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3 まだまだ続くよ! 試練その3

まだまだ続くよ! 試練その3 4

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 樹木はただそこにあるだけではなくて、ちゃんと役割があるんだね。
 なんでも植えればいいってわけじゃなかったんだ。
「そうして見ると、この学校の木も、ルールにしたがって植えられていることがわかる」
 隼人が指をさす方向に目を向けた。
「校舎の南側には、イチョウの木がある」
 民家が近い部室棟の前は、サンゴジュやカシが並んでいる。
 外周の塀やフェンスに沿って植えられているのは、街路樹としてもよくみかけるマテバシイやシラカシ。
 門から校舎の入り口にかけての歩道の両側には、花びらが舞い散るサクラがびっしりと並んでいた。
 木って種類によって、こんなに性質が違うんだね。おもしろいなあ。
「で、ここからが本題」
 説明を受けながら校庭を見ていたわたしたちは、隼人に目を向けた。
「今までの話と、さっきの生徒会長の話を合わせて考えてみる」
 生徒会長がタイムカプセルを埋めたのは、寒い冬だった。
「冬ということは……」
 そう言いながらわたしは、常緑樹と落葉樹の話を思い出した。
「落葉樹なら、葉が落ちているはずだ」
「でも生徒会長は、『緑の葉の隙間から太陽が輝いて見えた』って言ってたよ」
「そう。ということは?」
「そうか、生徒会長がタイムカプセルを埋めたのは、常緑樹なんだ!」
 わたしの言葉に、隼人はうなずいた。
「そして、雑木林のように木が密集していたわけではなく、規則的に並んでいたはず」
 なるほど、なるほど。たしかに絞れてきた感じがする!
 しかも生徒会長は、「仲間外れの木だから、とてもわかりやすいよ」と言ったのだから……。
「規則的に並んでいる落葉樹の中に、一本だけある常緑樹を探せばいいってことだ!」
 わたしがパチンと手を鳴らすと、隼人は「よくできました」って感じで、軽くほほ笑んだ。
「へえ、さすが名探偵部を作りたいというだけあるね。その条件がわかっていれば、対象の木はかなり減るね」
 生徒会長が感心したように言いながら、校庭に視線を走らせている。
 なにげなく美香センパイを見ると、さっきまでキリリとしていた眉を大きくさげて、困ったような、恥ずかしそうな、ふくざつな表情になっている。
 ははぁん。この考え方で合ってるんだな。
 美香センパイごめんなさい、ギセイになってください!
「よし、探す場所は、落葉樹が並んでいる場所」
 さっき隼人に教えてもらったから、だいたいどこにあるかわかってるもんね。
 いくら屋上といっても、広すぎてすべての敷地を見通せない。
 中学と高校の校舎は並んでいるので近いけれど、小学校や大学は離れている。生徒会長が、きちんと中学校の敷地の木に埋めていることを祈るしかない。もしなければ、高校や大学の敷地を歩きながら探すことになっちゃうもんね。
「春だから、常緑樹と落葉樹の見分けがつきにくいね」
 冬なら落葉樹の葉がすっかり落ちているから、すぐにわかるのだけど。
 わたしはフェンス沿いを歩きながら木々に目をこらした。
「……ん?」
 中学校舎の南側。
 葉が緑色のイチョウの木が並んでいる。
 さっき隼人は、一日中強い日差しが当たる校舎の南側には、夏は強い日差しをさえぎって、冬は葉を落として太陽の光を教室に入れられる、落葉樹がうえられるって言ってたよね。
 イチョウは秋には黄色くなって葉が落ちるのを見たことがあるから、今は緑色でも落葉樹だって、わたしにもわかるよ。
 それにこう見るとてっぺんがとんがっているから、イチョウは落葉針葉樹なんだね。
 だけどそのなかに、横幅のある木が一本だけあった。
「あれは、広葉樹だ」
 心臓がドキリと大きく脈打った。
 もういちど目をこらしたけど、あきらかに、イチョウの木ではなかった。
「ねえ隼人、針葉樹の中にある、広葉樹を見つけたよ。あれって常緑樹かな?」
 そうだったら、もう間違いないよね!
 隼人はわたしが指さす先を視線でたどった。
 かたちのいい横顔に、紅茶色の髪と長いまつ毛の影がおちている。
「あれはクスノキだな。常緑広葉樹だ」
 ……ということは。
「ビンゴだよね! やったね隼人!」
 わたしは両手をあげた。隼人がわたしの手にパチンと合わせる。ハイタッチだよ!
「ぼくも!」
 生徒会長も、わたしと隼人に手を合わせた。
「ありがとう! 何年も見つけられなかったタイムカプセルの場所を特定するなんて。二人とも、さすが名探偵だ!」
「生徒会長……」
 わたしは生徒会長の言葉に、ジーンと感動してしまった。
 わたしは自称・名探偵だけど、人から名探偵って呼ばれたのは初めてだったの。うれしすぎる!
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