海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

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一章 旅立ち

旅立ち 4

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 一方で、胸の高鳴りも感じる。
 ――憧れの海に出られる。
そう思い至れば決断は早かった。
 アレクサンドラは敬礼した。
「全力を尽くします、閣下」
 海軍卿はにわかに瞠目した。アレクサンドラが受けると思っていなかったのだろう。
「本当にいいのか中尉」
「はい」
 現場に出たいと頼もうと思っていたのだから、手間が省けたというものだ。それに海賊を捕まえることができれば人助けになり、出世の道もあるだろう。
 アレクサンドラは呼吸を整えて、海軍卿を真っすぐに見つめた。確認しなければならないことがある。
「失礼ながら閣下、お聞きしてもよろしいでしょうか」
 敬礼したままのアレクサンドラに、海軍卿は先を促した。
「我が国の友好国である、オルレニア王国への進攻準備をしているというのは本当でしょうか?」
「どこからの情報だ」
 海軍卿の声が一段低くなった。
「噂です、閣下」
「二度と口にするな」
「はい閣下。失礼いたしました」
 決して口調を荒げたわけではないが、海軍卿の威圧感にそれ以上踏み込めず、アレクサンドラは退室した。
「……否定はしなかったな」
 廊下を歩くアレクサンドラの胸に、暗い染みが広がった。
 それに、海軍卿にはもうひとつ聞きたいことがあったのだが、あの流れではとても発言できなかった。
 海賊島への任務は、誰がアレクサンドラを指名したのだろうか。

 自室に戻ったアレクサンドラは、旅立ちの準備のため荷物を鞄に詰めていた。といっても複雑な心境だった。
「海賊、か」
 正義を背負っていたはずなのに、正反対の立場になる日が来るとは。上手く海賊団に潜り込めたとしたら、自分も悪に手を染めなければならないだろう。想像するだに恐ろしい。
「海賊にも女性はいないのだろうな」
 アレクサンドラが海軍で厄介者扱いされているのは、女性を船に乗せたがらない者が多いからだ。女性が船に乗ると海の女神が怒ると言われている。
海賊も縁起を担ぐ者が多いに違いない。女性海賊も皆無ではないので、ロバート海賊団がそうかはわからないが、女人禁制である可能性がある。男装をした方がいいだろう。
 常に軍服を着ていたため、今でもアレクサンドラは男性に間違われていた。たいてい相手はアレクサンドラの身体のラインで女性だと気付くのだが、ならばこの女性特有の凹凸を消してしまえば、顔だけならどちらとも言えないはずだとアレクサンドラは考える。
「よし、試してみるか」
 長い晒しを用意して胸を潰し、逆にウエストのくびれには布を入れてから晒しを巻いた。肩の位置には内側から肩パットを入れた。服を着てから腰に布を巻き付ければヒップラインもカバーできる。身長だって、アレクサンドラより低い軍人はいくらでもいた。
「うん、いい感じだ」
 声も若干低めに発声する。元々アレクサンドラの声は高くないので、声で見破られることもないだろう。
 少なくてもアレクサンドラの目には男に見えた。念のために街に出て、周囲の反応を確かめてみようと思う。
「髪も切ったほうがいいだろうな」
 アレクサンドラは腰まであるブルネットの髪をさらりとなでた。
 男性にも長髪はいるが、逆に短髪の女性はほぼいなかった。無難に短く切ったほうが安全だ。
 髪をとかしてハサミを掴むと、途端に髪を切るのが惜しくなる。
「不思議なものだ、あんなに女であることが嫌だったのに」
 嫌だったのは、女性だからと周囲の者たちと同等に扱われなかったことに対してだ。“女性性”が嫌だったわけではない。
 夫の功績が評価され、夫の肩書として呼ばれる夫人ではなく、自分の人生を切り開く生き方をしたかった。それが女性ではできないことが歯がゆかっただけなのだ。
 そのとき、廊下を走る足音が近づいてきた。
「アレックス!」
 ドアが壁にぶつかる勢いで制服姿のエドワードが部屋に入って来た。長い距離を走ってきたのか、若干息が乱れている。制帽もずれていた。
「エド、どうしたの?」
 突然のことにアレクサンドラは驚いた。いつも紳士的なエドワードが、女性の部屋にノックもせずに入ってくるなど考えられない事態だった。
 
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