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1 来たれ、名探偵部!
来たれ、名探偵部! 1
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おもむきのある古い洋館の広い部屋。
ずらりと並んでいる容疑者たちが、かたずをのんでわたしの一挙手一投足を見つめている。
わたしはおもむろに、人差し指を突き立てた。
「犯人は、あなたです!」
容疑者たちは「おおっ」とどよめいた。
ジリリリッ!
「ま、まいりました! すみませんでした!」
犯人はガックリとしゃがみこむ。
ジリリリリリリリリリリリリッ!
「ふふふ、一件落着。中学生探偵、井上マユカにかかれば、こんなものよ!」
わたしは虫メガネを持っている手で、シャーロックハットのつばを持ち上げて、くるりとふり返る。ケープを合わせたような丈の長いインバネスコートがひるがえった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!
「ああもう、うるさい! さっきからなによ!」
わたしがそう叫ぶと、ポンッと景色が変わった。
「ふええっ、宇宙⁉」
真っ暗ななか、三百六十度、上も下もすべてキラキラの星!
そこに、ものすごく長い、半透明の階段が上から下に伸びていた。わたしはその階段に立っている。
しかも、いつの間にか服装も変わっていた。
さっきまで、名探偵のシャーロック・ホームズみたいな服装だったのに、お姫様のようなふわっふわのドレスを着ていたの。肩まである黒髪も頭の上でまとめられていて、手で触るとティアラみたいな感触もある。
「マユカ姫」
階段の上には、王子さまが立っていた。紅茶色のサラサラの髪で、わたしと同い年くらいの男の子。
逆光で、顔はよく見えない。
「わたし、帰らなきゃ」
なぜかわからないけどそう思って、わたしは急いで階段をかけおりる。
「あっ」
すると、ガラスのくつが片方ぬげてしまった。
「いけない!」
取りに戻ると、王子さまに手をつかまれた。
「マユカ姫」
顔をあげると、整った顔が近くにあった。
二重のアーモンド形の茶色がかった瞳。長いまつ毛。白い肌に、リップをぬったみたいにピンクでうるおった唇。
女の子にも見えるくらい、きれいな男の子だった。
「この顔って……」
きれいな王子さまの顔がさらに近づいてきた。
そして――。
「いい加減に起きろよ、ばかマユカ!」
「きゃあっ!」
わたしはベッドから落とされた。
「痛い! ひどい!」
「ひどいのはどっちだよ。なんでおまえはいつも、目覚ましが鳴っても布団をはいでもたたいても起きないんだよ!」
さっきのきれいな王子さま……もとい、幼なじみの宅間隼人が、細い眉をつり上げて怒っていた。
「中学初日から遅刻したいのかよ」
「あっ、そうか!」
今日は、中学校の入学式だ。
そういえば、隼人は制服を着ている。グレーのブレザーに、ネイビーのタータンチェックのネクタイとスラックス。なかなか似合ってるじゃん。
「ったく、ご飯の準備してくるから、制服に着替えて降りて来いよ」
「うん、ありがとう!」
隼人がわたしの部屋から出て行った。
これで、もっと優しく起こしてくれたら、文句ないんだけどなあ。
隼人はとなりの家に住んでいて、毎日、わたしを起こしに来てくれる。
というのも、わたしはどうも朝が弱くて、目覚ましを三つ鳴らしても起きられないの。親が起こしてくれたらいいんだけど、パパもママも、仕事でだいたい家にいない。
冷蔵庫の中身が変わっていたり、テーブルにわたしへのおこづかいが置いてあったりするから、荷物を取りに来たり、眠りに帰ってきたりしているようなんだけど、ほとんど顔を合わせることがないんだ。
こういう生活が、小学校の中学年から続いているんだよ。学校行事にも全然来てくれないし、家族で旅行することもない。
こんなに娘を放置する親っている⁉
わたしじゃなかったら、グレてるね!
イイコに育ったわたしって、本当にエライ。
……ということで、パパとママは、実質一人暮らしみたいなわたしのめんどうを、となりの宅間家にお願いしているわけ。
うちの親と隼人の親はすっごく仲が良くて、小さなころは家族ぐるみでよく遊びに行ったんだ。
だから隼人とは、きょうだいみたいに育った。いっつも一緒。
隼人は同い年だけど、ずっとわたしの「妹分」だったんだよ。
隼人はわたしより小さくて、女の子みたいにかわいくて。「女男!」ってからかわれて泣かされるのを、わたしが守ってたんだ。
わたしたちは「マユちゃん」「ハヤちゃん」と呼び合っていた。
それなのに、五年生くらいのときに、そう呼ぶのはやめたいって隼人に言われて、「ちゃんづけ」がなくなった。
身長もそのくらいで追いつかれて、隼人は今ではわたしより十センチくらい背が高い。
態度もえらそうになっちゃったし、隼人が妹分じゃなくなっちゃって、ちょっとさみしい。
前までは、「マユちゃん、マユちゃん」ってわたしのうしろにくっついて、かわいかったのになあ。
でもこうやって、朝に弱いわたしのために毎日起こしてくれて、ご飯も準備してくれるから、本当に感謝してるんだ。
隼人はうちの合鍵を持ってるから、出入り自由なんだよ。
ずらりと並んでいる容疑者たちが、かたずをのんでわたしの一挙手一投足を見つめている。
わたしはおもむろに、人差し指を突き立てた。
「犯人は、あなたです!」
容疑者たちは「おおっ」とどよめいた。
ジリリリッ!
「ま、まいりました! すみませんでした!」
犯人はガックリとしゃがみこむ。
ジリリリリリリリリリリリリッ!
「ふふふ、一件落着。中学生探偵、井上マユカにかかれば、こんなものよ!」
わたしは虫メガネを持っている手で、シャーロックハットのつばを持ち上げて、くるりとふり返る。ケープを合わせたような丈の長いインバネスコートがひるがえった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!
「ああもう、うるさい! さっきからなによ!」
わたしがそう叫ぶと、ポンッと景色が変わった。
「ふええっ、宇宙⁉」
真っ暗ななか、三百六十度、上も下もすべてキラキラの星!
そこに、ものすごく長い、半透明の階段が上から下に伸びていた。わたしはその階段に立っている。
しかも、いつの間にか服装も変わっていた。
さっきまで、名探偵のシャーロック・ホームズみたいな服装だったのに、お姫様のようなふわっふわのドレスを着ていたの。肩まである黒髪も頭の上でまとめられていて、手で触るとティアラみたいな感触もある。
「マユカ姫」
階段の上には、王子さまが立っていた。紅茶色のサラサラの髪で、わたしと同い年くらいの男の子。
逆光で、顔はよく見えない。
「わたし、帰らなきゃ」
なぜかわからないけどそう思って、わたしは急いで階段をかけおりる。
「あっ」
すると、ガラスのくつが片方ぬげてしまった。
「いけない!」
取りに戻ると、王子さまに手をつかまれた。
「マユカ姫」
顔をあげると、整った顔が近くにあった。
二重のアーモンド形の茶色がかった瞳。長いまつ毛。白い肌に、リップをぬったみたいにピンクでうるおった唇。
女の子にも見えるくらい、きれいな男の子だった。
「この顔って……」
きれいな王子さまの顔がさらに近づいてきた。
そして――。
「いい加減に起きろよ、ばかマユカ!」
「きゃあっ!」
わたしはベッドから落とされた。
「痛い! ひどい!」
「ひどいのはどっちだよ。なんでおまえはいつも、目覚ましが鳴っても布団をはいでもたたいても起きないんだよ!」
さっきのきれいな王子さま……もとい、幼なじみの宅間隼人が、細い眉をつり上げて怒っていた。
「中学初日から遅刻したいのかよ」
「あっ、そうか!」
今日は、中学校の入学式だ。
そういえば、隼人は制服を着ている。グレーのブレザーに、ネイビーのタータンチェックのネクタイとスラックス。なかなか似合ってるじゃん。
「ったく、ご飯の準備してくるから、制服に着替えて降りて来いよ」
「うん、ありがとう!」
隼人がわたしの部屋から出て行った。
これで、もっと優しく起こしてくれたら、文句ないんだけどなあ。
隼人はとなりの家に住んでいて、毎日、わたしを起こしに来てくれる。
というのも、わたしはどうも朝が弱くて、目覚ましを三つ鳴らしても起きられないの。親が起こしてくれたらいいんだけど、パパもママも、仕事でだいたい家にいない。
冷蔵庫の中身が変わっていたり、テーブルにわたしへのおこづかいが置いてあったりするから、荷物を取りに来たり、眠りに帰ってきたりしているようなんだけど、ほとんど顔を合わせることがないんだ。
こういう生活が、小学校の中学年から続いているんだよ。学校行事にも全然来てくれないし、家族で旅行することもない。
こんなに娘を放置する親っている⁉
わたしじゃなかったら、グレてるね!
イイコに育ったわたしって、本当にエライ。
……ということで、パパとママは、実質一人暮らしみたいなわたしのめんどうを、となりの宅間家にお願いしているわけ。
うちの親と隼人の親はすっごく仲が良くて、小さなころは家族ぐるみでよく遊びに行ったんだ。
だから隼人とは、きょうだいみたいに育った。いっつも一緒。
隼人は同い年だけど、ずっとわたしの「妹分」だったんだよ。
隼人はわたしより小さくて、女の子みたいにかわいくて。「女男!」ってからかわれて泣かされるのを、わたしが守ってたんだ。
わたしたちは「マユちゃん」「ハヤちゃん」と呼び合っていた。
それなのに、五年生くらいのときに、そう呼ぶのはやめたいって隼人に言われて、「ちゃんづけ」がなくなった。
身長もそのくらいで追いつかれて、隼人は今ではわたしより十センチくらい背が高い。
態度もえらそうになっちゃったし、隼人が妹分じゃなくなっちゃって、ちょっとさみしい。
前までは、「マユちゃん、マユちゃん」ってわたしのうしろにくっついて、かわいかったのになあ。
でもこうやって、朝に弱いわたしのために毎日起こしてくれて、ご飯も準備してくれるから、本当に感謝してるんだ。
隼人はうちの合鍵を持ってるから、出入り自由なんだよ。
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