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三章 央都也の居場所
三章 央都也の居場所 その9
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最近、人を信じてもいいかもしれないと思った矢先に、兄に裏切られた。
この先、生きていればまた人を信じようと血迷うことがあるかもしれない。
そして央都也はまた傷つく。
きっと、それを何度も何度も繰り返すのだ。
(もう、いいや)
積極的に死にたいと思っていなかっただけで、積極的に生きたいとも思っていなかった。そんなに仲間になってほしいなら、なってやってもいい。
(ぼくのことが、そんなに欲しいならさ)
央都也は考える気力がなくなっていた。
首を倒すと、発光する小さな画面が目に入った。
《もう人海戦術しかないでしょ。これだけ視聴者がいるんだから》
《とにかくペケくんを見つけないと!》
《五年前の殺人事件なら、聞きまわれば誰か覚えてるって》
《家の外観だって映ってただろ》
(……まだ探してくれてたんだ)
視聴者たちは諦めていなかった。
濁っていた央都也の瞳に、スマートフォンの明かりが差し込んだ。暗闇で開いていた瞳孔が、その光で元の大きさに縮む。
《頼むから、早まらないでくれ。俺の話を聞いてくれ。俺から大切な弟を奪わないでくれ》
投稿者は“Xの兄”だ。
(兄さん……)
ダイレクトメールを見た央都也は、頭に血がのぼって、心が凍り付いて、絶望して、すぐに雄誠を拒んでしまった。
青山桜子の文章は簡潔で、読み間違いや誤解をするような内容ではなかった。しかし雄誠の話を聞いてもよかったかもしれない。
《読んでいるか。助けに行くから、俺を信じて待っていてくれ。死なないでくれ。諦めないでくれ。頼むから》
雄誠が何度も書き込んでいる。
雄誠に裏切られたと思ったのは本当だ。
だが雄誠から離れることで、愛情を確かめたかったのかもしれない。
家出をして、母親の愛を確かめる子供のように。
兄が自分に隠しごとをし、自分の知らない面があることを知ったことで、拗ねただけなのだ。
自立をしているつもりだったのに、これでは完全に兄に依存しているではないか。
央都也はただ、兄を祝福すればよかっただけだ。
(兄さん、ごめん)
諦めてはいけない。
兄は、視聴者のみんなは、必死に央都也を探している。
本人が先に諦めてどうするのか。
生配信の画面は生きている。もっとみんなに場所を特定できるヒントを与えられたら――。
しかし央都也は動けないし、映っている背景は窓だけだ。
窓の外に、なにか目印になる建物はないだろうか。
央都也は閃いた気がした。
わからないが、試す価値はあるかもしれない。むしろそこにしか望みはない。
央都也は右腕に力を込めた。
(動け……動け!)
右腕が震える。少しだけ腕が動いた。全く動かないわけではないようだ。希望が湧いてくる。
歯を食いしばって、央都也は渾身の力で頭上に腕を伸ばした。
その手が垂れ下がったカーテンを掴む。
央都也は思いきりカーテンを引っ張った。もろくなったカーテンがレールから外れて落ちた。盛大に埃が舞った。
窓の外には、なにがあるんだ。
央都也はむせながらも、期待して窓を見た。
「あっ……」
……窓越しの暗闇には、ぽっかりと満月が輝いていた。
(月、だけ)
央都也は力が抜けた。これではなんのヒントにもならないではないか。
もう手の届く範囲で、できることはなにもない。
(どうすればいいんだ、兄さん)
――これ、邪魔だな。
クマがスマートフォンを蹴り飛ばした。
この先、生きていればまた人を信じようと血迷うことがあるかもしれない。
そして央都也はまた傷つく。
きっと、それを何度も何度も繰り返すのだ。
(もう、いいや)
積極的に死にたいと思っていなかっただけで、積極的に生きたいとも思っていなかった。そんなに仲間になってほしいなら、なってやってもいい。
(ぼくのことが、そんなに欲しいならさ)
央都也は考える気力がなくなっていた。
首を倒すと、発光する小さな画面が目に入った。
《もう人海戦術しかないでしょ。これだけ視聴者がいるんだから》
《とにかくペケくんを見つけないと!》
《五年前の殺人事件なら、聞きまわれば誰か覚えてるって》
《家の外観だって映ってただろ》
(……まだ探してくれてたんだ)
視聴者たちは諦めていなかった。
濁っていた央都也の瞳に、スマートフォンの明かりが差し込んだ。暗闇で開いていた瞳孔が、その光で元の大きさに縮む。
《頼むから、早まらないでくれ。俺の話を聞いてくれ。俺から大切な弟を奪わないでくれ》
投稿者は“Xの兄”だ。
(兄さん……)
ダイレクトメールを見た央都也は、頭に血がのぼって、心が凍り付いて、絶望して、すぐに雄誠を拒んでしまった。
青山桜子の文章は簡潔で、読み間違いや誤解をするような内容ではなかった。しかし雄誠の話を聞いてもよかったかもしれない。
《読んでいるか。助けに行くから、俺を信じて待っていてくれ。死なないでくれ。諦めないでくれ。頼むから》
雄誠が何度も書き込んでいる。
雄誠に裏切られたと思ったのは本当だ。
だが雄誠から離れることで、愛情を確かめたかったのかもしれない。
家出をして、母親の愛を確かめる子供のように。
兄が自分に隠しごとをし、自分の知らない面があることを知ったことで、拗ねただけなのだ。
自立をしているつもりだったのに、これでは完全に兄に依存しているではないか。
央都也はただ、兄を祝福すればよかっただけだ。
(兄さん、ごめん)
諦めてはいけない。
兄は、視聴者のみんなは、必死に央都也を探している。
本人が先に諦めてどうするのか。
生配信の画面は生きている。もっとみんなに場所を特定できるヒントを与えられたら――。
しかし央都也は動けないし、映っている背景は窓だけだ。
窓の外に、なにか目印になる建物はないだろうか。
央都也は閃いた気がした。
わからないが、試す価値はあるかもしれない。むしろそこにしか望みはない。
央都也は右腕に力を込めた。
(動け……動け!)
右腕が震える。少しだけ腕が動いた。全く動かないわけではないようだ。希望が湧いてくる。
歯を食いしばって、央都也は渾身の力で頭上に腕を伸ばした。
その手が垂れ下がったカーテンを掴む。
央都也は思いきりカーテンを引っ張った。もろくなったカーテンがレールから外れて落ちた。盛大に埃が舞った。
窓の外には、なにがあるんだ。
央都也はむせながらも、期待して窓を見た。
「あっ……」
……窓越しの暗闇には、ぽっかりと満月が輝いていた。
(月、だけ)
央都也は力が抜けた。これではなんのヒントにもならないではないか。
もう手の届く範囲で、できることはなにもない。
(どうすればいいんだ、兄さん)
――これ、邪魔だな。
クマがスマートフォンを蹴り飛ばした。
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