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三章 無血の海賊王
無血の海賊王 1
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朝六時に、ロバート海賊団のガレー船・フォーチュン号の甲板に集合して清掃。約八十人の乗組員を三班に分け、そのうちの一班は備蓄や買いだしなどを行い、見張りのためにそのまま船に泊まる。残りの二班は昼前に解散し、翌朝六時まで自由行動。つまり、三日に一回船付きの当番が回ってくるだけで、午後はほぼ自由だった。
アレクサンドラはロバートの一日の行動を見張ろうと数日ついて回ってみたが、他の乗組員と共に船の雑用をしているか、酒場で飲んで騒いでいるかだった。そして夜には副船長のネイサンや船医などと共に船長室で寝ているようだ。船はどの部屋も出入り自由だが、船長室だけは鍵がかかり、勝手に入ることは許されていない。
アレクサンドラが入団して一週間以上、平穏なルーティンが続いていた。
「海に出てこそ海賊じゃないの? だらだらして、どうやって稼ぐというんだ」
アレクサンドラは地団太を踏んだ。
暇を持て余したアレクサンドラとエドワードは海賊団たちと酒場で飲んで、四階の宿屋の部屋に戻ってきた。海賊たちはうわばみが多く、アレクサンドラは薄めた酒に口をつけて時間をかせぐつもりが、いつもつられて飲み過ぎてしまう。
「海戦行為をしたくてうずうずしているようだな。一端の海賊らしくなってきたじゃないか」
「からかわないでっ」
腕枕でベッドに横になっているエドワードを横目に、アレクサンドラは部屋をうろうろと歩き回っている。
「やることがないなら寝ればいい」
「私はまだ眠たくない。お先にどうぞ」
アレクサンドラは動きをとめた。肩に力が入ってしまう。
「アレックス、寝不足だろ。だからイライラするんだ」
確かにこの島に来てからというもの、アレクサンドラはろくに眠っていなかった。しかしそれを認めたくなくて、アレクサンドラはむきになった。
「イライラなんてしてない」
「そうか」
「あっ」
エドワードが上半身を起こしたかと思うと、アレックスの腕を取って引き寄せた。二人は同じベッドに腰掛けることになる。
「な、なに、なにを……」
「俺がおまえに、なにかすると思っているのか」
アレクサンドラの顔が真っ赤になった。
「そ、そんなこと……っ」
「嫁いで来い」と言ったエドワードの言葉が本心だと知ってから、アレクサンドラはエドワードに対して、どう接すればいいのかわらなくなっていた。こうして二人きりになると、意識しすぎて身体が強張る。以前のように自然体で接することが出来なくなっていた。
正直に言えば、エドワードが少し怖かった。そんな自分に苛立ちもある。いろんな感情が混ざって、混乱している。
「俺を意識して、眠れない?」
アレクサンドラの滑らかな頬を、エドワードの大きな手が包む。その右手には、まだ包帯が巻かれていた。
「ちがっ……」
限界まで頬を赤らめて目を白黒させているアレクサンドラは、上手く言葉を出せずに、ただ口をパクパクとさせた。エドワードの顔が伏せられてその額が肩に触れると、アレクサンドラの緊張はピークに達する。
エドワードの頭がかすかに震えだした。そのうち全身が揺れ始め、「ククク」と笑い声まで聞こえてくる。笑いを堪えていたのだとわかり、アレクサンドラは眉をつり上げた。
「なにがおかしいっ」
「告白をしてからも僅かばかりも意識されずに、俺が胸を痛めていたのと同じ期間、放っておこうと思っていたんだが。痛々しくなってきたから安心させてやる」
アレクサンドラは意味がわからず、固まったまま眉を寄せた。
「はっきりさせておくが、俺はおまえが好きだ。本気で求婚した。だが、その返事は帝国に戻ってからでいい。ここにいる間は、俺たちは男同士だ」
エドワードは冗談めかして笑う。
「だから肩の力を抜けよ」
女性らしい細い肩をエドワードの手がすっぽりと包む。そのまま緊張を解すように指を動かすと、アレクサンドラの身体から力が抜けていった。
「……ありがとう、エド」
アレクサンドラは安堵の息を漏らした。低く通るエドワードの声も耳に心地よかった。
「今夜は眠れそうか? 子守唄でも歌ってやろうか」
「すぐにからかうんだから」
アレクサンドラは、エドワードの膝を叩いた。
「ごめん。女性らしい扱いをされ慣れていなくて、頭がぐちゃぐちゃになっていた」
「気づいていなかっただけだと思うが」
「なに?」
「いや」
エドワードは立ち上がって、アレクサンドラの膝裏と背中に腕を回して抱き上げた。
「わっ、エドッ!」
「暴れるな、手の傷が痛む」
アレクサンドラはハッとして大人しくなった。
「素直なやつだ」
エドワードは喉の奥で笑う。
エドワードはアレクサンドラをもう一つのベッドに降ろして靴を脱がせた。優しく足を扱われ、アレクサンドラはドキリとする。
「おまえが望むなら、いくらでもお姫様扱いをしてやるのに」
端正な顔だちと相まって、黙っていると人を寄せ付けない雰囲気を纏うエドワードの鋭い眼光が、アレクサンドラを見つめる時にだけは柔らかい。
「ともあれ、この街にいる間はおまえになにもしないと誓う。安心して眠れ。おやすみ」
「お、おやすみなさい」
去り際、エドワードはアレクサンドラの額に口づけた。
「だからそれまでは、頼むから誰のものにもなってくれるな」
エドワードが耳元で囁いた。その声が苦しそうで、驚いて顔を向けるも、エドワードはすぐに背を向けて表情が見えなかった。隣のベッドに移動し、蝋燭が消えて部屋が暗くなる。
どういうことだろうか。意味がわからない。
アレクサンドラはそっと額に触れた。
エドワードの柔らかい唇の感触と温かさが残っていた。
アレクサンドラはロバートの一日の行動を見張ろうと数日ついて回ってみたが、他の乗組員と共に船の雑用をしているか、酒場で飲んで騒いでいるかだった。そして夜には副船長のネイサンや船医などと共に船長室で寝ているようだ。船はどの部屋も出入り自由だが、船長室だけは鍵がかかり、勝手に入ることは許されていない。
アレクサンドラが入団して一週間以上、平穏なルーティンが続いていた。
「海に出てこそ海賊じゃないの? だらだらして、どうやって稼ぐというんだ」
アレクサンドラは地団太を踏んだ。
暇を持て余したアレクサンドラとエドワードは海賊団たちと酒場で飲んで、四階の宿屋の部屋に戻ってきた。海賊たちはうわばみが多く、アレクサンドラは薄めた酒に口をつけて時間をかせぐつもりが、いつもつられて飲み過ぎてしまう。
「海戦行為をしたくてうずうずしているようだな。一端の海賊らしくなってきたじゃないか」
「からかわないでっ」
腕枕でベッドに横になっているエドワードを横目に、アレクサンドラは部屋をうろうろと歩き回っている。
「やることがないなら寝ればいい」
「私はまだ眠たくない。お先にどうぞ」
アレクサンドラは動きをとめた。肩に力が入ってしまう。
「アレックス、寝不足だろ。だからイライラするんだ」
確かにこの島に来てからというもの、アレクサンドラはろくに眠っていなかった。しかしそれを認めたくなくて、アレクサンドラはむきになった。
「イライラなんてしてない」
「そうか」
「あっ」
エドワードが上半身を起こしたかと思うと、アレックスの腕を取って引き寄せた。二人は同じベッドに腰掛けることになる。
「な、なに、なにを……」
「俺がおまえに、なにかすると思っているのか」
アレクサンドラの顔が真っ赤になった。
「そ、そんなこと……っ」
「嫁いで来い」と言ったエドワードの言葉が本心だと知ってから、アレクサンドラはエドワードに対して、どう接すればいいのかわらなくなっていた。こうして二人きりになると、意識しすぎて身体が強張る。以前のように自然体で接することが出来なくなっていた。
正直に言えば、エドワードが少し怖かった。そんな自分に苛立ちもある。いろんな感情が混ざって、混乱している。
「俺を意識して、眠れない?」
アレクサンドラの滑らかな頬を、エドワードの大きな手が包む。その右手には、まだ包帯が巻かれていた。
「ちがっ……」
限界まで頬を赤らめて目を白黒させているアレクサンドラは、上手く言葉を出せずに、ただ口をパクパクとさせた。エドワードの顔が伏せられてその額が肩に触れると、アレクサンドラの緊張はピークに達する。
エドワードの頭がかすかに震えだした。そのうち全身が揺れ始め、「ククク」と笑い声まで聞こえてくる。笑いを堪えていたのだとわかり、アレクサンドラは眉をつり上げた。
「なにがおかしいっ」
「告白をしてからも僅かばかりも意識されずに、俺が胸を痛めていたのと同じ期間、放っておこうと思っていたんだが。痛々しくなってきたから安心させてやる」
アレクサンドラは意味がわからず、固まったまま眉を寄せた。
「はっきりさせておくが、俺はおまえが好きだ。本気で求婚した。だが、その返事は帝国に戻ってからでいい。ここにいる間は、俺たちは男同士だ」
エドワードは冗談めかして笑う。
「だから肩の力を抜けよ」
女性らしい細い肩をエドワードの手がすっぽりと包む。そのまま緊張を解すように指を動かすと、アレクサンドラの身体から力が抜けていった。
「……ありがとう、エド」
アレクサンドラは安堵の息を漏らした。低く通るエドワードの声も耳に心地よかった。
「今夜は眠れそうか? 子守唄でも歌ってやろうか」
「すぐにからかうんだから」
アレクサンドラは、エドワードの膝を叩いた。
「ごめん。女性らしい扱いをされ慣れていなくて、頭がぐちゃぐちゃになっていた」
「気づいていなかっただけだと思うが」
「なに?」
「いや」
エドワードは立ち上がって、アレクサンドラの膝裏と背中に腕を回して抱き上げた。
「わっ、エドッ!」
「暴れるな、手の傷が痛む」
アレクサンドラはハッとして大人しくなった。
「素直なやつだ」
エドワードは喉の奥で笑う。
エドワードはアレクサンドラをもう一つのベッドに降ろして靴を脱がせた。優しく足を扱われ、アレクサンドラはドキリとする。
「おまえが望むなら、いくらでもお姫様扱いをしてやるのに」
端正な顔だちと相まって、黙っていると人を寄せ付けない雰囲気を纏うエドワードの鋭い眼光が、アレクサンドラを見つめる時にだけは柔らかい。
「ともあれ、この街にいる間はおまえになにもしないと誓う。安心して眠れ。おやすみ」
「お、おやすみなさい」
去り際、エドワードはアレクサンドラの額に口づけた。
「だからそれまでは、頼むから誰のものにもなってくれるな」
エドワードが耳元で囁いた。その声が苦しそうで、驚いて顔を向けるも、エドワードはすぐに背を向けて表情が見えなかった。隣のベッドに移動し、蝋燭が消えて部屋が暗くなる。
どういうことだろうか。意味がわからない。
アレクサンドラはそっと額に触れた。
エドワードの柔らかい唇の感触と温かさが残っていた。
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