海賊王と麗人海軍~海洋恋愛浪漫譚~

じゅん

文字の大きさ
42 / 48
六章 ロバートの過去

ロバートの過去 4

しおりを挟む
 見た目はロバートのはずだが、アレクサンドラは違和感を覚えた。
 なにかが違う。
「あなたは、誰?」
 アレクサンドラがそう言うと、目の前の男性は大きく目を見開いた。
「え、もう気づいちゃったの? まだ一言しか喋ってないし、ちゃんと日焼けしたように化粧をしたのに。おかしいな、そっくりだよね?」
 ロバートもどきが振り返ると、部屋の入り口からもう一人のロバートが現れた。
「ロバートが二人……」
 アレクサンドラはぽかんと口を開けた。
 同じ顏が二つ並ぶ。
 比べてみると、本物のロバートの方が筋肉の厚みがあり肌の色も微妙に違った。なにより醸し出す雰囲気が全く違う。
 ただし、並んでいなければ見抜くのは困難なほど似ていた。
「だから、くだらないことはやめろと言ったんだ。わざわざ呼び出してまですることか」
 片方の眉をつり上げて、ロバートは呆れたと言わんばかりの表情を浮かべている。
「だって、フランシスのお気に入りの子と話したかったんだもの。……君は綺麗な目をしてるね。いい子で安心したよ」
 アレクサンドラに笑いかけ、ロバートもどきは眼帯を外した。
 やっぱりロバートをフランシスと呼んでいる、とアレクサンドラは思った。
「さっき言ったことは本当だよ。彼が僕に泣きながら言っていたんだから。また君に会いたいって」
「泣いてねえよ。ほら忙しいんだろ。もう戻れって」
「久しぶりの兄弟の再会なのに、冷たいじゃないか」
「はいはい、いつもお疲れ兄貴」
 ロバートはぞんざいに兄にハグをした。
「兄弟」
 考えてみれば当たり前のことだった。こんなにそっくりな他人なんてあり得ない。
「僕はウィリアム。よろしくね」
 アレクサンドラはウィリアムに手を取られ、口づけのあいさつをされる。隅々まで磨き尽くされたような柔らかい手で、洗練された所作だった。近づくと、品のいい香りがした。
「フランシスは淋しがり屋だから、優しくしてあげてね」
 ウィリアムは優しい笑みを浮かべた。ロバートと同じ顏のはずなのに、どちらかというと女性的な相貌に映った。
「心配しなくても、ロバートはいつも輪の中心にいる」
 ロバートは人の心を掴む天才だとアレクサンドラは思う。
「周りに人が集まっていても、孤独なこともあるんだよ」
ウィリアムはにっこりと微笑んでから踵を返した。
「さて、僕は窮屈な檻に戻ろうかな。たまには代わってよフランシス」
「やだね」
 ロバートは冗談めかして舌を出した。
「そうだよね。フランシスが勝ち取った自由だもの」
 ウィリアムはロバートを抱きしめた。
「いつも危険なことをさせてすまない、フランシス。今日も無事に会えてよかった」
「なあに、国を背負わされるより、なんぼも楽だよ」
 ウィリアムはロバートの肩を叩き、「今度はゆっくり食事でもしよう」と軽く手をあげて部屋を出ていった。
「……あの」
 アレクサンドラはロバートを見上げた。
 聞きたいことが山のようにあり、なにから尋ねればいいのか、アレクサンドラの頭はまとまらなかった。
「あなたは、まさか……」
 もう答えはひとつしかない。しかし常識がそれを否定する。
「長くなりそうだ。座って話そう」
 ロバートに促されて先ほどの部屋に戻り、二人はソファーに並んで座った。
「名乗るなら、オレはオルレニア王国の諜報組織を束ねるスパイマスター、ってところだ」
「スパイ?」
 アレクサンドラが思っていた言葉と違った。
「おまえと同じだ。ただし規模が違う。こっちは国家予算の二十%を諜報活動につぎ込んでいる」
「国家予算の二十%」
 アレクサンドラの声が裏返った。
 ドミール帝国にも諜報機関はあるはずだが、それほど予算をかけていないだろう。力を入れている軍事費ですらそこまではない。どれほどの規模で、どれほどの人員を割いているのか。
「主要な国の、主要な都市には全てうちの諜報員がいる」
「まさか、各国の機密情報までもが入るというの?」
「だいたいは」
「……ドミール帝国が、この国を襲撃する準備をしていることは?」
「届いている。当然、対策はできている」
 アレクサンドラは瞬きを忘れて、ロバートを見つめていた。
この島国は防衛力がなく、国民の気質も真面目で穏やかという印象があった。資源豊富なこのオルレニア王国を狙っている周辺国は多い。だからこそ、友好国のドミール帝国がいざという時に力になるという、安全保障条約を結んでいた。それを裏切ると聞いて、アレクサンドラは憤ったのだ。
しかし、オルレニア王国の方が上手だった。虎の威を借る狐ならぬ、猫を被った虎だった。
その情報戦を仕切っているのが、ここにいるロバートだというのだ。
「通信手段は?」
「鳩だ。オレは鳥を躾けるのが得意なんだ。ひとりでやってるわけじゃねえけどな」
 確かに四年前も、鳥を躾けるのは得意だと言っていた気がする。
 ロバート海賊団の情報手段は、エドワードと一緒に考えて否定した、伝書鳩が答えだったというわけだ。
「だから帝国の諜報員が二人やってくることは初めからわかっていた。開かれた港だから、諜報員がやってくるのは珍しくない。通常は難癖をつけて関所から入れないし、潜り込んだとしてもすぐに追い返していた」
「それなら、なぜ私たちを海賊団に入れたの?」
「おまえを呼んだのがオレだからだよ。アレックス」
「私を、呼んだ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

処理中です...