海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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序章 仮面舞踏会

仮面舞踏会 1

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 髑髏と目が合った。
 厳密には、「眼帯をした髑髏」の仮面をかぶった何者かに。

 十四歳のアレクサンドラ・ヴァローズは、島国のオルレニア王国に来ていた。
 十七歳の若き王太子の婚礼を祝して、大規模な仮面舞踏会が催されている。各国の要人が祝いにかけつけているため、ドミール帝国からは海軍大佐であるアレクサンドラの父が要人の護衛のために参加した。
 軍人に憧れて父の背中を追っているアレクサンドラは、父に無理を言って一週間の船旅に同行していた。
 仮面舞踏会といえば、誰がどんな格好で紛れているのかわからず、事件に発展することもあり得る。父の仕事が山場を迎えるこの場所では、アレクサンドラは足手まといだ。そこで別行動をし、最低限の目元を隠すマスクをして物見遊山を決めこんでいた。仮装はせずに、サテンの赤いドレスを着ている。
壁際に盛られた料理の山の数々と、それを照らす何千何万もの蝋燭。ワインを運ぶ給仕たちに、楽士たちの演奏にのって踊る仮面をつけた紳士淑女。白塗りの道化が滑稽なパフォーマンスをし、妖精が可憐に舞う。
「王太子様が仮面舞踏会好きと聞いているけど、私の国より賑やかなパーティーね」
 物珍しげに見て回っていたアレクサンドラは、視線を感じて足を止めた。
「……っ!」
 その人物を見てギョッとする。
 足先まで隠す黒いローブを着て、頭蓋骨のような不気味なマスクを首まですっぽりと被っている。人外の扮装をする者は多いが、祝いの席で髑髏を被るような者はほかにいない。
 その窪んだ暗い眼窩が、こちらをじっと見ている。
 同年代の女子の中では長身のアレクサンドラだが、髑髏の方がもう少し背が高い。その身体つきは細身で、同じ年くらいの男の子だと思われた。
「なぜ踊らないの?」
 髑髏がしゃべった。
 予想していたよりも声は高く、透明感があった。
「女性パートを踊らないといけないから」
 だからダンスに誘われても断っていた。
「君は女の子だから当然だろ」
 髑髏は不思議そうに小首をかしげた。耳にたこができそうなその言葉に、アレクサンドラはやれやれと首を振った。
「女性はドレスを着て淑やかにしなきゃいけないって、誰が決めたんだろうね」
 アレクサンドラは男女の扱いの違いが不満だった。
 彼女はストレートで美しいブルネットの髪を背中まで伸ばし、意志の強そうな大きなダークグリーンの瞳が印象的な美少女だ。少女だとわかるのは髪型や服装からで、相貌だけ見れば中性的だった。
 現に、父や兄たちと剣の稽古をするときには男女の差がない乗馬服を着て、髪も首の後ろで結うので、よく男の子と間違われた。
「君はよく裏庭で剣の稽古をしていたよね。男の子だと思っていたから、ドレスを着ているのを見て驚いたんだ」
「見られてたんだ」
 アレクサンドラは少しばつが悪くなる。
 男のような格好は人には見られないようにと家族に注意されている。他国に来てまで剣の稽古かと父に呆れられてもいた。
 しかも一応マスクをしているというのに、同一人物だとあっさり見抜かれてしまった。
「私は軍人になりたいんだ。特に、父のように海軍に入りたい。だから強くならなきゃいけない」
「なぜ海軍なの?」
「海が好きだから」
 アレクサンドラがまだ物心ついたばかりのころ、父親が軍艦に乗せてくれた。一瞬で、見渡す限り海に囲まれたその景色の虜になった。
 しかしその後、女性が軍人になる厳しさを思い知ることになる。女性に生まれた自分を恨みもしたが、悔やんでいるだけでは物事は進まない。
 だからアレクサンドラは、軍人になるために努力することに決めたのだ。
「女だけ海に出られないなんておかしい。私は平等に扱ってほしいだけ」
 ドレスはその逆恨みで好きではないのだった。
「君っておもしろいね」
「変わり者だって、よくいわれるよ」
 アレクサンドラは肩をすくめた。
「じゃあ、来て」
 髑髏は黒い手袋をはめた手でアレクサンドラの手首を掴み、大股で歩きだした。手袋越しの手は骨ばっていて大きい。
「えっ、ちょっと」
 アレクサンドラは突然のことに驚いて手を振りほどこうと抵抗してみたが、意外にも髑髏の力は強かった。慣れないヒールでバランスを崩しそうになる。せめて転ばないよう、アレクサンドラはドレスの裾を持ち上げた。
「あなたは誰? どこに行くの?」
 そういえば、お互い自己紹介をしていなかった。
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