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三章 央都也の居場所
三章 央都也の居場所 その8
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気がつくと埃臭い暗い部屋で、央都也は仰向けになっていた。
目の前にはカッターの刃があり、ビクリと身体を震わせる。
(そうだ、ぼくは幽霊に記憶を見せられていたんだ。この人形たちも幻だったらよかったのに)
人形を刺激しないよう、そっと顔を反らした。視界からカッターがなくなっただけでも緊張感が違った。
すると、スマホの画面にコメントが流れているのが目に入った。
《ペケくんが人形に襲われてる!》
《幽霊が人形を動かしてるっぽい》
《助けないとマジでやばい》
《っていっても、どこにいるんだよ》
《霊が四体見える。五年前に未成年が四人死亡した事件を探せば、場所がわかるんじゃないか。そのうちの一人は未就学生だと思われる》
これは雄誠の書き込みだ。霊がはっきりと見えているようだ。
《それって、いっぺんに死んだのかな? 全然関係ない浮遊霊が紛れ込んだり、後追いみたいなものがあったりしない?》
《そういうことも考慮して調べるしかないね》
央都也は琥珀色の瞳を瞬かせた。
(みんなが、ぼくを探してくれてる……?)
――さて、どうだった?
太い男の声の方向に、央都也はゆっくりと顔を向けた。一番体格のいいシルエットの霊がしゃべっている。彼がマサルだろう。幸い、カッターを持ったフランス人形は央都也から離れていた。
(どうだと言われても)
マサルが諸悪の根源としか思えない。
――な、オレたちは似た者同士だろ?
どこがだよ、と言いたいのをこらえた。いや、声にしないことに意味があるのか。この幽霊たちには、央都也の考えを見透かしている気がする。
――おまえも、あの親のもとに生まれていなければと、ずっと思っていただろう。
央都也はハッとした。
「おまえらの育て方が悪ぃんだろ。責任取れ!」
見せられた記憶の中で、マサルはそう言っていた。
央都也も、別の親に育てられていたら人生が変わっていたかもしれないと思ったことは、一度や二度ではない。
(まさか。ぼくがこいつと同じなわけがない)
央都也は暴力的になったこともないし、誰かを物理的に傷つけたこともない。
(ぼくはマサルとは違う)
……本当に、そう言い切れるだろうか?
マサルがどんな家庭環境に育ったのかはわからない。
ただ一つ言えるのは、マサルが別の親に育てられていれば、別の人格が形成されていた可能性があるということだ。
それはつまり、央都也がマサルの両親の元に生まれていたら、マサルのようになっていた可能性もあるということだろう。
家庭環境に不満があったのは、央都也もマサルも共通している。
央都也は誰とも関わらないことで、人生に安寧を求めた。
マサルは力でねじ伏せ、敵を排除することで、安寧を得られたのではないか。
そう考えれば、行動のベクトルが違っただけで、二人は似た境遇だと言えるのかもしれない。
――ほらな、おまえもオレたち側の人間なんだよ。
マサルが笑う。
――私は家に居場所がなかった。
髪の長い女性の霊が言う。
――私の父はアル中だった。飲むと必ず暴力をふるった。父にDVを受けた母は、腹いせに更に私を殴った。私の身体から痣が消えることはなかった。
央都也は眉をひそめる。
――ある日、暴れる父を近くにあった酒瓶で殴って逃げた。家に帰ったら殺されると思った。だから帰る家がなかったの。
フランス人形の手が、央都也の顔を、首をなでまわす。
――私たちは似た者同士。あなたはマサルの王国に来る資格があるわ。
(そうかもしれない)
央都也は誰も信じられず、一人で生きていく道を選んだ。
彼らは同じ境遇の者で集まった。
いままで央都也の傍には似た境遇の者がいなかっただけで、マサルの家が近くにあれば仲間に加わっていたかもしれない。
一人でいるよりも、仲間といたほうが安らぐのかもしれない。
傷の舐めあいでもいいのだ。むしろ同じ痛みを知った者で慰め合えばいいのだ。
――改めて、オレの王国をここに築こうと思っている。霊の数が集まれば力も強くなる。共鳴した仲間を増やすことができるだろう。
――あなたも仲間になるでしょ、央都也。
(……それも、いいかもな)
元々長生きしたいと思っていなかった。
最近、人を信じてもいいかもしれないと思った矢先に、兄に裏切られた。
この先、生きていればまた人を信じようと血迷うことがあるかもしれない。
そして央都也はまた傷つく。
きっと、それを何度も何度も繰り返すのだ。
(もう、いいや)
目の前にはカッターの刃があり、ビクリと身体を震わせる。
(そうだ、ぼくは幽霊に記憶を見せられていたんだ。この人形たちも幻だったらよかったのに)
人形を刺激しないよう、そっと顔を反らした。視界からカッターがなくなっただけでも緊張感が違った。
すると、スマホの画面にコメントが流れているのが目に入った。
《ペケくんが人形に襲われてる!》
《幽霊が人形を動かしてるっぽい》
《助けないとマジでやばい》
《っていっても、どこにいるんだよ》
《霊が四体見える。五年前に未成年が四人死亡した事件を探せば、場所がわかるんじゃないか。そのうちの一人は未就学生だと思われる》
これは雄誠の書き込みだ。霊がはっきりと見えているようだ。
《それって、いっぺんに死んだのかな? 全然関係ない浮遊霊が紛れ込んだり、後追いみたいなものがあったりしない?》
《そういうことも考慮して調べるしかないね》
央都也は琥珀色の瞳を瞬かせた。
(みんなが、ぼくを探してくれてる……?)
――さて、どうだった?
太い男の声の方向に、央都也はゆっくりと顔を向けた。一番体格のいいシルエットの霊がしゃべっている。彼がマサルだろう。幸い、カッターを持ったフランス人形は央都也から離れていた。
(どうだと言われても)
マサルが諸悪の根源としか思えない。
――な、オレたちは似た者同士だろ?
どこがだよ、と言いたいのをこらえた。いや、声にしないことに意味があるのか。この幽霊たちには、央都也の考えを見透かしている気がする。
――おまえも、あの親のもとに生まれていなければと、ずっと思っていただろう。
央都也はハッとした。
「おまえらの育て方が悪ぃんだろ。責任取れ!」
見せられた記憶の中で、マサルはそう言っていた。
央都也も、別の親に育てられていたら人生が変わっていたかもしれないと思ったことは、一度や二度ではない。
(まさか。ぼくがこいつと同じなわけがない)
央都也は暴力的になったこともないし、誰かを物理的に傷つけたこともない。
(ぼくはマサルとは違う)
……本当に、そう言い切れるだろうか?
マサルがどんな家庭環境に育ったのかはわからない。
ただ一つ言えるのは、マサルが別の親に育てられていれば、別の人格が形成されていた可能性があるということだ。
それはつまり、央都也がマサルの両親の元に生まれていたら、マサルのようになっていた可能性もあるということだろう。
家庭環境に不満があったのは、央都也もマサルも共通している。
央都也は誰とも関わらないことで、人生に安寧を求めた。
マサルは力でねじ伏せ、敵を排除することで、安寧を得られたのではないか。
そう考えれば、行動のベクトルが違っただけで、二人は似た境遇だと言えるのかもしれない。
――ほらな、おまえもオレたち側の人間なんだよ。
マサルが笑う。
――私は家に居場所がなかった。
髪の長い女性の霊が言う。
――私の父はアル中だった。飲むと必ず暴力をふるった。父にDVを受けた母は、腹いせに更に私を殴った。私の身体から痣が消えることはなかった。
央都也は眉をひそめる。
――ある日、暴れる父を近くにあった酒瓶で殴って逃げた。家に帰ったら殺されると思った。だから帰る家がなかったの。
フランス人形の手が、央都也の顔を、首をなでまわす。
――私たちは似た者同士。あなたはマサルの王国に来る資格があるわ。
(そうかもしれない)
央都也は誰も信じられず、一人で生きていく道を選んだ。
彼らは同じ境遇の者で集まった。
いままで央都也の傍には似た境遇の者がいなかっただけで、マサルの家が近くにあれば仲間に加わっていたかもしれない。
一人でいるよりも、仲間といたほうが安らぐのかもしれない。
傷の舐めあいでもいいのだ。むしろ同じ痛みを知った者で慰め合えばいいのだ。
――改めて、オレの王国をここに築こうと思っている。霊の数が集まれば力も強くなる。共鳴した仲間を増やすことができるだろう。
――あなたも仲間になるでしょ、央都也。
(……それも、いいかもな)
元々長生きしたいと思っていなかった。
最近、人を信じてもいいかもしれないと思った矢先に、兄に裏切られた。
この先、生きていればまた人を信じようと血迷うことがあるかもしれない。
そして央都也はまた傷つく。
きっと、それを何度も何度も繰り返すのだ。
(もう、いいや)
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