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遺棄事件と見えないドア18
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「子供が、商売に口を出すんじゃないよ」
オバサンが一歩近づいてきた。私たちも一歩後退る。
「私たちは、あなたの顔も、車も、写真に撮ってます。今すぐ警察を呼んで提出できます」
私は「一一〇」を表示させ、あとは通話を押すのみにしたスマートフォンの画面を突き出した。
「でも、ここにいる犬を開放して、もう二度とパピーミルなんてしないと誓うなら、画像を消去してもいいです」
犬の遺棄は大した罪にならないと聞いた。すぐに釈放されて商売を続けられてしまうのなら、罪に問えなくてもいいと思った。
オバサンは黙っている。俯いていて、表情が見えない。迷っているのだろうか。五十代だとしたら、母よりも年上だ。高校、大学生くらいの子供がいるかもしれない。
「こんなことをして稼いだお金じゃ、あなたの子供は絶対に喜びません」
犬の命を引き換えにしたお金。
橋の上から石を投げていた自分を思い出した。どうして私は、すぐに謝りに行けなかったんだろう。当たり所が悪ければ、死なせてしまったかもしれない。クラスで嘘をついたときだってそうだ。私は自分のことばかり考えていた。
私も、変わらなきゃいけない。
「私のお母さんがこんなことをしていたら、恥ずかしいし、悲しいです。考え直してください」
オバサンが顔を上げた。ボサボサのパーマ髪に半分隠れた目は血走っていて、こめかみには血管が浮いていた。
迷っていたのではなく、静かに怒っていたようだ。
「黙って聞いていればいい気になって」
突然オバサンは走ってきた。私たちもすぐに反応して逃げる。あまりに急だったので、スタートが遅れてしまった。まさか大丈夫だと思うけど、追いつかれたら、あの大きなシャベルで殴られるかもしれない。そうしたら大怪我を……。
頭を一振りして嫌な考えを払い、足の速い涼子の背中を追いかけた。
「あっ」
何かに躓いたと思った瞬間、地面に倒れ込んでいた。さっき投げ捨てたシャッター棒に足を取られてしまった。
上半身を起こすと、地面に大きな影が広がっていた。振り向くとオバサンがシャベルを振り上げているところだった。
「うるさいんだよっ」
視界の端でシャベルが振り下ろされているのが見えた。私は頭を抱えて目を閉じ、歯を食いしばった。
ガンという金属音が頭上で響いた。
「美央、立って! 警察に電話」
顔を上げると、涼子がシャッター棒で、シャベルを受け止めていた。まるで剣士のようだ。
「涼子ありがとう!」
「いいから電話!」
私は転んだ拍子に落としてしまったスマートフォンを拾い、警察に電話をした。
「人を傷つけた罪は、犬とは比較になりませんよ」
涼子はシャベルを受け流して、持っている棒を構え直した。
「ここにいても家に帰っても警察に捕まるだろうけど、家には警察が来る前に処分したいものがあるんじゃないの?」
オバサンはしばらく涼子を睨んでいたけれど、シャベルを捨てると軽自動車に乗り込んで走り去った。
「ごめん涼子。今日はずっとありがとう」
私は涼子に抱きついた。涼子は私の頭を撫でてくれた。
「警察は?」
「すぐ来るって」
「ああ、血が出てるよ。手を出して」
転んだ時に、両手と膝を擦りむいていた。涼子はボシェットからペットボトルの水を出して、土を洗い流してくれた。
「警察が来る前に処分したいものって、なに?」
私が尋ねると、涼子は珍しく、ニッと意地悪そうな表情で笑った。
オバサンが一歩近づいてきた。私たちも一歩後退る。
「私たちは、あなたの顔も、車も、写真に撮ってます。今すぐ警察を呼んで提出できます」
私は「一一〇」を表示させ、あとは通話を押すのみにしたスマートフォンの画面を突き出した。
「でも、ここにいる犬を開放して、もう二度とパピーミルなんてしないと誓うなら、画像を消去してもいいです」
犬の遺棄は大した罪にならないと聞いた。すぐに釈放されて商売を続けられてしまうのなら、罪に問えなくてもいいと思った。
オバサンは黙っている。俯いていて、表情が見えない。迷っているのだろうか。五十代だとしたら、母よりも年上だ。高校、大学生くらいの子供がいるかもしれない。
「こんなことをして稼いだお金じゃ、あなたの子供は絶対に喜びません」
犬の命を引き換えにしたお金。
橋の上から石を投げていた自分を思い出した。どうして私は、すぐに謝りに行けなかったんだろう。当たり所が悪ければ、死なせてしまったかもしれない。クラスで嘘をついたときだってそうだ。私は自分のことばかり考えていた。
私も、変わらなきゃいけない。
「私のお母さんがこんなことをしていたら、恥ずかしいし、悲しいです。考え直してください」
オバサンが顔を上げた。ボサボサのパーマ髪に半分隠れた目は血走っていて、こめかみには血管が浮いていた。
迷っていたのではなく、静かに怒っていたようだ。
「黙って聞いていればいい気になって」
突然オバサンは走ってきた。私たちもすぐに反応して逃げる。あまりに急だったので、スタートが遅れてしまった。まさか大丈夫だと思うけど、追いつかれたら、あの大きなシャベルで殴られるかもしれない。そうしたら大怪我を……。
頭を一振りして嫌な考えを払い、足の速い涼子の背中を追いかけた。
「あっ」
何かに躓いたと思った瞬間、地面に倒れ込んでいた。さっき投げ捨てたシャッター棒に足を取られてしまった。
上半身を起こすと、地面に大きな影が広がっていた。振り向くとオバサンがシャベルを振り上げているところだった。
「うるさいんだよっ」
視界の端でシャベルが振り下ろされているのが見えた。私は頭を抱えて目を閉じ、歯を食いしばった。
ガンという金属音が頭上で響いた。
「美央、立って! 警察に電話」
顔を上げると、涼子がシャッター棒で、シャベルを受け止めていた。まるで剣士のようだ。
「涼子ありがとう!」
「いいから電話!」
私は転んだ拍子に落としてしまったスマートフォンを拾い、警察に電話をした。
「人を傷つけた罪は、犬とは比較になりませんよ」
涼子はシャベルを受け流して、持っている棒を構え直した。
「ここにいても家に帰っても警察に捕まるだろうけど、家には警察が来る前に処分したいものがあるんじゃないの?」
オバサンはしばらく涼子を睨んでいたけれど、シャベルを捨てると軽自動車に乗り込んで走り去った。
「ごめん涼子。今日はずっとありがとう」
私は涼子に抱きついた。涼子は私の頭を撫でてくれた。
「警察は?」
「すぐ来るって」
「ああ、血が出てるよ。手を出して」
転んだ時に、両手と膝を擦りむいていた。涼子はボシェットからペットボトルの水を出して、土を洗い流してくれた。
「警察が来る前に処分したいものって、なに?」
私が尋ねると、涼子は珍しく、ニッと意地悪そうな表情で笑った。
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