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三章 家族で仲良く暮らしたい、城島啓太
家族で仲良く暮らしたい、城島啓太 6
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「旦那さんに会う意味があるのかな。仮に旦那さんを説得できたとして、一時的に帰宅が早くなったとしても、すぐに元に戻る気がするな」
拓斗は少々考えるように、小首をかしげながら言った。
拓斗の家庭環境は啓太の家族に近い。専業主婦の母親と商社に勤める父がいて、父は海外出張などであまり家にいなかった。母は家事のほかに拓斗のピアノを見ることに情熱を注いでいたので淋しそうには見えず、拓斗も同じくピアノ漬けだったので父がいないことは気にならなかった。父親はいてもいなくても同じというくらい関係が希薄だったのだ。
一方、陽子は夫が家にいない状況を不満に思っており、啓太は父親が好きなようだ。
結局、「理想の家族」の定義なんて、人それぞれなのだろう。
「まあ、啓太に善処するって約束したから、できることはする。問題は隆さんが俺たちに会ってくれるかだよな。親戚の集まりに隆さんが来たことってほとんどないから、俺のことを覚えているかもあやしい」
「そんな人の職場に乗り込もうとするのがすごいよ」
「可愛い従弟のためだからな」
拓斗は端正なカーブを描く横顔をチラリと見る。彼はすぐにからかったり煽ったりして意地の悪いところも多分にあるが、情に厚くて面倒見がいい。
電車に乗って十五分ほど、駅からそう歩くことなく隆の勤め先に着いた。
「大きいね。テレビ局って初めて来た」
拓斗はビルを見上げる。
「おまえは何度もテレビに出てるだろ」
「コンクール会場とかで取材を受けていたから」
雄一郎が受付の女性と話している間、少し離れた位置で周囲を見回す。広いエントランスだ。壁際には椅子が置いてあり、ノートパソコンで仕事をしている人などが複数いる。エレベーターホールへの道筋にはセキュリティゲートがあり、関係者以外は入れない。警備員が何人も配置されて厳かな空気が感じられる一方、一角では番組関連のグッズが売られ賑やかに飾り付けられている。
「とりあえず、本人には連絡が取れたようだ。あとは降りてくるかどうかだな。しばらく待ってみよう」
雄一郎に壁際の椅子に促された。
「なんて言われたの?」
「隆さんと俺との間柄と、“妻の陽子さんについて緊急で伝えたいことがある。五分でいいから話したい”って受付嬢に伝えてもらったら、手が離せないから行けたら行く、と言っていたらしい」
「どっちつかずだよね。来るなら来る、来ないなら来ないって言われた方がスッキリするのに」
「まあ、話を聞く意思はあるってことだろ」
「陽子さんに対しても、いつもこういう曖昧な態度だったんだろうな」
そして、期待させては約束を破り続けてきたのだろう。先ほどの話を聞いた拓斗は、陽子に同情的になっていた。
それから五十分ほどが経ち、もうしばらく待って催促し、連絡が取れなかったら帰ろうかと話し始めていると、メガネをかけた四十代半ばの男性がやってきた。背は拓斗より少し低いくらいで、面長で神経質そうな顔つきをしている。
「雄一郎くんか」
「はい、ご無沙汰しています」
「十分程度しか時間がないが、なんとか抜けてきた。そこの喫茶店に行こう」
隆は速足で歩く。せっかちそうだ。店に入ってすぐ、隆は拓斗たちに確認することもなくホットコーヒーを三つ頼んだ。場所代のようなもので、飲み物はなんでもいいと考えたのかもしれない。
「で、緊急で伝えたいことってなんだ。予想はついているんだが」
隆は早口に切り出した。そうせかせかとされると、こちらも急がないといけないという気になってくる。
「陽子さんは離婚を考えています」
雄一郎は単刀直入に切り出した。
拓斗は少々考えるように、小首をかしげながら言った。
拓斗の家庭環境は啓太の家族に近い。専業主婦の母親と商社に勤める父がいて、父は海外出張などであまり家にいなかった。母は家事のほかに拓斗のピアノを見ることに情熱を注いでいたので淋しそうには見えず、拓斗も同じくピアノ漬けだったので父がいないことは気にならなかった。父親はいてもいなくても同じというくらい関係が希薄だったのだ。
一方、陽子は夫が家にいない状況を不満に思っており、啓太は父親が好きなようだ。
結局、「理想の家族」の定義なんて、人それぞれなのだろう。
「まあ、啓太に善処するって約束したから、できることはする。問題は隆さんが俺たちに会ってくれるかだよな。親戚の集まりに隆さんが来たことってほとんどないから、俺のことを覚えているかもあやしい」
「そんな人の職場に乗り込もうとするのがすごいよ」
「可愛い従弟のためだからな」
拓斗は端正なカーブを描く横顔をチラリと見る。彼はすぐにからかったり煽ったりして意地の悪いところも多分にあるが、情に厚くて面倒見がいい。
電車に乗って十五分ほど、駅からそう歩くことなく隆の勤め先に着いた。
「大きいね。テレビ局って初めて来た」
拓斗はビルを見上げる。
「おまえは何度もテレビに出てるだろ」
「コンクール会場とかで取材を受けていたから」
雄一郎が受付の女性と話している間、少し離れた位置で周囲を見回す。広いエントランスだ。壁際には椅子が置いてあり、ノートパソコンで仕事をしている人などが複数いる。エレベーターホールへの道筋にはセキュリティゲートがあり、関係者以外は入れない。警備員が何人も配置されて厳かな空気が感じられる一方、一角では番組関連のグッズが売られ賑やかに飾り付けられている。
「とりあえず、本人には連絡が取れたようだ。あとは降りてくるかどうかだな。しばらく待ってみよう」
雄一郎に壁際の椅子に促された。
「なんて言われたの?」
「隆さんと俺との間柄と、“妻の陽子さんについて緊急で伝えたいことがある。五分でいいから話したい”って受付嬢に伝えてもらったら、手が離せないから行けたら行く、と言っていたらしい」
「どっちつかずだよね。来るなら来る、来ないなら来ないって言われた方がスッキリするのに」
「まあ、話を聞く意思はあるってことだろ」
「陽子さんに対しても、いつもこういう曖昧な態度だったんだろうな」
そして、期待させては約束を破り続けてきたのだろう。先ほどの話を聞いた拓斗は、陽子に同情的になっていた。
それから五十分ほどが経ち、もうしばらく待って催促し、連絡が取れなかったら帰ろうかと話し始めていると、メガネをかけた四十代半ばの男性がやってきた。背は拓斗より少し低いくらいで、面長で神経質そうな顔つきをしている。
「雄一郎くんか」
「はい、ご無沙汰しています」
「十分程度しか時間がないが、なんとか抜けてきた。そこの喫茶店に行こう」
隆は速足で歩く。せっかちそうだ。店に入ってすぐ、隆は拓斗たちに確認することもなくホットコーヒーを三つ頼んだ。場所代のようなもので、飲み物はなんでもいいと考えたのかもしれない。
「で、緊急で伝えたいことってなんだ。予想はついているんだが」
隆は早口に切り出した。そうせかせかとされると、こちらも急がないといけないという気になってくる。
「陽子さんは離婚を考えています」
雄一郎は単刀直入に切り出した。
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