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【完結】遺棄事件と見えないドア21
しおりを挟む私の部屋で、涼子とささやかながら、私の登校祝いをした。犬遺棄の犯人が逮捕されたので、「犬殺し」の汚名は返上された。飼い犬に怪我をさせてしまったクラスメートにも、改めて心から謝罪した。
「引き取った犬、人間不信なんでしょ」
山口さんに提案されたトイ・プードルは、親の許可を得て引き取りに行った。今は居間にいる一歳のトイ・プードルは、人を見るだけで失禁し、餌を与えようとすると吐いてしまう。あんな地獄のような場所にいれば無理もないと思う。大事に育ててあげたい。
「山口さんが私に預けた理由が、なんとなく分るんだ」
田舎に来た自分を、悲劇のヒロインだと思っていた。東京の友人から引き裂いた親は悪役、気の合わないクラスメートも敵だった。そう思っているうちは、それが真実になってしまうんだ。
自分が変わらなきゃ、何も始まらない。
トイ・プードルの周囲は、今は敵だらけだろう。餌をくれる私も母も、敵に見えるに違いない。だけど、周りを信じたり、気を許したりして、だんだん景色が変わってくる。
涼子が、私の景色を変えてくれた。
「毎日、通ってくれた涼子のおかげだよ。ありがとう」
涼子は照れくさそうに頬を赤らめて、首を横に振った。紅茶色の細い髪が揺れる。
「わたしはただ、美央と仲良くなりたかっただけだよ。……それに」
「それに?」
テーブルにあるお菓子に伸ばしかけていた手を止めた。
「美央は、わたしに似てるんだ」
「え、どこが?」
私は黙っていると不機嫌そうだと言われるし、口を開けば可愛げがないと言われた。涼子とまるで正反対だった。
「小学六年生の時、わたしも東京から引っ越してきたの。正直、田舎すぎてイライラしたよ。わたしはここにいるべき人間じゃない、みたいなね。だからクラスに馴染めなかったし、いじめられた」
「涼子が?」
うんと肯いて、オレンジジュースで唇を湿らせた。
「あなたたちとは違うんだ、って突っ張ってると、誰にも頼らないでしょ。なんでも完璧にこなそうとするし、人を寄せ付けない。そういうとこ美央と一緒だよね」
そうかも。
「隙があったほうが、みんな安心するし、好きになってくれるんだなってその時学んだの。この口調は、その時にクセになっちゃった」
涼子は苦笑した。
私は目を見張った。クラスの人気者にしか見えないのに、涼子も苦労してたんだ。ぜんぜん気づかなかった。
「だから美央のこと放っておけなかったし、絶対気が合うなって思ってた。腹黒同士だよ」
ふふっと涼子は笑った。
「そうだ、中学生の少女がお手柄だって記事になってたよ。読んだ?」
涼子はスマートフォンをいじって、記事を表示させる。私たちの名前や写真こそ載っていなかったけれど、埼玉県の女子中学生と書いてあり、見る人が見れば私たちだって、分かるかもしれない。
「もう町中の噂になってるよ。悪い噂も良い噂も、広がるのが早いんだ」
「どうやって広がってるんだろうね」
「町中の家が、糸電話で繋がってるんじゃないの」
私たちはクスクスと笑う。
「トイ・プードルの名前、決めた?」
「うん。毛が栗色だから、マロン」
「安直」
涼子はあきれたような表情でジュースを飲んでから、表情を改めた。
「マロンも試練に乗り越えられるよ。わたしや美央にできたんだから」
「うん。マロンには私と涼子がついてるしね」
涼子は輝くような笑顔を浮かべて、窓に目を向けた。つられて私も外を見ると、薄くなっていた雲の間から光が差し込んでいた。
了
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