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二章 発情トラブル
発情トラブル 2
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「俺はぁ、世界で一番強いと思ってたのね。それなのにアーシェンに負けちゃったから、嬉しくてさ。早くアーシェンに勝って、この身体の血を一滴も残さず飲み干したいんだぁ。だから一緒にいるの」
エルネストにペロリと首筋を舐められて、背筋が冷えた。
ひえっ、怖い!
ぼくは無表情を貫きながら、内心、震えた。
記憶が戻る前のぼくは、こんなエルネストに少しも動じなかったのだから、さすが世界一の魔力の持ち主というか、肝が据わっているというか、弟以外のことに無関心すぎというか。
エルネストは吸血族だ。
見た目は二十代半ばくらいでぼくとあまり変わらないのだけど、魔族の中では若い方なので血気盛んなのだ。若いと言っても、長生きの魔族に生きた年数がどこまで関係するのか、よくわからないけれど。
「不快だ」
ヴィンセントはぼくの手を引っ張って、エルネストから引き離した。
「ちょっと、なにすんの?」
エルネストがムッとして眉を上げる。
「アーシェンはオレのパートナーだ。ベタベタしないでもらえないか」
「はあ? だったら俺は、アーシェンの執事ですけどぉ」
やめて、お気に入りのオモチャを取り上げられた子供みたいな言い合いをしないで。
本当に子供ならいいけれど、二人とも手練れなのでヒヤヒヤする。
「着いたぞ」
ぼくは手早くドアをノックした。「どうぞ」と硬質な声が聞こえた瞬間にドアを開ける。
「おやおや、これは魔王さま、こんなところにおいでとは珍しいですね」
四天王の四番目であるレザードが、白衣姿でにこやかにぼくたちを出迎える。常になにか企んでいそうな胡散臭い笑顔を見て、ほっとする日が来ようとは。
でも、これでやっと話の本題に入れそうだ。
彼も一筋縄ではいかない人物だけれど、理路整然とはしているので、おかしなかたちで精神力を削られることはない。
「相談がある。時間をもらえるか」
「ええ、いいですよ。先日提出した、研究費の割り増し案をのんでくださるのなら」
……うん、レザードは本当にわかりやすい。
ぼくは承諾し、四人で六人掛けのテーブルを囲んだ。ぼくの両隣がヴィンセントとエルネストで、正面にレザードが座っている。いびつな布陣だ。普通は二対二で向き合うだろうに。
ここはぼくの部屋と同じくらい広いのに、物が多すぎて狭く感じる。棚には書籍や、液体や粉が入ったビンがびっしりと詰め込まれていている。ビンのなかにはうごめいているものもあり、それがなんであるのかは確かめたくない。
いくつかある釜からは蒸気があがっていて、なんとも形容しがたい刺激臭があたりを漂っていた。
よくこの部屋にいられるな。
レザードは女性的で綺麗な相貌だ。目尻はやや下がり気味で睫毛が長く、アッシュブルーの瞳をしている。同色のショートの髪は軽くウェーブがかっていた。フレームレスの眼鏡や隙のないノリのきいた白衣、硬質な声から神経質そうな性分が垣間見える。
そこまではいいのだけど、人を小バカにしているような慇懃無礼な態度と研究オタクぶりで、変わり者揃いの魔族の中でも突出した存在になっていた。
「それで、相談というのはなんですか?」
軽く自己紹介をすませた後、レザードは手袋をはめた指先で眼鏡の位置を直しながらぼくに尋ねた。
エルネストにペロリと首筋を舐められて、背筋が冷えた。
ひえっ、怖い!
ぼくは無表情を貫きながら、内心、震えた。
記憶が戻る前のぼくは、こんなエルネストに少しも動じなかったのだから、さすが世界一の魔力の持ち主というか、肝が据わっているというか、弟以外のことに無関心すぎというか。
エルネストは吸血族だ。
見た目は二十代半ばくらいでぼくとあまり変わらないのだけど、魔族の中では若い方なので血気盛んなのだ。若いと言っても、長生きの魔族に生きた年数がどこまで関係するのか、よくわからないけれど。
「不快だ」
ヴィンセントはぼくの手を引っ張って、エルネストから引き離した。
「ちょっと、なにすんの?」
エルネストがムッとして眉を上げる。
「アーシェンはオレのパートナーだ。ベタベタしないでもらえないか」
「はあ? だったら俺は、アーシェンの執事ですけどぉ」
やめて、お気に入りのオモチャを取り上げられた子供みたいな言い合いをしないで。
本当に子供ならいいけれど、二人とも手練れなのでヒヤヒヤする。
「着いたぞ」
ぼくは手早くドアをノックした。「どうぞ」と硬質な声が聞こえた瞬間にドアを開ける。
「おやおや、これは魔王さま、こんなところにおいでとは珍しいですね」
四天王の四番目であるレザードが、白衣姿でにこやかにぼくたちを出迎える。常になにか企んでいそうな胡散臭い笑顔を見て、ほっとする日が来ようとは。
でも、これでやっと話の本題に入れそうだ。
彼も一筋縄ではいかない人物だけれど、理路整然とはしているので、おかしなかたちで精神力を削られることはない。
「相談がある。時間をもらえるか」
「ええ、いいですよ。先日提出した、研究費の割り増し案をのんでくださるのなら」
……うん、レザードは本当にわかりやすい。
ぼくは承諾し、四人で六人掛けのテーブルを囲んだ。ぼくの両隣がヴィンセントとエルネストで、正面にレザードが座っている。いびつな布陣だ。普通は二対二で向き合うだろうに。
ここはぼくの部屋と同じくらい広いのに、物が多すぎて狭く感じる。棚には書籍や、液体や粉が入ったビンがびっしりと詰め込まれていている。ビンのなかにはうごめいているものもあり、それがなんであるのかは確かめたくない。
いくつかある釜からは蒸気があがっていて、なんとも形容しがたい刺激臭があたりを漂っていた。
よくこの部屋にいられるな。
レザードは女性的で綺麗な相貌だ。目尻はやや下がり気味で睫毛が長く、アッシュブルーの瞳をしている。同色のショートの髪は軽くウェーブがかっていた。フレームレスの眼鏡や隙のないノリのきいた白衣、硬質な声から神経質そうな性分が垣間見える。
そこまではいいのだけど、人を小バカにしているような慇懃無礼な態度と研究オタクぶりで、変わり者揃いの魔族の中でも突出した存在になっていた。
「それで、相談というのはなんですか?」
軽く自己紹介をすませた後、レザードは手袋をはめた指先で眼鏡の位置を直しながらぼくに尋ねた。
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