一番美しい星

冲令子

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秘密じゃないが言いたくない

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允耀いんよう皇子殿下が病気療養中につき、お前との面会を希望されているとのことだ」

 そう告げられた藤千代は、困惑した目つきで巡察師長を見た。

「わたしは医者じゃないですよ」
「静養中のお慰めとして琶国の本をお読みになりたいそうで、お前に翻訳して欲しいとの仰せだ」

 藤千代は、はあ……と気の抜けた溜め息混じりの返事をした。

 ──どうせ春画じゃろ

 翻訳なんか必要あるか? そもそも、この前までピンピンしていたのに、病気というのも怪しい……とは思うものの、宣教師団は布教活動の後ろ盾として、なんとしてでも允耀皇子を取り込みたいと考えている。
 あんなことをされた後でまた会うのは気が重いが、宣教師団に恩のある藤千代が協力しないわけにもいかない。第一、皇子殿下直々の依頼を断れるはずもなかった。

 皇宮に着くと、謁見用の部屋ではなく奥へと案内される。
 部屋に入る前に衣服を全て脱がされて持ち物をあらためられ、別の装束に着替えさせられた。中へ通される頃には、藤千代はぐったりと生気のない顔つきになっていた。

 允耀皇子は寝台の上であぐらをかき、膝の上に頬杖をついて書物を読んでいた。
 背中まである髪が垂れ下がって、俯いた顔を覆っている。皇子の垂髪を見るのは、もちろん初めてだ。
 見てはならないものを目にしてしまったように視線を彷徨わせていた藤千代だが、皇子が顔を上げるとギョッと目を剥いた。
 頬が僅かに腫れて、黄色っぽい痣が残っている。おそらく、数日前は腫れも鬱血ももっと酷かったに違いない。
 どう見ても殴られた跡としか思えないが、皇子を殴るような狂人が果たしているだろうか……。

「誰がそんなことを……」

 思わず呟いた藤千代を、允耀皇子が鼻で笑う。

「お前のところのクソガキだよ」
「…………」

 藤千代は額に手を当てて項垂れた。
 リュカに向こう見ずなところがあるのはわかっていたものの、ここまで常軌を逸しているとは思わなかった。

「自分で転んだということになっているから安心しろ。わたしも大事にはしたくない」

 安心できる要素は全くないが、藤千代は目を伏せて頭を下げた。

「とはいえ、咎めなしというわけにもいくまい」

 藤千代は頭を下げたまま、ギクッと肩を揺らす。その一喜一憂する様を面白がるように眺めながら、允耀皇子は藤千代を手招きした。

「そこで、貴様に代わりに詫びてもらおうというわけだ。クソガキ自身が罰を受けるより、自分のせいで他人が代償を払う方が、奴も反省するだろう?」

 そばに侍った藤千代の腕を、允耀皇子が掴む。

「もちろん、貴様は拒否してもいい。肩代わりする義理はないからな」

 そう言われても、藤千代は允耀皇子の腕を跳ね除けようとしなかった。引き寄せられるまま、寝台の上に横たわる。覆い被さる皇子の見定めるようなまなざしを、仰向けになってジッと見返した。

「なんだ、貴様、掘られたことがあるのか?」

 允耀皇子が興醒めした目で見下ろした。

「いえ。経験はございませんが、その心得は持ち合わせております」

 允耀皇子は藤千代を見下ろしたまま、寝衣の裾に手を差し込んだ。太腿を割り広げて、点検作業のようにその奥を確認する。
 そこは、部屋に入る前に近侍によって清められていた。
 冷たい指先を何の遠慮もなく突き入れられて、藤千代は思わず体をこわばらせた。
 顔色には出さずとも身を竦ませた藤千代に、允耀皇子は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「男に抱かれることを受け入れてはいても、ちゃんと嫌悪はあるのだな」

 雑だった手つきが、ねっとりと熱を持ったものに変わる。
 允耀皇子はいかにも高級そうな香油を、陰部目がけてドバッとぶち撒けた。若葉のような清新な香を淡く炊いた室内が、むせかえるほどの甘い匂いに塗り潰される。
 允耀皇子は藤千代の中を慎重に探りながら、もう一方の手で寝衣の胸元をはだけさせた。

「……殿下が男色を好まれるとは、少々驚きました」

 藤千代は前回の謁見の際、允耀皇子に口淫されたが、あれは単なる嫌がらせだと思っていた。
 甚振いたぶるためだけにあんなことをするとは正気の沙汰とは思えないものの、允耀皇子が本心から男相手に欲情しているとは、とても思えなかったのだ。
 浅い呼吸で上下する藤千代の胸板は厚く、腹は筋肉が割れている。見るからに健康で頑丈な、逞しい男の体だった。

「確かに、ただまぐわうだけなら、女の方が良い。柔らかくて胸もあるからな。しかし、男には男の楽しみ方がある」

 鼻先が触れ合うほどに允耀皇子の顔が近づく。藤千代は体の隅から隅まで暴かれるような居心地の悪さを覚えながらも、目は逸らさなかった。
 允耀皇子は香油で濡れた指を、藤千代の肌に這わせた。

「貴様は男としての自信があるだろう? 体格もいいし、度胸もある。おそらく腕っぷしも強い。貴様とやり合っても、わたしは勝てないだろう。そんな肉体的に劣るような男に、貴様は犯されるんだ」

 允耀皇子が耳元で囁き、生温かい息が頬にかかる。

「貴様はこの程度のことなんて、大したことではないと思おうとしている。でも、大したことあるんだよ。殺したいほど嫌悪する男に卑猥な目で見られて、屈服させられて、快感を与えられる惨めさを味わうんだ」

 允耀皇子の指が体の中で蠢き、徐々に体温が上がっていくのを感じる。
 下半身に溜まる疼きとは裏腹に、確かにそれは殺したくなるほど不快な感覚だった。
 それでも藤千代は皇子を見つめ返し、冷静な声を放った。

「残念ながら、私はそんな風には思いません」

 允耀皇子は不機嫌そうに眉を顰めた。

「どうしてそう言い切れる」

 藤千代は体を好き勝手に弄られながらも嫌悪の情は出さず、允耀皇子を見つめたまま口を開く。

「私は琶国で小姓というものをしておりました」
「コショウ?」
「はい。こちらで言う近侍のようなものですが、大きく違うのは、小姓には愛人のような役目もあるということです」

 允耀皇子の動きが一瞬止まる。

「しかし、貴様は掘られたことはないのだろう?」

 藤千代は、皇子にあるまじき下品な言葉遣いに辟易しつつ、話を続けた。

「はい……少し長くなりますが、それについてお話しいたしましょう」
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