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二章 目指せ声優! 鈴華愛紗
目指せ声優! 鈴華愛紗 1
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「ニンジン、タマネギ、牛肉もある……、よし」
ビニール袋の中身を確認して、拓斗は満足そうにうなずいた。
シェアハウスに住むようになって数日。外食ばかりしていたが、自炊に挑戦することにしたのだ。慣れていないので時間がかかるかもしれないが、お昼時を外したのでゆっくりキッチンを使っても文句は言われないだろう。
思い返せば、ピアノ以外になにもしてこなかった。拓斗が本を読んだり、テレビを見たり、パソコンを触っている時があれば、全てピアノに関連するときだ。
シェアハウスでは自分のことは自分でしなければいけない。当り前のことだが、様々なことに挑戦するいい機会ともいえる。
その一つが、この料理だ。
今までだってコンビニを利用することはあったのだが、スーパーで買い物かごを持って食材から選ぶなんて、拓斗はしたことがなかった。なんだかテンションが上がってしまう。
シェアハウスの庭には相変わらず綺麗な花が咲き誇り、いい匂いがしていた。
玄関脇にあるロッカーに靴を入れ、スリッパに履き替える。共有スペースであるリビングダイニングの戸を開けると、女性の声が聞こえてきた。
「さてこの薬、第一の奇妙には、舌の廻る事が銭ごまが裸足で逃げる。ヒョッと舌が廻り出すと矢も盾も堪らぬじゃ……」
部屋に入ると、拓斗と同じくらいの年齢の女性がキッチンで一人、声を張り上げていた。
拓斗は眉を寄せる。なにかの呪文だろうか。
「困ったな。ぼくもキッチンを使いたいんだけど」
キッチンは広く、二人並んでも料理をするのに支障はないだろう。
問題は、盛大な独り言を言っている女性の傍に近づいていいのかどうかだ。
初めて会う女性だった。ここにいるのならシェアハウスの住人だろう。彼女はライトブラウンの巻き髪を首の後ろで一つに結わいていて、細身の身体にやけにヒラヒラとしたピンクのスカートをまとっていた。
しばし悩んだが、新参者の拓斗から声をかけたほうがいいと判断した。
「あの、こんにちは」
「こんにちは」
拓斗が後ろから声をかけると、女性は呪文をやめて振り返った。くりっとした瞳にボリュームのあるまつ毛の影が落ち、鼻はすっと通っている。顎はきゅっと小さくて、いまどきの可愛らしい顔をしていた。
「あっ、もしかして!」
拓斗の顔を見上げると、女性は甲高い声を出した。そういえば、さっきの独り言の時から声が高かった。
「あなたが“なよっちいピアニスト志望”の人?」
「えっ……」
突然の発言に言葉を失っていると、女性はふふっと笑った。
「って、猫山先輩が言ってました」
「ああ、あの人が」
それなら納得だ。というよりも、そんな呼び方をするのは彼以外いないだろう。
「あはは、やっぱりイケメンさんだったんですね。猫山先輩は見た目のいい男性には特に厳しいからな。雄一郎さんのことなんてゴリラって呼んでますから」
まだそう呼び続けているのだろうか。そろそろ猫山のパソコンの命が尽きそうだ。
「ピアニスト志望の割には、全然ピアノの音が聞こえてこないんですけど。ここに来てからピアノ弾いてます?」
「まあ……、それより名前を教えて。ぼくは白河拓斗」
痛いところを突かれてしまい、拓斗は話題を変えることにした。
「わたしは鈴華愛紗、花のJKです。愛紗って呼んでくださいね」
くるりとまわって、愛紗はスカートを広げた。
「JKってなに?」
拓斗が知らない単語を尋ねると、愛紗はまるで宇宙人を見るような顔つきになった。
「それ、冗談ですよね?」
「冗談のつもりはないよ」
「女子高生の略ですよ! 女子大生ならJD! 常識です!」
愛紗が嘆くので、拓斗は「ごめん」と謝った。
「JKにJDだね。覚えた。勉強になったよ」
「ま、こんなこと忘れちゃっていいんですけど」
どっちなんだと拓斗は困惑する。
ビニール袋の中身を確認して、拓斗は満足そうにうなずいた。
シェアハウスに住むようになって数日。外食ばかりしていたが、自炊に挑戦することにしたのだ。慣れていないので時間がかかるかもしれないが、お昼時を外したのでゆっくりキッチンを使っても文句は言われないだろう。
思い返せば、ピアノ以外になにもしてこなかった。拓斗が本を読んだり、テレビを見たり、パソコンを触っている時があれば、全てピアノに関連するときだ。
シェアハウスでは自分のことは自分でしなければいけない。当り前のことだが、様々なことに挑戦するいい機会ともいえる。
その一つが、この料理だ。
今までだってコンビニを利用することはあったのだが、スーパーで買い物かごを持って食材から選ぶなんて、拓斗はしたことがなかった。なんだかテンションが上がってしまう。
シェアハウスの庭には相変わらず綺麗な花が咲き誇り、いい匂いがしていた。
玄関脇にあるロッカーに靴を入れ、スリッパに履き替える。共有スペースであるリビングダイニングの戸を開けると、女性の声が聞こえてきた。
「さてこの薬、第一の奇妙には、舌の廻る事が銭ごまが裸足で逃げる。ヒョッと舌が廻り出すと矢も盾も堪らぬじゃ……」
部屋に入ると、拓斗と同じくらいの年齢の女性がキッチンで一人、声を張り上げていた。
拓斗は眉を寄せる。なにかの呪文だろうか。
「困ったな。ぼくもキッチンを使いたいんだけど」
キッチンは広く、二人並んでも料理をするのに支障はないだろう。
問題は、盛大な独り言を言っている女性の傍に近づいていいのかどうかだ。
初めて会う女性だった。ここにいるのならシェアハウスの住人だろう。彼女はライトブラウンの巻き髪を首の後ろで一つに結わいていて、細身の身体にやけにヒラヒラとしたピンクのスカートをまとっていた。
しばし悩んだが、新参者の拓斗から声をかけたほうがいいと判断した。
「あの、こんにちは」
「こんにちは」
拓斗が後ろから声をかけると、女性は呪文をやめて振り返った。くりっとした瞳にボリュームのあるまつ毛の影が落ち、鼻はすっと通っている。顎はきゅっと小さくて、いまどきの可愛らしい顔をしていた。
「あっ、もしかして!」
拓斗の顔を見上げると、女性は甲高い声を出した。そういえば、さっきの独り言の時から声が高かった。
「あなたが“なよっちいピアニスト志望”の人?」
「えっ……」
突然の発言に言葉を失っていると、女性はふふっと笑った。
「って、猫山先輩が言ってました」
「ああ、あの人が」
それなら納得だ。というよりも、そんな呼び方をするのは彼以外いないだろう。
「あはは、やっぱりイケメンさんだったんですね。猫山先輩は見た目のいい男性には特に厳しいからな。雄一郎さんのことなんてゴリラって呼んでますから」
まだそう呼び続けているのだろうか。そろそろ猫山のパソコンの命が尽きそうだ。
「ピアニスト志望の割には、全然ピアノの音が聞こえてこないんですけど。ここに来てからピアノ弾いてます?」
「まあ……、それより名前を教えて。ぼくは白河拓斗」
痛いところを突かれてしまい、拓斗は話題を変えることにした。
「わたしは鈴華愛紗、花のJKです。愛紗って呼んでくださいね」
くるりとまわって、愛紗はスカートを広げた。
「JKってなに?」
拓斗が知らない単語を尋ねると、愛紗はまるで宇宙人を見るような顔つきになった。
「それ、冗談ですよね?」
「冗談のつもりはないよ」
「女子高生の略ですよ! 女子大生ならJD! 常識です!」
愛紗が嘆くので、拓斗は「ごめん」と謝った。
「JKにJDだね。覚えた。勉強になったよ」
「ま、こんなこと忘れちゃっていいんですけど」
どっちなんだと拓斗は困惑する。
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