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一章 信頼できるパートナー
信頼できるパートナー 4
ぼくは、死にたくないから世界を平和にしたいんだ。そのために勇者に会いに行く。
だけど勇者はとある理由で、魔王を倒せる唯一の人物だった。
つまり、ぼくの天敵なのだ。
少し、怖い。
「でも、まだ大丈夫。むしろ、接触するタイミングは今がベストのはずだ」
ぼくは薄い下唇をはむ。鋭い犬歯が柔らかい唇に軽く食い込んだ。
せっかく身体は世界最強なのに、心が弱くてどうする。
ぼくは恐怖心を追い払った。
「昼間は、勇者は訓練中だろうな」
彼は王国の騎士でもある。
ぼくは夜を待ち、角や尻尾を消して人間に化けた。もし誰かに目撃されても、魔王だと気づかれないためだ。
そして、ブルーシア城にあるヴィンセントの部屋に、一気に瞬間移動する。
瞬間移動は魔王にしかできないユニーク魔法なのだけど、これだけでチート級の能力だと思う。
ちなみに、魔王が暴走してからは瞬間移動の能力を人に知られてしまうため、魔力無効の障壁を張られて、魔法の力ではブルーシア城に近づけなくなる。
そういう意味でも、人が魔王対策をしていない今の段階は、なにかと都合がよかった。
「ここだな」
見覚えのある部屋に到着した。間違いなく勇者の部屋だ。
部屋は真っ暗だけど、魔王の目は暗視もできる。便利だ。
留守なのかとゆっくり歩きながら部屋を見回していると、ベッドに膨らみがあった。セミダブルのベッドは成人男性には充分な広さだけど、魔王のベッドを見た後では小さく感じた。
「寝てる」
それほど遅い時間に来たわけではないのだけれど。訓練で疲れたのかもしれない。
ぼくはそっと近づいて、勇者の顔を覗き込んだ。
柔らかそうな紅茶色の髪が枕に沈んでいる。透明感のあるブルーの瞳は、今ははっきりとした二重のまぶたに隠されていた。通った鼻筋の下には、程よく厚みのある唇が少し開いている。
さすがに、ヴィンセントもカッコいいな。
画面越しに見ていた端正な顔がこうして目の前にあると、なんだか不思議な気分になる。
「気持ちよさそうに寝ているところ申し訳ないけど、起きてもらわなきゃ」
ぼくはヴィンセントの肩をゆすった。
「ヴィンセント、起きろ」
何度かゆすると、ヴィンセントの身体はハッとしたように固くなり、飛び起きるなり枕元に置いてあった剣が閃いた。鋭い剣捌きだけど、魔王の目を通せば、まるでスローモーションのように剣の軌道が見える。
「何者だ!」
そう叫ぶヴィンセントの剣をヒラリとよけて、ぼくはクスリと笑う。
「赤子のように無防備な寝顔を晒しておいて、そう粋がるな。それに、そんななまくらな剣では虫も殺せまい」
ヴィンセントの顔がパッと赤くなった。
ぼくは発言してから、おおっ、と自分の言葉に感心した。
何百年も魔王をしているだけあって、流れるような揶揄だった。
前世の記憶は戻ったけれど、ぼくには魔王として生きてきた記憶だってあるのだ。
「貴様……」
ヴィンセントは両手で剣を構え直す。目を細めているのは、暗くてぼくのことがよく見えないからだろう。
……って、勇者を怒らせてどうする。
だけど勇者はとある理由で、魔王を倒せる唯一の人物だった。
つまり、ぼくの天敵なのだ。
少し、怖い。
「でも、まだ大丈夫。むしろ、接触するタイミングは今がベストのはずだ」
ぼくは薄い下唇をはむ。鋭い犬歯が柔らかい唇に軽く食い込んだ。
せっかく身体は世界最強なのに、心が弱くてどうする。
ぼくは恐怖心を追い払った。
「昼間は、勇者は訓練中だろうな」
彼は王国の騎士でもある。
ぼくは夜を待ち、角や尻尾を消して人間に化けた。もし誰かに目撃されても、魔王だと気づかれないためだ。
そして、ブルーシア城にあるヴィンセントの部屋に、一気に瞬間移動する。
瞬間移動は魔王にしかできないユニーク魔法なのだけど、これだけでチート級の能力だと思う。
ちなみに、魔王が暴走してからは瞬間移動の能力を人に知られてしまうため、魔力無効の障壁を張られて、魔法の力ではブルーシア城に近づけなくなる。
そういう意味でも、人が魔王対策をしていない今の段階は、なにかと都合がよかった。
「ここだな」
見覚えのある部屋に到着した。間違いなく勇者の部屋だ。
部屋は真っ暗だけど、魔王の目は暗視もできる。便利だ。
留守なのかとゆっくり歩きながら部屋を見回していると、ベッドに膨らみがあった。セミダブルのベッドは成人男性には充分な広さだけど、魔王のベッドを見た後では小さく感じた。
「寝てる」
それほど遅い時間に来たわけではないのだけれど。訓練で疲れたのかもしれない。
ぼくはそっと近づいて、勇者の顔を覗き込んだ。
柔らかそうな紅茶色の髪が枕に沈んでいる。透明感のあるブルーの瞳は、今ははっきりとした二重のまぶたに隠されていた。通った鼻筋の下には、程よく厚みのある唇が少し開いている。
さすがに、ヴィンセントもカッコいいな。
画面越しに見ていた端正な顔がこうして目の前にあると、なんだか不思議な気分になる。
「気持ちよさそうに寝ているところ申し訳ないけど、起きてもらわなきゃ」
ぼくはヴィンセントの肩をゆすった。
「ヴィンセント、起きろ」
何度かゆすると、ヴィンセントの身体はハッとしたように固くなり、飛び起きるなり枕元に置いてあった剣が閃いた。鋭い剣捌きだけど、魔王の目を通せば、まるでスローモーションのように剣の軌道が見える。
「何者だ!」
そう叫ぶヴィンセントの剣をヒラリとよけて、ぼくはクスリと笑う。
「赤子のように無防備な寝顔を晒しておいて、そう粋がるな。それに、そんななまくらな剣では虫も殺せまい」
ヴィンセントの顔がパッと赤くなった。
ぼくは発言してから、おおっ、と自分の言葉に感心した。
何百年も魔王をしているだけあって、流れるような揶揄だった。
前世の記憶は戻ったけれど、ぼくには魔王として生きてきた記憶だってあるのだ。
「貴様……」
ヴィンセントは両手で剣を構え直す。目を細めているのは、暗くてぼくのことがよく見えないからだろう。
……って、勇者を怒らせてどうする。
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