聞こえた。

「クソッ、邪魔しやがって……まじで出てきやがった」

 ぎゅっと閉じていた目を開けると、俺に覆い被さっていたはずの暁生が、血まみれの体を起こしていた。
 何が起こったのかわからず、声も出せずにいると、暁生は手に持っていた金槌をポイっと放った。ゴトンと鈍い音を立てて床に落ちた金槌のそばには、頭から血を流す男が倒れていた。

「瑞希の言う通りだったな。これで邪魔者はいなくなったってわけだ」

 真夏なのにぼろぼろのロングコートを羽織った男の死体と、返り血が飛び散った暁生を交互に見る。

「どうした? なんだ……酷いじゃないか」

 暁生の視線につられて自分の下腹部に目をやる。血だと思っていた生暖かい液体は、どろっとした白濁だった。

「俺はまだなのに、一人で先にイクなんて……」

 暁生はそう言って、再び腰を動かし出した。

「あっ……♡や……っ♡あ゛あっ♡♡や゛ッ、待ッ……ふか、あ゛ぁッ♡深いィッ♡♡ま゛ッて゛え゛ッ」

 血の飛び散った体で抱きしめられて、鼻の奥が鉄の匂いでいっぱいになる。もういいよな、と服を脱がされて、ぬるぬるした手で体を弄られると、ちんこの先からプシュプシュと潮が吹き出した。

「瑞希、締め過ぎ……ちょっとイクの我慢して」

 困ったような、嬉しそうな声で暁生が囁いた。痙攣が止まらず何度も跳ねる体を、好き勝手に突かれる。
 とろとろに溶けた頭は、その一瞬だけなぜか冷静だった。

 俺は床に手を伸ばすと、乱雑に転がっていた電動ドライバーを掴む。上体を起こし、その勢いのまま、暁生の頭上目がけてドライバーの先端を突き刺した。
 いつの間にか暁生の背後にまわっていた男は断末魔の叫びを上げると、額に電動ドライバーをめり込ませたまま、大の字に倒れた。

 男を一瞥した後、暁生は俺に微笑みかけた。

「場所変えよう」






「じゃあ、また連絡する」

 暁生の声に名残惜しさを感じながらも、俺は通話終了のボタンをタップした。

 犯人は、かつてあのキャンプ場で働いていた過去があったらしい。
 閉鎖による失業で家庭が崩壊し、その日暮らしのような生活をしていたが、キャンプ場が再オープンすると聞いて、雇ってくれないかと、しつこく工事現場を訪れていたそうだ。
 動機は、それを断られたことに対する逆恨みではないか、との報道だった。

 事件のあと、暁生の正当防衛は認められて不起訴処分となったものの、一時は勾留された。
 しかも顔写真が流出したせいで、暁生は「命懸けで殺人鬼から友人を守ったイケメン』として、マスコミに追われる身となってしまった。

 暁生の実家は老舗の菓子メーカーらしく、物騒な事件との関わりはイメージダウンになりかねない。
 ほとぼりが冷めるまで、暁生は自宅待機を命じられたそうだ。

 俺はといえば……特に何もなかった。
 俺があの事件に関係することを知るのは、ごく一部の人だけだった。
 殺人鬼にとどめを刺したのは俺だが、『瑞希が巻き込まれる必要はない』と、暁生がその罪を被ってくれたからだ。

 バイト先は当然ながら閉店となってしまい、俺と暁生を繋ぐものは何もなくなってしまった。
 毎日連絡はくれるものの、これからどうなるのか不安はあった。暁生に全てを背負わせてしまった罪悪感もある。
 知らず知らずのうちにため息をついた俺は、スマホの画面に表示されたプッシュ通知を見て、サーっと血の気が引くのを感じた。

『この夏、お前が何をしたか知っているぞ』

 スラッシャー映画に続編はつきものだ。
 このメッセージで、俺と暁生の物語が続くことは保証された。
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