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二章 目指せ声優! 鈴華愛紗
目指せ声優! 鈴華愛紗 2
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「それより拓斗さん、カレー作るんですか?」
愛紗は拓斗の持つ袋を覗き込みながら言った。拓斗はうなずく。
「やけに量が多くありません?」
「スマホでレシピを調べたら、四人分の材料が書いてあったんだ。四分の一の量を買おうと思ったんだけど、少量の野菜が売ってなくて。結局、四人分買ってきた。四回作れば同じかなって」
「うわ、それダメなヤツですよ! 料理するのが面倒になって食材を腐らせるやつ! 食品ロスは大問題なんですよ!」
愛紗に指を突きつけられ、拓斗は袋に視線を落とした。言われてみれば面倒になる可能性はある。
「こういうときは、四人前全部作っちゃうんです。一人前作るのも四人前作るのも手間はそんなに変わらないから、時短になるでしょ。それで密封できる容器に一食分ずつ小分けにして冷蔵庫に入れておけば、食べたいときに電子レンジでチンするだけです」
「なるほど」
「冷蔵庫に入れたからって安心しちゃだめですよ。夏だから意外に足が早いんです。カレーだったら冷凍しちゃってもいいかも、それならかなり日持ちしますから。あ、あと容器に名前を書いておかないと誰かに食べられちゃいますよ。猫山先輩とか」
早口でよどみなく愛紗はしゃべる。よく舌を噛まないなと、おかしなところで拓斗は感心した。
「ありがとう。あまり料理をしないから助かるよ」
「なんでも聞いてください。わたし、ここにきて二年半になるんです。結構、古株なんですよ」
「そんなに?」
「はい。声優になるために、中学を卒業してすぐ、北海道から一人で上京してきたんです。東京の高校と声優の養成所に通ってます」
「声優を目指しているんだね」
それでこんなに早口でも滑舌がいいのかと、拓斗は納得した。
「愛紗ちゃんが言ってたさっきの呪文も、発声練習かなにかだったの?」
「呪文って? ……ああ、『外郎売』か。知らないとなに言ってるのかわかりませんよね」
愛紗が手を叩いて笑う。
「ういろううり?」
「元々は伝統的な早口言葉を詰め合わせた歌舞伎の十八番だったそうです。その早口言葉のところを抜き出して、役者とかアナウンサーとか、しゃべる仕事の人のトレーニング教材としてよく使われるんですよ」
『外郎売』は日本三大仇討ちの物語の一つ『曽我物語』を題材にした演目だ。曾我五郎が外郎売に身をやつし、仇討ちの機会を伺う。その見せ場となるのが、のむと口が回りだしてとまらなくなる妙薬「ういろう」を披露する場面。
「武具馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。菊栗、菊栗、三菊栗、合わせて菊栗、六菊栗。麦塵、麦塵、三麦塵、合わせて麦塵、六麦塵……とか、聞いたことありませんか?」
「あるような気もする。生麦生米にゃま……言えないや、あれかな」
愛紗はサラサラと言えるのに、たった一言で噛んでしまって拓斗は赤面する。
愛紗は拓斗の持つ袋を覗き込みながら言った。拓斗はうなずく。
「やけに量が多くありません?」
「スマホでレシピを調べたら、四人分の材料が書いてあったんだ。四分の一の量を買おうと思ったんだけど、少量の野菜が売ってなくて。結局、四人分買ってきた。四回作れば同じかなって」
「うわ、それダメなヤツですよ! 料理するのが面倒になって食材を腐らせるやつ! 食品ロスは大問題なんですよ!」
愛紗に指を突きつけられ、拓斗は袋に視線を落とした。言われてみれば面倒になる可能性はある。
「こういうときは、四人前全部作っちゃうんです。一人前作るのも四人前作るのも手間はそんなに変わらないから、時短になるでしょ。それで密封できる容器に一食分ずつ小分けにして冷蔵庫に入れておけば、食べたいときに電子レンジでチンするだけです」
「なるほど」
「冷蔵庫に入れたからって安心しちゃだめですよ。夏だから意外に足が早いんです。カレーだったら冷凍しちゃってもいいかも、それならかなり日持ちしますから。あ、あと容器に名前を書いておかないと誰かに食べられちゃいますよ。猫山先輩とか」
早口でよどみなく愛紗はしゃべる。よく舌を噛まないなと、おかしなところで拓斗は感心した。
「ありがとう。あまり料理をしないから助かるよ」
「なんでも聞いてください。わたし、ここにきて二年半になるんです。結構、古株なんですよ」
「そんなに?」
「はい。声優になるために、中学を卒業してすぐ、北海道から一人で上京してきたんです。東京の高校と声優の養成所に通ってます」
「声優を目指しているんだね」
それでこんなに早口でも滑舌がいいのかと、拓斗は納得した。
「愛紗ちゃんが言ってたさっきの呪文も、発声練習かなにかだったの?」
「呪文って? ……ああ、『外郎売』か。知らないとなに言ってるのかわかりませんよね」
愛紗が手を叩いて笑う。
「ういろううり?」
「元々は伝統的な早口言葉を詰め合わせた歌舞伎の十八番だったそうです。その早口言葉のところを抜き出して、役者とかアナウンサーとか、しゃべる仕事の人のトレーニング教材としてよく使われるんですよ」
『外郎売』は日本三大仇討ちの物語の一つ『曽我物語』を題材にした演目だ。曾我五郎が外郎売に身をやつし、仇討ちの機会を伺う。その見せ場となるのが、のむと口が回りだしてとまらなくなる妙薬「ういろう」を披露する場面。
「武具馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。菊栗、菊栗、三菊栗、合わせて菊栗、六菊栗。麦塵、麦塵、三麦塵、合わせて麦塵、六麦塵……とか、聞いたことありませんか?」
「あるような気もする。生麦生米にゃま……言えないや、あれかな」
愛紗はサラサラと言えるのに、たった一言で噛んでしまって拓斗は赤面する。
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