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二章 目指せ声優! 鈴華愛紗
目指せ声優! 鈴華愛紗 4
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「本当に料理をしたことがないんですね」
愛紗はあきれたようにつぶやいた。
そういえば中学の調理実習の時も「拓斗くんは洗い物係ね」と言われ、料理に混ぜてもらえなかった記憶がよみがえってきた。あの時から包丁の扱いが下手だったのだろうか。
愛紗は拓斗にピーラーを渡して使い方を教えていたが、途中で「ああっ、もういいです!」とピーラーを置いてしまった。
「わたしが作ったほうが絶対に早い! 拓斗さんは見て勉強してください。一つ貸しですからね」
「悪いよ。自分で作るから」
「見ているほうが心臓に悪いんです!」
「……ごめん」
拓斗は愛紗のサポートに回ることになった。といっても野菜を洗うか、焦げないように鍋をかき混ぜるくらいしかやることがない。
「カレーなら作れると思ったんだけどな」
拓斗はうなだれる。
「スーパーにカット済みのカレーの野菜セットがあるから、どうしてもカレーを作りたくなったらそれを買うことをおすすめします」
「はい」
こんなに包丁を扱うのは難しいものだったのかと、拓斗はしょんぼりと思った。
「誰かカレーを作ってるんだな……っておい、拓斗じゃねえか!」
低い声に振り返ると、雄一郎がリビングダイニングに入ってきたところだった。雄一郎は慌てたように駆け寄ってきた。
「おまえが作ったのか。指は無事か?」
「作ろうとはしてたけど……なに慌ててるの?」
「大丈夫ですよ雄一郎さん、カレーはわたしが作りましたから」
「そうか。愛紗ナイス」
雄一郎はホッとしたように大きく息を吐いた。拓斗はむっとする。
「ぼくが作っちゃいけないわけ?」
「おまえの能力値はピアノに全振りしてるんだよ。ピアノ以外はヘボ! マジで包丁なんて握らないでくれ」
「じゃあ雄一郎は料理ができるっていうの?」
「ああ、俺はお前と違ってなんでもできるからな。自炊したくなったら俺に言え。作ってやる」
「今まで自炊するな、なんて言わなかったのに」
「いつも外食だったから安心してたんだよ」
確かに拓斗はピアノ以外のことを殆どしてこなかったが、それでもはっきりと「ヘボ」と言われると腹が立つ。
「あれあれ雄一郎さん。料理を作ってあげるなんて、拓斗さんには甘いんですね」
愛紗はからかうように雄一郎に詰め寄った。
「その言葉、そっくり愛紗に返してやるよ」
「そりゃねえ。あんなに不器用な手つきをされたら怖くて」
「ほらみろ」
拓斗はますます眉間にしわを寄せた。
「別に、ぼくひとりでもカレーくらい作れたよ」
「血のスパイス入りカレーがな」
これ以上の揶揄には堪えられないと、拓斗は雄一郎の背中を押してダイニングから追い出すことにした。
「カレーはたくさん余ってるけど、雄一郎にはあげないからね」
「はいはい、俺はいいよ。たっぷり食いな」
雄一郎は部屋を出て行った。ドアを閉める前に「絶対に包丁とコンロに近づくな」と言い残して。
「おもしろくない」
拓斗はむくれた。
愛紗はあきれたようにつぶやいた。
そういえば中学の調理実習の時も「拓斗くんは洗い物係ね」と言われ、料理に混ぜてもらえなかった記憶がよみがえってきた。あの時から包丁の扱いが下手だったのだろうか。
愛紗は拓斗にピーラーを渡して使い方を教えていたが、途中で「ああっ、もういいです!」とピーラーを置いてしまった。
「わたしが作ったほうが絶対に早い! 拓斗さんは見て勉強してください。一つ貸しですからね」
「悪いよ。自分で作るから」
「見ているほうが心臓に悪いんです!」
「……ごめん」
拓斗は愛紗のサポートに回ることになった。といっても野菜を洗うか、焦げないように鍋をかき混ぜるくらいしかやることがない。
「カレーなら作れると思ったんだけどな」
拓斗はうなだれる。
「スーパーにカット済みのカレーの野菜セットがあるから、どうしてもカレーを作りたくなったらそれを買うことをおすすめします」
「はい」
こんなに包丁を扱うのは難しいものだったのかと、拓斗はしょんぼりと思った。
「誰かカレーを作ってるんだな……っておい、拓斗じゃねえか!」
低い声に振り返ると、雄一郎がリビングダイニングに入ってきたところだった。雄一郎は慌てたように駆け寄ってきた。
「おまえが作ったのか。指は無事か?」
「作ろうとはしてたけど……なに慌ててるの?」
「大丈夫ですよ雄一郎さん、カレーはわたしが作りましたから」
「そうか。愛紗ナイス」
雄一郎はホッとしたように大きく息を吐いた。拓斗はむっとする。
「ぼくが作っちゃいけないわけ?」
「おまえの能力値はピアノに全振りしてるんだよ。ピアノ以外はヘボ! マジで包丁なんて握らないでくれ」
「じゃあ雄一郎は料理ができるっていうの?」
「ああ、俺はお前と違ってなんでもできるからな。自炊したくなったら俺に言え。作ってやる」
「今まで自炊するな、なんて言わなかったのに」
「いつも外食だったから安心してたんだよ」
確かに拓斗はピアノ以外のことを殆どしてこなかったが、それでもはっきりと「ヘボ」と言われると腹が立つ。
「あれあれ雄一郎さん。料理を作ってあげるなんて、拓斗さんには甘いんですね」
愛紗はからかうように雄一郎に詰め寄った。
「その言葉、そっくり愛紗に返してやるよ」
「そりゃねえ。あんなに不器用な手つきをされたら怖くて」
「ほらみろ」
拓斗はますます眉間にしわを寄せた。
「別に、ぼくひとりでもカレーくらい作れたよ」
「血のスパイス入りカレーがな」
これ以上の揶揄には堪えられないと、拓斗は雄一郎の背中を押してダイニングから追い出すことにした。
「カレーはたくさん余ってるけど、雄一郎にはあげないからね」
「はいはい、俺はいいよ。たっぷり食いな」
雄一郎は部屋を出て行った。ドアを閉める前に「絶対に包丁とコンロに近づくな」と言い残して。
「おもしろくない」
拓斗はむくれた。
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